★【突発パロディ】TPOは考えよう!
パロディです!!
本編とは関係ありません!!
ただ、婚約破棄なざまぁを描きたかっただけなんです!!
今日はお姉ちゃんと一緒に、エリザさんが主催する交遊会に来ている。
交遊会は主催する人の人柄が反映するようで、チャラ男のときとは違い楽しい!
皇女と仲がいいご子息ご令嬢の方たちなだけあり、政治的な話題で議論が盛り上がったり、次に流行するのはどんなファッションかを予想したりと、頭のいい会話が飛び交っている。
流行るファッションの話題がなぜ頭いいかって?
どこどこの領地で新しい染色技術ができたとか、新しい鉱山が見つかったらしいとか、そういった情報を元に予測するんだから、普通のご令嬢ではついていけないと思うよ。
このハイレベルな人たちが、将来エリザさんに仕えるんだと思うと安心感がある。
このライナス帝国では、聖獣と契約をしなければ皇位の座は継げない。
生まれた順番や性別は関係ないので、エリザさんが女帝となる未来があるかもしれないのだ。
そうなったときに、頼りになる忠臣がいなければ、海千山千の貴族たちに好き勝手されてしまう恐れも出てくる。
そうならないように、幼いうちから同世代の子息令嬢たちを見定め、忠臣となるよう育てるのだ。
絆とか友情とか、そんなやつを。
国が違えば勝手も違う。
それは重々承知しているのだが、この国は皇族の子供に求めるものが大きすぎると思う。
末の皇子なんて、それで押し潰されそうになっていたしね。
まぁ、それくらいできなければ、国を背負うことはできないってことなんだろうけど。
獅子が子を谷に落とすように、魑魅魍魎と化した貴族たちとわたり歩かねばならない皇子たちは大変だ。
……少しくらいは労ってあげようかな。
なんてことを考えていたら、急に周りが騒がしくなった。
何が起こったのかと見回せば、ある一角で複数の男性が一人のご令嬢を責め立てていた。
「……あれ、いいの?」
親しい集まりとはいえ、皇女主催のものだ。
そんな場所で騒ぎを起こしていいわけないのだが、お姉ちゃんはわかるとして、エリザさんも動こうとはしていない。
「よくはないのだけれど、最近目にあまるのよね。なので、ちょうどいい機会だわ」
笑っているけど、目は笑っていなかった。
何をやったのか知らないが、あの人たちが皇女の不興を買ったのはわかった。
何を話しているのかは遠くて聞こえなかったんだけど、私が気にしているのを感じ取ったエリザさんが、わざわざ魔法で声が聞こえるようにしてくれた。
「もう我慢ならん!たかが伯爵の娘のくせに、偉そうに言うな!」
「たかが、ですか?否定はいたしませんが、彼女がこの場に相応しくないことには変わりません。資格なき者を連れてきた責、どうなされるのです?」
「レイシアが相応しくないだと!?」
「レイシア嬢は男爵という位の出ではありますが、
最上学術殿での成績は貴女よりも上ですよ。何よりも我々の苦労を理解し、支えてくれる、心優しい淑女です。貴女と違ってね」
周りにいる男性が次々と、目の前のご令嬢を貶し、別の女性を褒め称える。
これ、泥沼かな?でも、昼メロにすらなれない陳腐さ漂っている。
「レイシアを逆恨みして、嫌がらせもしているようだな」
「そのような事実はございません。わたくしも、暇ではありませんので」
「それほどまでに、侯爵夫人の座が欲しいのか」
会話が成り立っているようでいない。
というか、男性側がご令嬢の話を聞いていない。
これでは拗れる一方だ。
「貴様のような者を、我が侯爵家に入れるわけにはいかない。婚約はなかったことにする!」
……ん?
ひょっとして、これは……。
「貴方様との婚約は、侯爵家ご当主様とわたくしの父、エルヤード伯爵が決めたこと。婚約を解消なさりたいのであれば、まず侯爵家ご当主様を通すのが筋ではありませんか?」
このご令嬢、やりよるな。
こんな状況下でも冷静に周囲を観察し、最適な判断を下す。
この男性たちが冷静さを欠き、短慮を起こしてご当主とやらに直訴しに行くように誘導しようとしている。
「…くっ、生意気を言うなっ!!」
だがその思惑は外れ、貴族としてあるまじき行動に出た。
それはいけない!
男性が手を振り上げるのが見えた。
「ダメッ!!」
思わず大きな声を出してしまったが、その次の一瞬でパシャリと水の音が続いた。
何が起こったのか、誰も状況を把握できないでいるようで、先ほどまでの騒めきが遠のいた。
「精霊だな」
護衛として連れてきていた森鬼がそう告げたことで、状況は把握できた。
おそらく、私の気持ちに感応した精霊が、あの男性を止めるために水を浴びせたのだろう。
あれくらいの小さな現象であれば、精霊の悪ふざけ、遊びの一つとしてよくあることで片づけられるし。
いやいや、それよりも。
「エリザ様」
「ネマ様のお好きなように。もちろん、責任はわたくしにありますので、思いっきりやっていただいて構いませんわ」
あれ?思っていたのと違う…。
ここはエリザさんがバーンッて登場して、控えおろうするシーンでしょ?
なんか、私がお説教するみたいになっているけどなんで!?
あ、押しつけられたってこと?
さぁさぁどうぞと、期待に満ちた眼差しで見送られては仕方がない。
本来であれば、他国の騒動に口を出したくはないのだが、何かあればエリザさんが責任を取ってくれるそうなので、従うことにしよう。
伯爵令嬢のもとへ行き、大丈夫かと声をかける。
暴力を振るわれそうになり、けれど突然相手がずぶ濡れになれば、驚いて当然だろう。
放心していたご令嬢は、声をかけると我に返り、堅いながらも笑顔を見せてくれた。
「自分の思い通りにならないからって、女性にぼう力をふるうなんてさいていです!」
「ふんっ。子供がしゃしゃり出てくるな!」
「おねえさん、こんな男とはえんを切った方がいいです。せいりゃくてきなものでことわれないのなら、私がへいかにお願いしますよ!」
貴族のしがらみとは時に厄介なものだが、自分の娘が不幸になってもいいなんて親はそういないだろう。
自分の富と権力のために贄になれという親は、親ではないと言いたい。
「お前のような子供の言うことを陛下が聞くわけないだろう」
「うるさいですね。私はこのおねえさんと話しているの!」
今はこのご令嬢の方が優先だ。
だって、どう見ても困っているのはこちらの方。
ご令嬢が嫌がらせをしていたとしても、今はまだその真偽が明らかになっておらず、嫌がらせを受けたと言っている方は侯爵子息の加護があるわけだし。
伯爵令嬢の方が孤立無縁ならば、援護くらいはしてあげてもいいと思うんだ。
「わたくしごときの問題で、陛下のお手をわずらわせるわけには参りません。ですので、アーマノスへお願いしたいと思います」
アーマノスというのは、皇帝陛下直属の調査官たちのことだ。
貴族の不正を暴いたり、場合によっては貴族同士の諍いへの仲裁を行ったりもするらしい。
「なっ、アーマノスだと!貴族の誇りすら失ったか!」
誇りと言っているが、私には怯えているようにしか見えない。
アーマノスは貴族にとって恐ろしい存在かもしれない。
だけど、恐ろしいと感じるのは、後ろ暗いことがある者たちだけ。
貴族として、国を守り、陛下を敬愛し、民を愛する者にとっては、心強い味方なのである。
「我がエルヤード伯爵家は、アーマノスに調べられて困ることなど一つもございません。ですので、わたくしが下位の者に対して不当な行いをしたという事実が、アーマノスの調べで出てきたのであれば、しかと償いはいたします」
そう、自らの潔白を示すために、アーマノスを頼る貴族もいる。
定期的にアーマノスを呼び、正しく領地を治めていると陛下に示すのだ。
「アーマノスを呼ばれては困るのですか?」
男性の反応からして、何かやらかしているんだろうとカマをかければ、しどろもどろに誤魔化そうとしている。
「でも、あなたたちの処分はまぬがれないと思いますよ」
「どういうことですか?たとえ、彼女が行った嫌がらせがなかったとしても、私たちを処分できるとは思えませんが?まぁ、親から叱られるくらいはあるでしょうが」
取り巻きらしき人にそう言われ、私の方が驚いてしまった。
なぜ、こんな騒ぎを起こしているのに、処分されないなどと楽観視できるのだろうかと。
「エリザ様のこうゆう会を台無しにしておいて、何も処分されないなどと本当に思っていらっしゃるのですか?しかも、今日はわたくしとおねえ様をしょうたいしての、外交をふまえたものでしたのよ?」
「貴女の、ですか」
なぜか鼻で笑われた気がするけど、この人たち、こんなに情報に疎くて大丈夫だろうかと逆に心配になってきた。
お姉ちゃん!助けて!
この人たち、話が通じないよ!
お姉ちゃんに助けを求めるも、にっこりと笑って頑張ってと言われた。
いやいや、ママンに鍛えられた毒舌は、話が通じない人には効果ないよ!
「みなさま、大丈夫ですか?ちゃんと社交に出られていますか?こうもじょうほうにうとくては、足元をすくわれますよ?」
おつむが弱いとかではなく、身内で固まりすぎて、最新の情報を手に入れられていないのだろう。
「子供に心配されなくても……」
「げんにわたくしのことを知らないのに?仲のいい者同士でいるのは楽しいと思いますが、自身のおこないをかえりみてはいかがでしょう?社交場で受け入れてもらえなくなる前に」
もう遅いだろうけど、お前たちが仲間内でキャッキャッやっている間に、他の貴族からハブられているかもよ?
自業自得だが、ハブられているとなると可哀想な気もする。
「まさかと思いますが、本当に彼女のことをご存じないのですか?」
伯爵令嬢が驚いて確認するように問いかけた。
周りの人たちからも、そんなまさかと、知らないはずないだろうという囁きが聞こえてくる。
「そんな子供のことなんてどうでもいいじゃない」
「レイシア、しかし……」
ほう。確かに可愛い女性だ。
だけど、公爵令嬢として言わせてもらうなら、ないわー。
一番、お近づきになりたくないタイプだね。
だって、もう適齢期に入った貴族の令嬢が、自分から男性に触れるってどうよ。
ちなみに、私はまだセーフだからね!
虎視眈々と獣人の耳と尻尾を狙ってはいるが、当人からのお許しがあれば触ってもはしたないなんて言われない年齢だからね!
「お嬢ちゃんにはわからないかもしれないけど、彼らは侯爵や伯爵の跡取りで、偉い人なのよ」
レイシアさんはそう言うが、正直それがどうしたって感じだ。
ここで一番位が高いのは、皇女のエリザさんだし、国は違うが私もお姉ちゃんも公爵家の令嬢だ。
身分だけでいうなら、我が家の方が高い。
「それがわかっていて、この騒ぎを起こすか。叛逆だと思われても仕方がないな」
突然入り込んできた声に、みんなが驚いて、慌てて礼を取る。
礼をしていないのは不要だと言われている私たち姉妹と同じ身分であるエリザさん、なぜか顔を赤らめているレイシアさんくらいだ。
「テオ様!」
呼んだのは私じゃないぞ!
自国の皇子を愛称呼びするレイシアさんに、誰もが度肝を抜かれていた。
思わず、レイシアさんと仲良しなのかとテオさんの顔を見ると、思いっきり不愉快だと書いてあった。
ある意味、無表情がデフォルトのテオさんにそんな顔をさせられるのは才能かもしれないぞ。
「私たちが叛逆だなんてとんでもない!叛逆者なら、彼女の方ですわ」
「れ、レイシア……」
あまりの不敬に、彼女の取り巻きたちも慌てている。
というか、テオさんには不敬だと認識していて、なぜエリザさんにはない?
女だからって、エリザさんを舐めているのか!!
「ネマも、エリザの言うことは聞かなくていい」
「でも、りふじんなぼう力をふるわれている方は助けないと」
私は悪くないと言いたい。
こんな場所でこんなことをやり始めた彼らが悪いのだ!
「それはエリザの仕事だ。自分の陣に取り入れた者の管理を他者に押しつけるとは……」
なんだか、珍しく怒っている。
というか、怒っているテオさんは初めてだ。
喜怒哀楽を表に出さない人だから、この怒りのオーラが恐ろしい。
「私は彼女にずっと酷いことをされていたんです!」
あれ、まだ続いていたの、それ。
仕方ないなぁ……。
「あなたこそ、ご自身の立場をお考えになったらどう?ここにいるしかくがないと言われていたということは、エリザ様の臣下であるしかくがないということでしょう?」
「何よ急に!子供がわかったような口を聞くんじゃないわよ!」
「まぁ、こわい」
怯えたふりをして、テオさんの後ろへ隠れる。
普段とは違う様子の私をテオさんはただ見ているだけ。
私が動くなら、余計な口出しはしないということかな?
「ここにいらっしゃるそうめいな方々はもうおわかりですよね?」
聡明なのところで、取り巻きたちを見ると顔色が悪かった。
ようやく、自分たちが仕出かしたことを理解したのか。
遅すぎるわ!
「皇女であるエリザ様をないがしろにし、皇子であるテオ様には礼もせずにあいしょうを呼ぶ。どれだけ皇族に対して無礼をかさねるおつもりですの?」
「なっ……あんただって愛称で呼んでいるじゃないの!それに、礼だって!」
それに対して言い返そうとしたら、急にテオさんに抱っこされてしまった。
危うく舌を噛むところだったので、急にするのはやめて欲しい。
「カーナとネマには、公式の場以外での皇族に対しての礼は不要だと、陛下方がお認めになっている。それと、愛称は俺が許したからに決まっているだろう」
「……そんな、なんで」
「あら、わたくしは言いましたわよね。本日はお客人を招いての交遊会だと。わたくしたち皇族がお客人と言っているのです。国賓として扱われているに決まっているでしょう」
やっとエリザさんの登場だ。
テオさんが今さらとぼやいているが、ほんとだよ。
「貴方たちの本性、しかと見定めさせていただきましたわ。ずいぶんと甘く見られたものね。皇族の催しを私物化したのも、わたくしが女だから強く出られないとでも思ったのかしらね?」
「そ、そんなことは…」
「まぁ、いいわ。わたくしの臣下としては不要です。今後、わたくしの前には現れぬよう」
んん?
つまり、エリザさんは彼らがどう悪あがきするかまでを見たかったってこと?
ひょっとして、私を言いくるめられる話術と頭の切れがあれば、臣下として留めておいたのかも?
ようは、私が試金石か何かだったってこと?
「皇族の不興を買った者が、跡を継げると思うな。沙汰があるまで、領地で謹慎していろ」
だから、怖いんだってば。
落ち着いて、その怒気を収めておくれと、テオさんの肩をポンポンと叩く。
テオさんはなんだというふうに視線を寄こすが、怒りのオーラがビシバシ当たる。
「……がぁ……」
レイシアさんが何か言っているようだけど、声が小さすぎて聞き取れなかった。
「田舎者の貴族のくせに、このガキがぁぁ!!」
私に掴みかかろうと手を伸ばしてきた。
そのとき、突然空気が重くなった。
そして、極寒のように寒くなり、吐く息が白い。
ガタガタと震えながら、何が起きたのかと視線を巡らせれば、レイシアさんの頭に透明なボールのようなものがついていた。
それを必死に取ろうともがき苦しむレイシアさん。
一瞬、白の仕業かと思ったけど、ボールのようなものはよく見ると水だった。
ユーシェかサチェの仕業だろう。
ただ、性格上ユーシェは自身で突っ込んでいく感じなので、これはサチェだと思う。
ユーシェを抑えつつ、私を守ってくれたってことだね。
「何が……」
取り巻きたちは何が起こっているのか理解できずに混乱している。
いや、彼らだけでなく、ここにいるほとんどの者がそうだろう。
つか、私は寒い!
早くサチェを止めないと、凍え死んでしまう!!
「サチェ?サチェでしょう?」
どことなく、そう声に出して言えば、水差しから大量の水が吹き出した。
床がびしょ濡れになると、そこからサチェが姿を現わす。
…こちらもめっちゃ怒ってらっしゃるぅぅ!
聖獣様がなぜとか言っている人がいるけど、そんなことよりサチェを宥めないと死人が出てしまう!!
テオさんに下ろしてもらい、急いでサチェのもとへ向かう。
「サチェ、助けてくれてありがとう。もう大丈夫だよ。ね、おこらないで」
「ブルルルッ!」
やっぱり、そう簡単にはいかないか。
しかも、サチェの怒りはテオさんとエリザさんにも向いているようだ。
「サチェ、私がちゃんと落とし前つけるから、手を出しちゃダメ。ほら、あれ消して。いしきないと相手にならないでしょう?」
レイシアさんは私の獲物だと言って、ようやく、渋々といった様子で水のボールを外してくれた。
「あと、テオ様もエリザ様も、ちゃんと私を守ろうとしてくれていたから。だから、こおらせるのはやめてほしいな」
サチェの怒りが向いていたとわかったのは、お二人の足元が凍っていたからだ。
凍傷になる前にやめてあげて!
宥めるために、何度もサチェの顔を撫でる。
力を揮っているからか、サチェの体は氷のように冷たかった。
お願いが効いたようで、お二人が氷漬けになる前に解いてもらえた。
「ちょっと待っててね」
ぎゅーっと抱きついてから、サチェのもとを離れる。
ゴホゴホとむせているレイシアさんが落ち着いてから、彼女に言った。
「あなたは何がしたかったの?とみとけん力がほしかったの?」
「…そうよ!平民と変わらない、貧乏男爵なんてうんざりよ!若さも美貌も、頭脳だってあるのよ!上を目指して何が悪いっていうの!!」
取った手段が最悪だよ。
別の方向がなかったのと聞きたい。
「そう。でも、だんしゃくでよかったとかんしゃすることね。いなかの貴族なら何を言ってもざれごとにしか聞こえないもの」
「なんですって!!」
「もし、あなたがこうしゃく家の夫人とかだったら、わが国にたいしてのせんせんふこくと受けとるわよ」
まぁ、脅しだけどね。
一貴族が何を言おうが、皇族が動かない限り相手にはしないだろう。
さすがに宰相や大臣など、重要職に就ている人物なら別だけどさ。
あ、こうしゃくって侯爵の方ね。
ライナス帝国だと、公爵は一代限りの皇族が臣下に下ったときに与えられるものだから。
例えば、ルイさんが臣下になれば公爵になるけど、子供の代は侯爵に下げられる。
聖獣に認められた血筋でないと皇族を名乗れないってことなんだよね。
「だってあなた、ガシェ王国のひっとうこうしゃく家のむすめをいなか者とさげすみ、がいしようとしたのよ?」
戦の理由としては十分でしょうと笑ってみせると、レイシアさんだけでなく、取り巻きたちも震え出した。
「わが国とたたかう前に、ライナス帝国軍にほろぼされるかもね。わが国とたたかうより、けんかを売った者をたたく方がかんたんだもの」
ここにいる者たちはみんな、戦を知らない世代だ。
もちろん私もだし、自分の領地が戦火に巻き込まれなければ、他人事にすぎないのだろう。
「ね、だんしゃく家でよかったでしょう?」
我がオスフェ家を侮辱しておいて、許してあげるって言っているんだから、私も甘いなぁって思うよ。
お姉ちゃんとか、容赦なく没落まで追い込みそうだし。
「……公爵家といっても、所詮は他国でしょ」
「あなたは自分をみとめる世界しかみとめないのね。それは、とてもあわれだわ」
私が他国の貴族で、自分はライナス帝国の貴族であると。
そして、ここはライナス帝国であり、国は自分を守ってくれるとでも思っているのだろう。
「私が哀れ?私のどこが哀れだって言うのよ!!」
「自分にかちがあると思っているところよ。若さやびぼうなんて、いずれはおとろえるもの。ちしきや才能だって正しい使い方を知らなければむいみ。高位の貴族は、ただきれいなよそおいをして、おいしいものを食べて、おしゃべりしているだけでいいと思っているのかしら?」
だとしたら、貴族そのものを舐めすぎだろう。
「あなたは貴族のほこりもかくごもない、ちっぽけな人。ね、あわれでしょう?」
「……あ、あぁぁぁぁぁぁ」
泣き崩れたレイシアさんに手を差し伸べる者は誰もいなかった。
哀れで可哀想かもしれないけど、平民とは違い、男爵とはいえ爵位を持った家に生まれたのだ。
貴族ならば、生まれながらにして責任がある。
自分の才覚に自信があったのなら、なぜそれを領地に住まう民のために使わなかったのか。
そうすれば、すぐにとはいかなくても、良識のある他の貴族の目に留まったはずだ。
貴族に与えられる富と権力は、自身のものではなく国から民から与えられたもの。
少しでも別の形で返していかなくてはいけないものだ。
彼女はそれを理解していなかった。
高位の貴族に見初められれば、富と権力が手に入ると。
資格なき者に、それを与えてよしとするほど周りは愚かではない。
「さすが、ガシェ王国の宰相殿の娘だな」
なんか微妙な褒められ方だな、それ。
「ネマッ!とっても格好よかったわよ!姉として誇りに思うわ!」
パパンとママンの娘なので、やればできるんだよ!
頑張ったよ!
お姉ちゃん、もっと褒めて褒めて!!
ぎゅーぎゅーとお姉ちゃんに力いっぱい抱きしめられるが、疲れてしまった私はそのままお姉ちゃんに体を預ける。
「それにしても、ネマは怒るとお父様そっくりだけど、毒を吐くときはお母様そっくりね」
「ほんと!おかあ様ににてた!?」
「えぇ。…あ、お母様の真似をしたのね?」
その通り!
だって、私に女同士の戦いをやれって、まだ無理だし。
それなら、ママンの真似をした方がまだ勝機はありそうだし。
「確かに、オスフェ公爵夫人は敵に回すと厄介な御仁のようだ」
テオさんは、ガシェ王国にいたときのことを思い出しているのか、しみじみと呟いた。
ママンはラスボスか何かかな?
「ネマ様、ごめんなさいね。巻き込んでしまって」
エリザさんが謝ってきたが、こういう場合はどうしたらいいのだろうか?
「エリザ様、私を利用したでしょ!」
「だってわたくし、女子供と下に見るような輩は大嫌いですの。ネマ様なら、彼らに負けることはないと確信しておりましたし」
信用してくれるのは嬉しいけど、なんか違う気がする。
「しかし、皇女として正式に謝罪いたします。ネフェルティマ様、申し訳ございません」
美しい所作で頭を下げるエリザさんに、なぜかテオさんまでもが一緒にしている。
騒めきが広がる中、私が選べる選択肢は一つしかないよね。
「エリザ様のせいい、しかと受けとめました。さぁ、顔をお上げください」
自国の皇子皇女が他国の貴族、しかも子供に対して謝罪をしたのだ。
周りが騒がしくなるのも仕方がないのだが。
これじゃ、私が悪役令嬢みたいじゃない!?
闇討ちされそうで恐ろしいわ!
「ここにいる者ならば理解できていると思うが、ネフェルティマには陛下方の加護がある。彼女を害しようなどとすれば、我が帝国の聖獣様による罰が下されるからな」
サチェが力を振るっちゃったもんね。
誤魔化すにはそう言うしかないんだろうけど、ますます私って何者!?って感じになっている気がする。
平穏に行こうよ、平穏に!
7,000文字くらい書いたところで、これは私が求めるざまぁではないことに気づきました(笑)
短編として上げることも考えたのですが、もふなでのライナス帝国編の設定がいっぱい出ていることもあり、こちらで更新することにしました。
あくまでもパロディであり、本編とは関係ありませんので、ご注意ください!!