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国境での戦い 後編(情報部隊隊長視点)

誰やねんこのおっさんパート再び!

獣騎隊が砦の騎士たちとともに、戦闘が激化している場所へと向かった。

レスは別れる前に、うちの子たちをお願いしますと言って、数種類の動物を預けていった。

うちの子と言うあたりが、ダンと同類なんだなぁって感じさせる。


俺たちの任務は、この軍隊もどきを指揮している人物をつきとめることだ。

闇夜に紛れて進行するが、戦闘の音が凄まじい。

()れた魔法がこちらに飛んでこないとも限らない。


「注意して動けよ」


戦闘が激しい場所を通りすぎ、さらに奥の野営地を目指す。

ランドウルフが先行しているので、敵に見つからずに行くことができた。


「お前たち、お利口だな。誰かさんたちとは大違いだ」


敵がいたとしても、素早く群れで排除してしまうランドウルフたちを褒めていると、部下たちが文句を言い始めた。


「誰かさんの教育が悪いからじゃないですかね?」


「そうだよなぁ。誰かさんの無茶についていくのも大変だもんなぁ」


ほんと、好き勝手言ってくれるじゃねぇか。

もう少し、上司として敬ってくれてもいいんじゃねぇの?

そういや、あの馬鹿真面目なあいつ、今頃どうしているかね。

あいつだけは、俺に小言を言いつつも、ちゃんと敬ってくれていたな。

まぁ、いい。

風の精霊の情報によれば、もう少し先に人が集まっている場所があるらしい。

上手く中に忍び込んで、ある程度の戦力を無力化しておかないとな。

前回の任務で、俺の精霊術師としての力は底をついた。

しかし、ヴィルヘルト殿下のご配慮で、聖獣様に懐いている風の精霊をつけていただけることになった。

聖獣の契約者は神様から与えられた力を、精霊に分けることによって使役することができる。

なので、風の精霊に何かを頼めば、それに必要な力を殿下から分け与えられる。

力を失う前よりも、より大きな力を用いることができるようになってしまったのは、正直頭が痛い。

道を間違えれば、即、堕落者になってしまうだろう。


「隊長、見えてきました」


照明の魔道具がいくつか設置してあり、大型天幕が浮かび上がっている。


「まずは周囲の警備体制を調べよう。それが終わったら、エヴァンスとリナリーは難民を装って近づけ」


リナリーはイクゥ国に潜入していた際、俺の妻役をしていた部下だ。

エヴァンスもイクゥ国に潜入していたので、何か聞かれても、怪しまれるような受け答えはしないだろう。

変装用の衣服を用意しておいてよかった。


偵察の結果、ここの警備は穴だらけだった。

複数の国の軍人、騎士が集まっていると言っても、同じ国の者同士で固まっているからだ。

こんな状況じゃ、お互いを信用できないのかもしれないが、国を守っていた者たちとは思えない。


「あのイクゥが集まっている付近だな。さて、エヴァンス、リナリー、準備はいいか?」


「いつでもどうぞ」


と言うわりには何か違うんだよなぁ。

こんな綺麗な難民がいるかよ。


「よし、地面に転がれ。たっぷりと汚れろよ」


つい、ニヤニヤしてしまうと、二人は嫌そうにしながらも転がった。

十分に汚れると、今度は動物を扱える部下に指示を与える。


「ランドウルフに二人を追わせろ。猛獣に追われているとなれば、さすがに助けるだろう」


「この子たちがやられたりしませんか?レスティン隊長に殺されるのは、勘弁願いたいのですが」


レスの奴ならやりかねないな。

まぁ、その際は俺がボコボコにされるしかないだろう。


「奴らに姿を見せたら、すぐに呼び戻せばいい」


というわけで、早速作戦開始だ。

二人が走り出すと同時に、ランドウルフたちが獰猛な唸り声を上げて追いかける。

二人が野営地に近づくと、剣を持った男たちが出てきたが、ランドウルフの姿を見つけると魔法を放ってきやがった。


「下げろ」


ランドウルフを担当している部下が笛を咥えた。

スーッという息の音はするのに、笛自体の音は鳴っていない。

だが、それでランドウルフたちは戻ってきた。


「音、鳴らなかったよな?」


「ウルフ種は耳がいいので、人には聞こえない音も聞き取るんです」


人には聞こえない音だって?そいつはすげぇ。


「二人が無事に野営地内に潜入しました」


「よし。あとは合図を待て。例の匂い袋はちゃんと持っているよな?」


「大丈夫です。エヴァンスがトルケグを放てば、まっすぐこっちにやってきますよ」


敵側に精霊術師がいるかもしれないから、安全策として動物を使っているが、結構便利だな。

しばらく待つと、チチッと鳥のような鳴き声がした。


「トルケグが来ました。ご苦労だった。ほら」


小さな壺を取り出すと、変な顔をした動物がひょいっと飛び乗った。

小さな壺を抱えて、一生懸命中の蜜を舐めとる姿は確かに可愛い。


「じゃあ、俺たちも行きますか。ちゃんと武器は揃っているな?」


「大丈夫です」


警備の穴をついて、野営地内に侵入する。

一人、二人で歩いている奴を襲い、身ぐるみを剥がす。

それを部下たちが着て、指揮官がいるであろう天幕の周囲に配置するのだ。


音もなく背後を取り、首元を切り裂く。

ヒュッという空気が抜ける音とともに、勢いよく血が吹き出す。

自分に血がかからないよう飛び退()くと、地面に倒れこんだ。

そいつの足を掴み、見つからない場所まで引きずると、その遺体を部下に任せると土魔法で隠した。

血痕も土魔法であっという間に消せるので、情報部隊には欠かせない魔法だよな。


『私ならもっと綺麗に隠せるのに!』


相棒である精霊のセラフィが怒っているが、本気ではないだろう。

俺がセラフィに頼みごとをすることはできないのだから。

作戦中なので、セラフィの相手はできないが、落ち着けと目配せをする。


部下たちは思い思いの武器で、敵を無力化していた。

俺のように喉を裂く者もいれば、即死性の毒を使う者もいる。

毒はどうしても効くまでに時間があるため俺は好まないが、任務上仕方なく使う場合もある。

睡眠毒も麻痺毒もその効力を調整することで、多種多様の場面で使用できるのは便利だがな。

そういえば、前回の任務で使用が許可された毒。あれの即効性は凄かった。

あれなら、ぜひとも使っていきたいが、宰相様から特別に渡されたものだからなぁ。

常備は難しいか。


暗殺と変装は俺たち情報部隊の得意とするところだが、俺以外の部下すべてが敵の格好をしているというのはなかなか見られない光景だ。

天幕の周囲を囲み、俺はその中にそっと入った。

中には、指揮官と三人の部下らしき人影あった。

暗器を投げつけて、一人が倒れた音が合図となる。

天幕を切り裂いて、部下たちが入ってくると、制圧は一瞬で終わった。

抵抗した二人は殺し、指揮官とその部下一人を拘束する。


「俺と二名はここへ残り、他はこの野営地の場所を知らせ、敵を殲滅しろ」


「了解です」


見張り役として残した二人以外、天幕を出ていくと、静かに殲滅を始めた。

発光信号代わりの魔法が打ち上げられても、外の音は変わらなかった。


「おいおい。お前さんたち本当に軍人だったのかよ。近くで魔法が使われても警戒すらしないって怠慢じゃないのか?」


指揮官にそう言うが、何も答えない。

さすがにここは情報を聞き出すのには向かないので、砦に連れていく必要がある。

この野営地の場所は知らせたので、そのうち砦の本隊が到着するだろう。


「カワウォ様!敵勢力が接近しています!!」


伝令役が駆け込んできたが、俺たちの姿を見て固まった。


「よく来たな」


というわけで、お前もこいつらの仲間入りだ。



◆◆◆

微かにだが、戦闘の音がここまで聞こえてきた。

本隊が近くまで来ているのかもしれないが、どうも様子がおかしい。


『大変大変!』


『変な人が魔力暴走させてる!』


風の精霊たちが慌てて伝えてきた。

変な人が誰のことかはわからないが、とにかく誰かが魔力暴走を起こし、暴れまわっているらしい。


「こちら側の被害は?」


『愛し子と仲良しな人、倒れた!』


『馬くんが助けてって言っているの!』


ネフェルティマ様と仲がよくて、馬ってことは、レスか!!


『大きな土魔法が発動するのを感じるわ。これは……流砂ね』


確か、上級の土魔法に周囲一面を砂に変え、地の底まで飲み込むというやつがあったな。


「獣騎隊から伝令。敵の魔力暴走に巻き込まれ、レスティン隊長の消息が不明!」


獣騎隊の奴らが、鳥を飛ばしてこちらに知らせてくれたらしい。

だが……。


「全力をもってこの野営地を殲滅しろ」


「ですが隊長!」


動物を扱える部下たちにとっては、レスは師匠のようなものだからな。

助けに行きたい気持ちはよくわかる。


「あいつはそう簡単に死にはしない。あいつのことを思うなら、目の前の任務に集中しろ!」


俺だってできるなら助けに行きたいさ。

でも、あいつは望んじゃいないだろう。

隊は違えど、部下を持つ隊長職なら、みんな同じ気持ちだろうよ。


「今なら、敵も混乱しているんだ。砦の大将に押し込めと伝えろ」


こんなところでうだうだ言っている暇があったら、ひとりでも多くの敵を倒して、早くレスを救出できるようにしろってんだ。


しかし、仲間を助けるためという目標があったからか、部下たちの士気は異様に上がった。

本隊の方もちゃんと状況判断ができていたようで、迂回してこちらを目指しているとのこと。

そして、レスが倒れたであろう付近は、いまだ魔法の影響で近づくことができないらしい。

セラフィに頼めば、地面を元に戻すことは簡単にできる。

だが、それをすれば俺は力を失い、セラフィを見ることすら敵わなくなる。

相棒であるセラフィを取るか、友人であるレスを取るか……。

悪いな、レス。

俺は情報部隊の隊長として、陛下に仕える者として、精霊を見る()が必要なんだ。


まもなく夜が明ける。

白んできた空を眺め、ようやく戦いが終わったことがわかった。

指揮官が捕まり、野営地内には敵か味方の区別がつかない者たちがいて、目の前には本隊が差し迫り、勝機を見出せなかった者たちが次々と武器を捨て、投降し始めた。


「こいつらを頼む」


指揮官らは拘束された上に、魔力を封じられ、砦に連れていかれた。

奴らから情報を聞き出すのも、俺たちの仕事だけどな。


「獣騎隊!ここは俺たちに任せて、お前らはレスを探しに行け。動物の鼻があれば、すぐに見つけられるだろう?」


以前、レスが言っていた。

ワイルドベアーは鼻がいいのに、追跡させると本能が刺激されて対象を殺しかねないと。

だが、獣舎の動物すべてに愛情を注いでいる奴だ。

ワイルドベアーも、奴を襲うことはしないだろう。


「感謝いたします!」


獣騎隊は慌ただしく野営地をあとにした。

見捨てた俺が行くよりもいいだろう。


「さて、俺たちはここを調べ尽くすぞ!」


天幕の中にあった書類、運び込まれた物資。それらを調べていくうちに、不可解なものを見つけた。


「隊長、これを見てください」


差し出された箱の中には、ライナス帝国の白金貨が数枚入っていた。


「他にも、ライナス帝国のものがないか調べるんだ」


金だけならいい。

ライナス帝国は歴史ある大国だ。

価値が崩れないからと、自国の通貨ではなくライナス帝国の通貨を集めている者も多い。


「シーリオ隊長、目録が出てきました」


リナリーが紙屑の中から見つけたのは、届けられた物資の目録だ。

武器や魔道具、薬、保存食といった、戦いに必要なものが揃っていた。

どこからという情報は書かれていない。


「他に、何か名前が書かれたものはなかったか?」


「いえ……今のところは」


これだけ大量の物資は、集めるだけでも大変なはずだ。

イクゥ国や小国家群で無理なら、ガシェ王国、ライナス帝国、ミルマ国のどこかに敵が潜んでいるということになる。

もしくは、ファーシアの創聖教が手を回したのか。

何かしらの証拠が出なければ、ただの憶測にしかならないが。


隅々まで探して、ライナス帝国から出荷されたことを示すものが見つかった。

武器が入っていたと思われる箱には、ライナス帝国の鍛冶組合の焼印が押されていたのだ。

そして、名前の記入はなかったが、ライナス帝国の貴族の紋章があしらわれた手紙。

封蝋印はどこにでもあるものだったが、使われていた紙には透かしの細工があった。


「この紋章を使っている貴族を割り出せ」


砦に戻り、指揮官から話を聞き出そう。

後始末を本隊にお願いして、俺たち情報部隊は砦に戻った。


「お疲れ様、シーリオ」


砦で出迎えてくれたのは、ディルタ領の領主のご子息。いや、我がガシェ王国外務大臣のユージン・ディルタだった。


「ユージン様がどうしてこちらに?」


「どうしてって、こう見えてもディルタ公爵家の跡取りだよ?戦闘が激しくなったと聞いたから様子を見にね」


正直言って、彼が国内にいるとは思わなかった。

常にどこか旅に出ている人だ。

危険を承知で、イクゥ国や小国家群辺りをふらついているもんだと思っていた。


「で、何か出た?」


「……確証はないのですが、裏にライナス帝国が関与しているかもしれません」


そう言って、例の紙を見せた。

ユージン様はすぐに透かし細工だとわかったようで、陽の光りにかざしていた。


「これは……」


透かしの紋章を見て驚いている。

どうやら、どこの貴族なのかを知っているようだ。


「ライナス帝国のヘリオス伯爵家の紋章だ」


「ヘリオス?聞いたことないですが」


「私の記憶違いということもあるかもしれないけど、小国家群に近い、自然豊かな領地だったはず」


もし合っていたら、ライナス帝国にいるネフェルティマ様に危険が及ぶかもしれない!


「あとで、ゴーシュから命令を出すように要請する。早急に今回の件とヘリオス伯爵家の繋がりを調べて欲しい。ライナス帝国にいるオスフェ家の子供たちに何かある前に」


本来なら、この命令は聞けない。

我々王国騎士団は、貴族の命令では動かない。

俺たちを動かせるのは、陛下の命と民の願いだけ。


「必ず、陛下か将軍からの命を持ってきてくださいよ。でないと、俺たちは謀反の容疑をかけられてしまう」


「わかっている。すぐに王宮に戻り、勅命(・・)を届けさせるよ」


勅命ときたか。

それだけ、王族にとっても愛し子であるネフェルティマ様を失いたくないってことだな。


「それと」


(きびす)を返そうとしていたユージン様が立ち止まり、何かを言いかけた。


「レスティン・オグマはなんとか生きているよ」


その言葉に俺は安堵した。

あいつは助かった、獣騎隊の奴らが間に合ったんだと。

その言葉の意味を、本当に理解するのはもう少しあとだった。

いい加減、名前にしてあげた方がいいのかとも思ったが、ずっと情報部隊隊長視点ってやってきているので、変えるのもなぁ。


不穏な空気真っ只中ですが、次回は番外編でほのぼのしましょう!!!

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