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★6巻発売お礼小話 愛おしい時間(ラース視点)

ラース君視点となっております!

愛し子が旅立ってから、坊はどこか退屈そうにしていた。

そんな坊を元気づけようと、毎日愛し子がどのように過ごしているのか、風の精霊たちが教えてくれている。

愛し子は相変わらず、愛し子ゆえに様々なものから好かれているようだ。

幼きキュウビに名を与えたと聞いたときは、キュウビに遭遇する運も創造主より与えられたものなのだろうと思ったものだ。


「ラース。思う存分、体を動かせそうだぞ」


『別に我は退屈してはいない。坊の気晴らしになるならよかったではないか』


どうやら、坊が動かなければならないことが起こったようだ。

人のことには興味ないが、坊はいずれ一国の王となる者だ。国や民のために、やらなければならないことは多い。


「俺が手を出すようなことになれば、だけどな」


坊が率いる烈騎隊(れっきたい)とやらは、坊が王になったときに影から坊を守る存在らしい。

人とは愚かで、権力を欲して人を殺すこともある。それを防ぐためだとか。

そんな存在がなくとも、坊のことは我が守るゆえに心配はないのにな。


愛し子を襲った組織の拠点を襲撃するというので、珍しく気持ちが高揚していた。

愛し子を利用しようとした者など、我らに滅ぼされても文句はあるまい。

その拠点に来てみれば、地の力が失われた山の中だった。

微かに土の精霊の力も感じたので、創造主の意思に反して力を使っている精霊がいるのだろう。

精霊の位が低ければ消滅する。消滅すれば山は崩れる。

そんな場所に坊を近づけさせるわけにはいかない。

だが、精霊術師の者がいたので、そ奴が坊に山の中には入るなと進言した。

そ奴が契約している精霊は変わった奴で、土の精霊は物静かなものが多いのに騒がしかった。


『ラース様とご一緒できるなんて!とても嬉しいですわ!』


変わってはいるが、よき契約者に恵まれたのだろう。

でなければ、中位の精霊が人を慕うことはそうあることではない。


問題なく拠点を破壊したのち、坊が捕まえたオーグルを隣国まで届けると言い出した。

それは構わないのだが、オーグルを運ぶリンドブルムたちがそれを拒否した。

まぁ、気持ちはわからんでもない。

竜種は誇りが高い。たとえ認めた者の頼みでも、嫌なことは嫌だとはっきりと意思表示をする。

人の側にいるのは、それが楽しいから。楽しくなくなれば、奴らは呆気ないほどに人を見捨てて、別の住処を探すだろう。


「ラース、炎竜殿のところへ行くぞ」


……あやつなら、竜たちを従えることができる。

我はあやつのことが好かん。

愛し子のことを思ってのことだろうが、真名の契約をしないまま、愛し子との繋がりを持つなど。

契約をする気がないのなら、とっとと他の聖獣にあけ渡せばいいものを。

坊が行くと言えば、我がついて行かぬ理由もない。……気が乗らぬがな。


坊とリンドブルムたちを連れて、炎竜の住まう北の山脈へと向かった。

オーグルを運ぶために、リンドブルムたちを説得して欲しいなど、面倒臭いと断っていた。


「炎竜殿、ネマは今、あちらで世話になっています。ネマのためにも、あちらに恩を売っておいて損はないのでは?」


『あちらには水のがおる。水のとは相入れないのでな』


隣国には水の聖獣がいる。ついでに地の聖獣もいる。

聖獣同士が仲良くやっているところなど、あいつらしかいないだろう。

我も、愛し子が関与しなければ、他の聖獣と関わるようなことはせん。


「それこそ、聖獣様のことはネマに任せればよいかと。いくら相入れないとはいえ、愛し子と契約している炎竜殿を無下にしないでしょう」


『坊、甘いぞ。水も、地も、気に食わなければ追い出す。聖獣とはそういうものだ』


『風の言う通りだ。愛し子が願えば、また違うだろうがな』


我ら聖獣にとって大切なのは契約者だが、愛し子がいるときは違う。

我らが創造主の代わりに、愛し子を守り、愛おしみ、願いを叶えてやるのだ。

契約者に抱く気持ちとはまったく違う。


「では、言い方を変えましょう。ライナス帝国で、ネマの存在がどういったものかを明確にするためにご協力願いたい」


『人のことは理解できんな。愛し子であること以外、何が必要なのだ?』


水のの契約者は、大国を治める皇帝というやつだ。

国の長が愛し子のことを聖獣に聞いて理解しているのに、何を明確にするというのか?


「聖獣の契約者や精霊術師以外の人は、愛し子がなんたるかもわからないのです。ライナス帝国の聖獣だけでなく、炎竜殿やラースとも平気で触れるネマを見れば、創造神様のご意思を感じるでしょう」


人とは、それほどまでに鈍いのだな。

脆くて弱いことは知っていたが、我ら聖獣がいなければ創造主の意思を感じれないとは……。

炎竜のやつもそう思ったのだろう。


『……お主には借りがある。一度だけ、力を貸そう』


などと偉そうに言っておるが、愛し子のために愚かな人を脅してやろうと思っているはずだ。

我もそうだ。

ついでに、まだ若い水のが無茶をせぬよう、諫言を耳元で囁いてやろう。


「感謝いたします」


滅多に下げぬ頭を下げた坊。

そ奴に礼なんぞ無用だぞ。

まぁ、愛し子に『ありがとう』と言われれば、心地よいがな。


『そうと決まれば、早く行くぞ』


『なんだ、風の。お主にしては()くな』


『ふん。愛し子に会いたいと思っているのが、お主だけだとでも?』


愛し子を慕うものは多い。

リンドブルムたちもそうだし、精霊たちもだ。

先ほどからついて行く、早く行こうと(せわ)しない。


『……お主が素直だと、調子が狂うわ』


『愛し子に会いたくても会いたいと言い出せない腑抜けよりはましだ』


そう返せば、あやつから炎が放たれる。

本気ではない炎など、我には効かん。

風で炎を抑え込めば、蒸発した雪が一瞬で凍り、細かな粒となって煌めいた。


「貴方たちがネマに会いたいのは十分にわかったので、喧嘩はやめてもらいたい」


『坊、喧嘩にすらなっておらんぞ』


「お前たちが本気で喧嘩したら、この山脈ごと吹っ飛ぶだろうが!」


なんだ、わかっているではないか。

こんなの、ただのじゃれ合いにすぎぬのに、笑って流せぬようではまだまだだな。


炎竜を連れて、あの場所に戻るとリンドブルムとリンドドレイクたちが騒ぎ出した。

あんな奴でも、竜種にとっては尊敬に値するらしい。

オーグルの奴らも、我と奴の気配を感じて、檻の中で怯えておるわ。


「ギゼル、あの檻を運んで欲しいんだが……」


ダンと呼ばれていた男が、リンドブルムたちの長に話しかける。

しかし、長は聞く耳を持たない。

周りのリンドブルムたちも、嫌だと文句を言っていた。

彼ら曰く、臭くて美味しくないから嫌だ。重たそうだから嫌だ。

我ら聖獣を除けば、生き物の頂点に立つ竜種だが、意外と食の好みはうるさい。

さすがに、我もオーグルを食そうなどと思ったことはないが、美味しくないというのはすぐにわかる。

人は鈍いのでわからないのだろうが、オーグルは臭い。

綺麗好きな竜種なら、目障りだと即殺してしまうだろう。


「頼むよ、ギゼル。運べば、ネフェルティマ様にも会えるし、炎竜様もご一緒してくれる。だからな、お願いだ」


拝み倒す勢いで頼み込んでいるが、リンドブルムの長は承諾しない。

今から行くところが隣国、ライナス帝国というのも問題なのだろう。

あそこはワイバーンの縄張りだ。

だが、愛し子の名を聞いて、他のリンドブルムたちが会いたいと長に訴える。


『ギゼル、くさいのがまんするから!』

『ネマのところに遊びにいこうよ!』

『ギゼルー!お願い!』

『お前たちだけズルイ!』


長として、群れを守るために否と言っているのに報われないな。

うるさいと咆哮をあげれば、他のリンドブルムたちは大人しくなった。

まだ若い竜種たちをまとめるのは大変そうだな。

あの長だって生まれて一季(いっき)も経っていない若造なのに、よう頑張っている。


『お前たち、行くぞ』


炎竜からの一言で、リンドブルムの長も折れたようだ。

原竜に言われて逆らえる竜種はいないか。


なんとかオーグルを吊るして、隣国へ向かうと、愛し子と水のがいた。

その他はどうでもいい。

水のは炎竜に食ってかかったようだが、愛し子がいる場所ではあやつの方が有利だ。

真名ではないとはいえ、炎竜は愛し子と契約しているからな。


低く唸って愛し子を呼ぶ。


「ラース君!!」


声に気づいた愛し子は、先ほどまであやつの顔に張りついていたのに、我を見つけて駆け寄ってくる。

小さな体を目一杯伸ばして、我の首元にしがみつき、顔を押しつけている。


「はぅぅぅ。もふもふ」


『相変わらずだな。息災で何より』


炎竜と違い、我の言葉を愛し子が理解することはない。

愛し子は首から離れたと思ったら、今度は尻尾を握りしめ頬擦りをし始めた。


「このだんりょくもたまらん……」


こうなっては、周りが見えない愛し子。

我は構わぬが、先ほどから坊が呼んでいるぞ。

早く我に返れと、愛し子の顔を舐める。


「あうぅぅ」


ふむ。逆効果であったか。

いつまで我とじゃれているのかと坊が怒れば、ずっとと答えるあり様。


「ラース」


呆れた坊に呼ばれたが、愛し子を連れてこいという内なる声も聞こえた。

仕方ない。

愛し子を咥え、坊のもとへ連れていけば、我に裏切られたと不貞腐れる。

今、なすべきことをせよ。

それが終わればいかようにも時間は取れるだろう。


坊と水の契約者とともにオーグルを見る愛し子。

オーグルの奴らも、本能で愛し子がわかったようだな。

聖獣や精霊と違い、魔物は愛し子を知らない。

だが、本能で守らねばならないものだとわかるのだ。

本来なら、この世界に住まうどの種族にも、創造主の力を感じる能力がある。だから、魔物も動物も、愛し子を襲うことなく守る。

人は早々にその力をなくしたようだがな。


水の契約者が余興を披露してくれた。

少々派手さは足りないが、あの大物を軽々と操る様は面白かったな。

オーグルの長も、敵わないとわかっておきながら戦いに挑んだようだ。

血が騒ぐというやつなのか、オーグルらしい。


坊が宮殿に招待されたので、我もついて行くしかないが、炎竜もついて来るとは意外だった。

愛し子にお願いされたのだろう。

宮殿でも、何度も帰っちゃ駄目だと言われておったしな。

それにしても、愛し子の周りはずいぶんと賑やかだ。

愛し子が愛し子たる由縁なのだろう。


いつも、ありがとうございますm(_ _)m

もふなでも6巻まで来ることができました!

皆さまが読んでくださっているおかげです。


まだまだ先は長いですが(書くのが遅いため)、これからもお付き合いくださいますよう、よろしくお願いいたします。

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