ライナス帝国軍に突撃だー! 後編
爬虫類が苦手な方はご注意ください!
今日は再び訓練場に行くよ!
今回は、ダオとマーリエも一緒だ。
ただし、二人が訓練に行くのは、保護者である父親以外には内緒なの。
陛下とトゥーエン様は獣人に偏見を持つような方ではないので、快く許可してくれたけど、他の大人は違うから秘密にした方がいいよって陛下が教えてくれた。
陛下も獣人に対する現状をよく思っていなくて、どうにかしたいけれど、決定打がないってボヤいていた。
「今はむりでも、この先は変えられますよ。じせだいである子どもたちのにんしきを変えていけばいいと思います。じゅう人は強くてかっこういいんだって!」
「次世代か。確かに、貴族の子供たちが獣人と接する機会はまずない。宴に出席できる年頃には、親から聞いた印象で塗り固められているしな」
おそらくだけど、市井の民は獣人に偏見を持つ人は少ないと思うんだ。
ガシェ王国よりも獣人が多いわけだし、市井の生活の中で関わりも深いと思う。
ルイさんのように、一緒に遊んで育てば、熱い友情も生まれる。
ルイさんの場合は悪友って感じかもしれないけど。
「交流できるときは、私も参加させてくださいね!」
「そうだな。ネフェルティマ嬢ならば、種族の架け橋となってくれるだろう」
架け橋とか、そんな大層なことはできません!
ただ、もふもふの素晴らしさなら布教できるよ!
というか、布教するよ!!
というやり取りもあったんだよね。
しかも、陛下がいろいろと手配もしてくれたので、訓練場に遊びにいくというよりも、ライナス帝国の軍施設を見学するって感じなんだ。
午前中は訓練場、お昼を宮殿の外の見晴らしのいい場所でピクニックも兼ねて食べたあと、軍の本拠地である施設を見学し、最後にワイバーンの竜舎という流れだ。
「本当に、ネマの行動力は凄いわよね」
「マーリエ、この前も言ったでしょ!子どもだとゆるされるうちにやれることはやらないと。女の子はどうしても、おしとやかにしなさいって言われて、好きにお出かけもできなくなるのよ?」
特に身分の高いマーリエは、年頃になれば女性の戦いが始まり、お茶会だなんだと遊んだりできなくなりそうだし。
「…それは嫌よ。大きくなっても、ダオやネマと遊びたいもの」
「僕も!」
はぅぅぅ。なんて可愛いことを言ってくれるんだ!
ただ、物理的距離が遠いんだよなぁ。
ソルにお願いして、送り迎えしてもらうとか?
私が嫁ぐ…は却下で。
ダオとマーリエがガシェ王国に嫁いでくるっていうのも、二人ともは難しいかもしれない。
うーん、ソルの方が確実だな!
三人で仲良く訓練場へ向かう、その前に。
「今日はよろしくお願いいたします」
と、本日護衛についてくれる皆さんにご挨拶。
「命令なので従いますが、本来であればダオルーグ殿下は勉学のお時間なのです。殿下のお時間を無駄にしないでいただきたいですな」
って、ダオの警衛隊の隊長さんに釘を刺された。
ダオ陣営が私のことをよく思っていないのは知っている。
だがな、勉強とは机の上でするものだけではないのだよ。
「それなら、ダオにとっては学ぶいいきかいですね。国を守る者たちがどんな人たちなのか、どんなことをしているのか知れるのですから」
「…それが、殿下に必要だと?」
「当たり前です。彼らのちゅうせいを皇族であるダオが知らなくてどうするのですか?あなた方だけが、ダオのちゅうしんだとでもおっしゃるのですか?」
ダオは周りの大人に振り回されて、本来学ばなければならないことを知らない。
幼いうちならばまだ許されるだろうが、彼は皇族なのだ。
これから先、彼が担う責任の重さは、私たち貴族とは違う。
ダオはきっと、優しくてよい皇子様になる。
学び、成長する機会を、そう易々と逃してなるものか。
「我々だけとは言わないが、我らが殿下の忠臣であることは事実だ」
「ならば、わきまえなさい。ダオが何を学び、どの道を選ぶのかは、周りの大人ではなくダオ自身が決めること。ちゅうしんと言うのであれば、彼の成長を助け、よからぬ者をとおざけるべきでは?」
「貴女がそのよからぬ者という可能性も十分にあるが」
意外と頑固親父だね。
もう少し、視野を広く持って、柔軟になってくれれば、ダオの強い味方になってくれそうなのに。
「そう。では、あなたが見きわめなさい。時間はたっぷりあるのだし」
そろそろ切り上げないと、さっきからパウルとスピカの殺気が恐ろしい。
大丈夫だよ!私はママンの娘なんだから、口では負けないよ!
そう、今日はパウルもいるから、私もあまり無茶はできない。
パウルがついてきた理由は、マーリエの側付きがいないからだ。
陛下が秘密にした方がいいって言ってくれたおかげで、同行する大人もめちゃくちゃ厳選された結果だ。
ダオの警衛隊の皆さんは、陛下の御前にて『名に誓って』もらっている。
今日、どこに行って何をしたのかを他言しないと。
「みんな、しゅっぱつするよー!」
と言っても、訓練場は歩いていける距離だ。
すぐに着いてしまう。
「ペリーさん来たよ!」
ペリーさんとは、あの責任者のお名前である。
軍人ならではというか、ゴツいおじ様なんだけど、名前は可愛いかった。
あの黒船のお方と同じだし。
「ダオルーグ殿下、ようこそおいでくださいました。お嬢は今日も元気そうで」
ちょっと、ペリーさん!
私はついでみたいな扱いじゃない?
宮殿を警備している部隊の軍人さんたちとは結構仲良くなれたと思っている。
やはり、ルイさんにお願いした賄賂…じゃない、差し入れが効いたようだ。
ここの軍人さんたちからはお嬢と呼ばれているが、彼らの雰囲気もあって、ヤのつくお嬢の気分が味わえる。
「ペリー殿、お客人に失礼では?」
私への態度に顔を顰めたのは、ダオの隊長さんの方だった。
私がペリーさんって呼んでいるのは、隊長さんがいっぱいいるからだ。
陛下の警衛隊の隊長さんやルイさんのところの隊長さんとか、意外と会う機会も多いんだよね。
「公式の場ではないときはいいよって、私がきょかしたのです」
ペリーさんはまだしも、他の軍人さんとか慣れない言葉を使ったりして、しどろもどろだったから、普通に接してくれって私の方からお願いしたのだ。
私もいつまでも丁寧な言葉を使うのは疲れるし。
「お嬢は貴族らしくないのでつい。次からは気をつけます」
「私の方がおじゃましているから、気を使わなくていいのに」
ぶーっと膨れていると、パウルが時と場合によりますからねと言ってきた。
それは、ちゃんとわかっているよ。
でも、訓練場は彼らのテリトリーなんだし、砕けてもらった方が受け入れられたみたいで私も嬉しいんだけどなぁ。
「では、こちらにどうぞ。今日は殿下がいらっしゃるということで、部下たちも張りきっておりますよ」
訓練場に出ると、みんなが綺麗に整列をしていて、号令とともにダオに向かって礼をした。
「ダオ、みんなに何か言葉をかけてあげて」
「…なんて言えばいいの?」
「うーん、国のためにありがとうとか、これからもたんれんにはげんでほしいとか?」
スピーチなんてやったことないから、私もよくわからないけど、前にヴィが言っていたことを思い出してみた。
ダオの声が届くようにと、ダオの隊長さんが風の魔法を指示している。
ダオはおどおどしながらも、一歩前に出て、頑張って口を開いた。
「あの…僕のこと初めての人ばかりだと思います。ダオルーグです。今日は、ネマに言われてきたけど、みんなのこと知りたいと思って…。これからも、ライナス帝国のために、はげんでください!」
おぉ!ダオ、頑張った!
軍人のみんなも、子供が頑張った姿に拍手を送っている。
微笑ましいだろ?可愛いだろ?頑張れちゃうだろ?
親心に近い何かが芽生えたよね。
「ダオ、よかったよ!すごいね!」
「さすがダオね!」
私とマーリエでダオを褒めまくると、ダオも嬉しそうに笑顔を見せてくれた。
「ライナス帝国軍の名に恥じぬ、我々の鍛錬の成果を殿下に見ていただこうではないか!」
ペリーさんがみんなに激励を飛ばしてから、訓練場全体を使った実戦式の訓練が始まった。
いつ見ても凄いんだけど、剣戟の音に魔法による爆発音。
時折、爆風がこちらにまで来る。
あ、バルグさんがまた誰かを場外まで吹っ飛ばした。
バルグさんの無双を止めることができなくて、ぽっかりと空間が空いてしまっている。
うっかり間合いに入ると、容赦なく尻尾で攻撃されるからだ。
あの尻尾、最強の武器なんだよね。
あっ、魔法をもろに食らった!
……なんで平然としているの?
魔道具のおかげかな?それとも、鱗の防御力ってそんなに高いの?
「フリエンスの人って、本当に空を飛ぶことができるのね」
ダユさんが空中でホバリングしている様子を見て、マーリエが感心したように呟いた。
「マーリエ様。失礼ながら、フリエンスではなく翩族とお呼びした方がよろしいかと」
すぐにパウルから訂正が入った。
どうしてなのかと私が質問すれば、獣人は祖先の動物をとても大切にしているので、同列に扱うことを嫌うんだとか。
祖となる動物をもとに、神様が獣人を創った。ようは、その動物がいなければ自分たちはいなかったというわけだな。
「そうでしたの。知りませんでした」
「これでマーリエも一つかしこくなったね!」
おそらく、周りの大人がそう言っていたから、マーリエもなんの疑問を持つことなく口にしたんだと思う。
訓練が終わり、再び整列した軍人たち。
ペリーさんに許可をもらってから、バルグさんのもとへ突撃する。
「バルグさん!またあれやって!!」
「お嬢、好きだな…」
はぁっとため息を吐かれたが、あれが楽しいので何度でもお願いしたくなるんだ!
バルグさんの尻尾がシュルリと私の腰に巻きついた。
ひょいっと軽々持ち上げられ、左右にゆっくりと振られる。
徐々に勢いがつき始め、回転の動きも入れば、まさにジェットコースター!
こちらの世界ではなかなか味わえないスピード感に、私はキャーキャー声を出して喜んだ。
人を吹っ飛ばせるほどの力がある蜥族の尻尾ならではの遊び方だ。
「おもしろかったー!」
パウルが頭を抱えているが、これは蜥族ではポピュラーな遊びの一つだ。
大人が子供にやってあげる、高い高いと同じだよ。
「ダオもやる?」
「えっ!?僕?」
難点と言えば、かかる負担が大きいので、対物理攻撃の文様魔法が施された服を着ていないとできないことだ。
その点、私の服には全部施されてあるし、ダオやマーリエのような身分の高い人の服にもしてあるのは知っている。
「殿下が怪我でもされたら……」
「そこにおいしゃさまがいるから大丈夫!それに、けがしたっていいじゃない。痛みをがまんすることも、子どものうちに覚えないと」
さすがに大怪我とかだったら無理だけど、転げて擦りむいたくらいの傷は放っておいても治るものだ。
「最近は大人しくしていらっしゃると思っておりましたが、こんなことをされていたとは」
「おにい様がいないから、大きなけがはしていないでしょう?」
パウルの嘆きに返答すると、それでかと納得された。
お兄ちゃんがいれば、すぐに治してくれるので、安心して思いっきり遊べるんだよね。
でも、ちゃんと安全第一で遊んでいるし、今まで大きな怪我をしたことはないよ!
「じゃあ、バルグさんお願いね」
ダオをバルグさんの側まで連れていくと、やや投げやりな様子で尻尾を巻いていく。
「ダオはここにしっかりと掴まっていて」
尻尾の太い部分に手を置き、安全装置のように握らせた。
それでは、いってらっしゃーい!
左右にブンブン振り回されるダオを見て、警衛隊の皆さんは気が気じゃなさそうだ。
でも、ダオの顔を見よ!楽しそうでしょ!!
ああいう激しい乗り物系は苦手かなって思ったけど、楽しそうに笑っていた。
見ているこちらまで楽しくなってしまう笑顔だ。
「楽しかった!初めての感覚だったよ!」
ここまではしゃいでいるダオは今までに見たことがない。
それは、ダオの警衛隊の人たちも同じだったようで、驚きを隠せずにいた。
「バルグさん、ダオには手加減したでしょ!」
「お嬢じゃあるまいし、初めての殿下に力いっぱいやるわけないだろ」
ダオには回転技が少なかったことから、手加減というか周りへの配慮だったのかもしれないけど……解せぬ。
私が初めてやってもらったときは、本当に吹っ飛ばされるくらいの速さだったのに!
「マーリエもやる?」
「わたくしは遠慮しますわ。怖そうだもの。…あ、せき族の方がではなく、速いのがですよ!」
バルグさんに誤解されまいと、速いのが怖いと強調して言うマーリエだったが、その必要はなかったみたい。
「いや、普通のご令嬢はそうだと思います。お嬢がおか……別格というか…」
バルグさん、今、おかしいって言いかけたね?
正直に言ってごらん?
「ネマと比べられるのはちょっと……」
「えっ?マーリエまで!?」
まさかのマーリエの裏切りに、今度は私の方が慌てた。
というか、そのやり取りで周りのみんなが笑っているけど、笑いごとじゃないから!
「それだけ、お嬢が型破りというか…まぁ、好ましいってことだ」
褒められている気がしないが、バルグさんが好ましいというのなら信じよう。
私がいじられたのは釈然としないが、場の雰囲気もよくなったのはいいことだよね?
そろそろ次に移動しようってことになったのだが、ピクニックする場所までは馬車で行くらしい。
護衛のかね合いでそうなったんだけど、私たちの足じゃ時間もかかるし、しょうがないよね。
一台の馬車に私たちとパウルが乗って、もう一台に森鬼やスピカたちが乗った。警衛隊のみなさんは馬で並走している。
ちなみに、ピクニックするのは、ルイさんにおすすめしてもらった場所だ。
小高い山の上で、帝都が一望できるらしい。
いまだ帝都には行けていないので楽しみだ!
一時間もしないうちに目的の場所に着いた。
おしゃべりしていたら、あっという間だったよ。
小高い山は、帝都に住む者たちの憩いの場なのかもしれない。
適度に間引きしてある木々に、小洒落たベンチ、四阿もいくつかあった。
「おぉぉぉ!!」
令嬢としてあるまじき声が出てしまうほど、目の前に広がる光景は美しかった。
我が王都とは違い、様々な文化が入り混じった街並みがあった。
とりわけ目立つ輝青宮は、その名の通り、太陽の光を浴びて青く輝いている。
特殊な素材が使われているらしく、夜でも淡く輝くんだよ!
帝都を取り巻くように、いくつもの高い塔があるんだけど、時報せの塔と言うらしい。
天辺と真ん中に、時間を報せるための発光器が設置してあるとか。
今は明るいので、かろうじてわかる程度だけど、ちゃんと光っていたよ。
こうしてみると、本当に我が国と違うことが多い。
「あれ、なんだろう?」
帝都の一角に、木々が密集している場所があった。
公園にしては、密集しすぎな気がする。
しかも、煙突のようなものがあり、もくもくと煙も出ていた。
「エルフの商業地区です」
ダオもマーリエも知らなかったので、代わりに警衛隊の隊長さんが答えてくれた。
「エルフの?」
「はい。エルフの一族は博識で、魔法にも詳しいため、お金を出して知恵を借りる者もいるのです。また、薬を作ったり、魔道具を作ったりとしているうちに、あのようになったらしいです」
薬に必要な植物を育てよう、魔道具に必要な木々を育てよう。ついでに、自分たちの居心地のいいようにしてしまおうという結果があれらしい。
あの中を案内するガイドさんもいるっていうから、内部はとても複雑になっているんだろう。
でも、面白そうだ!
帝都観光の際には、ぜひとも行ってみたい!
街並みを堪能している間に、パウルたちがお昼の準備を整えてくれていた。
草の上に絨毯を敷いて、手で摘めるものや一口サイズの食べやすい食事がたくさん。
隊長さんは四阿の方がいいのでは?って言っていたけど、こんなに天気がいいのに、この開放感を味わわなくてどうする!
「お外で食事って不思議な感じがするけど、作法を気にしなくていいと思うと、いつもより美味しく感じられるわね」
「ダオもいっぱい食べてね。好ききらいはダメよ!」
ダオのお皿にぽいぽいとおかずを載せると、ダオがしかめっ面をした。
ピーマンもどきが嫌いらしい。
根菜で味がピーマンに似ているんだけど、燻製したお肉を巻いて焼いてあるものはマジで美味しいから騙されたと思って食べてみて!
「ダオ、あーん……」
一向に手をつけようとしないダオにしびれを切らし、強行手段を取る。
「ちょっ、ネマ!不敬よ!!」
マーリエが騒ぐので、その口にトマトもどきを放り込む。驚きつつも咀嚼し始めたので今のうちだ。
ダオもマーリエの方に気を取られていたようで、その一瞬の隙をついて肉巻きピーマンを口に入れた。
さすがに口に入れたものを出すなんて不作法はできないので、眉間に皺を寄せ、なんとか食べた。
「……意外と美味しいわ」
マーリエの言葉に、ダオも頷いていたので一安心。
匂いや食感で苦手意識を持っていただけなのかもしれない。
「でしょ!料理人たちが手間暇かけて作ったものだもの。おいしいに決まっているわ」
我が国ではあっさり系の味付けが多いけど、ライナス帝国では濃いめの味付けが多い。そのためか、パンやサラダはシンプルなものが多く、舌休めにはちょうどいい。
それから二人はいろいろなものを食べてみて、この味は苦手だとか、これは美味しいとか感想を言い合っていた。
私もいっぱい食べて、お腹がパンパンになってしまった。
食後のお茶を飲んでまったりしたあと、何もしないのももったいないと思って、星伍と陸星と追いかけっこをすることにした。
身体能力の差か、二匹を捕まえることはできなかった。
二対一だから捕まえられないんだと思い、ダオとマーリエにも参戦してもらう。
「ダオ!そっち!」
「ネマ、無理だよ」
「ワンッ!」
頭を使わなければ、捕まえられそうにない。
ダオに星伍を追いかけてもらい、陸星の動きはマーリエが監視している。
二匹が連携を取れないよう引き離し、方向転換でスピードが落ちるときを狙って飛びかかる。
「星伍、つかまえた!」
「ワンッ!」
捕まったけれど、嬉しそうに尻尾を振る星伍にうりうりと頬擦りをする。
「君、凄いね」
ダオも星伍を褒めてくれた。
見たことはないけど、ハイコボルトである二匹の本気はこんなものではない。遊びだから、私たちに合わせてくれたのだろう。
いい子いい子と星伍を褒めていたら、陸星が僕もーと突進してきた。
ダオに星伍を預けて、私は陸星をぎゅーっとする。
「陸星もつかまえた!」
陸星にも頬擦りをしていると、そろそろ移動しますよと声がかかった。
魔法で身なりを綺麗にしてもらってから馬車に乗り込む。
思いっきり走り回ったので、移動を始めたらすぐに睡魔が襲ってきた。
ダオはすでに寝てしまっている。
ダオの可愛い寝顔を愛でていたいけど、私も限界だ……。
「……様。ネマお嬢様、起きてください」
「…まだおきない」
「軍本部に着きましたよ。起きないなら置いてきますが?」
置いてけぼりとか冗談じゃない!!
がばりと勢いよく起きると、マーリエが呆れた顔をしていた。
「パウルと言ったかしら。貴方、ネマの扱いが上手ね」
「お褒めくださりありがとうございます」
んんん?
それ、お礼言うとこだった?
まだボケーッとしている頭のせいか、二人のやり取りに何も言えなかった。
「ほら、早く行きましょう」
マーリエに促され、馬車を降りると、そこは大きな砦だった。
宮殿と同じくらいの大きさがありそう。
「ここがイェリード要塞……」
あまりの迫力に押されてしまったが、ダオが言った言葉が気になった。
「ようさい?軍の本部じゃなくて?」
「昔、まだ戦をやっていたときの皇帝が造ったんだ。だから、その皇帝の名をつけられているらしいよ」
なるほど。歴史的にも重要な建物っていうわけか。
実際に戦で使用していた要塞ということもあっての迫力なのかもしれない。
「お待ちしておりました、ダオルーグ殿下。ネフェルティマ様とマーリエ様もライナス帝国軍本部へようこそ」
しなやかに美しく一礼して見せたのは、パーティーで会った総帥さんだ。
今日は正装ではなく、簡易的な軍服を着ているので、耳と尻尾がよく見える。
毛並みは淡い黄色というかクリーム色かな?
光の加減によっては白にも金にも見える不思議な色だ。
耳も尻尾もネコ科特有の形をしているが、なんの動物までかはわからない。
大虎族も小虎族も混血が進んでいるので、特定はできないかも。
「今日はよろしくお願いいたします!」
「ペリーから話は聞いておりますよ。あちらの部隊の者とはずいぶん親しくなられたとか」
みんなが寛容だったということも大きいだろうけど、お子様の相手を嫌がらずにしてくれるいい人たちなんだ。
それを伝えると、私の人柄もあるだろうと言ってくれた総帥さん。
ぜひともバルグさんに聞かせてあげて欲しい。
総帥さんが本部の中を案内してくれるというので、お言葉に甘えることにした。
またも隊長さんが何か言っていたが、さすがに総帥の一声で押し黙った。
ぞろぞろと総帥さんについていくと、当たり前のことだけどたくさんの人が働いていた。
もちろん、そのほとんどが獣人だ。
猫耳が多い気もするが、犬耳もいるし、兎耳もいる。
逆に人とほぼ同じだけど獣人だっていう人もいた。
「あの方はどのじゅう人なのですか?」
「彼は蛇族。影を代表する一族です」
影とはどういう意味かを聞いたら、いわゆる隠密だった。
確か、王様の私兵も影って呼ばれていたような気もするけど、こちらの影は我が国でいう情報部隊のようなものらしい。
祖となるヘビの能力がとにかく凄いんだって。
「彼ら一族は、他の獣人とは異なる感覚を持っていまして。言葉では説明しにくいですが、舌で匂いを感じたり、生き物の発する熱を察知することができるのだとか」
それは、ヤコブソン器官とピット器官では?
ヘビ以外にも持っている動物はいるけど、動物の中でトップクラスの高性能センサーには違いない。
「何より、体の関節を自由に外すのは、我らには真似できません」
「えっ!?体のかんせつって、手足以外もってこと?」
「手が届く範囲が正しいかと。さすがに背骨は無理らしいですが……」
背骨も外せたら、脊椎動物としての存在意義が問われるよ!
ヘビだって顎以外は外せないから!
地球産のヘビは顎の関節を外し、獲物を丸呑みする。その際、肋骨が大きく開き、皮が伸びるから自分よりも大きなものでも体内に取り込むことができる。
まさか、こちらの世界のヘビは、他の関節も自由に外せるとでも?
いや、どこを外すの!!
蛇族の仕事内容よりも、その生態の不思議さに言葉が出ない。
驚いている私を他所に、総帥さんは彼らのことをいろいろと教えてくれた。
そりゃあ、関節が外せたら、拘束されても逃げ出せるだろうし、狭いところも通れるかもしれないけど。
高性能センサーで、敵の人数とか動きもわかるかもしれないけど。
しかも、飢えに耐性がある?あぁ、燃費いいもんね、ヘビ。
おかしいなぁ。前に見たこちらのヘビは、確かに地球産のヘビと同じ形態をしていたんだけどなぁ。…アナコンダよりも大きかったけどさ。
なんか、違う生き物の話を聞いているみたいだ。
蛇族を超えるビックリ獣人はさすがにいないだろう。
いたら、それこそ神様に生物学がなんたるかを叩き込まなければならない!
神様、地球産の動物を模倣していることが多いけど、ちょいちょい地球産ではありえない動物もいるから油断できないんだよね。
フリエンスも動物なんだけど、キツネとタヌキを混ぜたような体に大きな翼がある。
卵で生まれて乳で育つ、暫定哺乳類なカモノハシですら翼はないのに!
どこの世界の動物を模倣したのか、聞いてみたいよね!
いろいろな部署を見て回って、今度は会議室というか会議場?
扇状に席があり、中央には壇上、その後ろの壁にはいくつもの地図が貼ってあった。
「普段は会議などに使っていますが、有事の際には司令室となる場所です」
総帥さんに断って、地図を見せてもらうと、とても精巧にできて、これまたビックリ!
ラーシア大陸全体のもの、各国のもの、そしてライナス帝国内のものとある。
ガシェ王国の地図を見ると、王宮の図書館に保管してあるものと同じくらい緻密だ。
もちろん、それ以上に詳細に描かれた地図もあるが、軍事機密として扱われているため、王様の許可なくば閲覧できない。
おそらく、この地図が同盟に反さないギリギリのラインなんだと思う。
「すごい!」
「帝国内以外の地図が使用されることはほとんどありませんでしたが…」
言葉を濁す総帥さんの視線の先には、他のものと比べて新しいのに、すでにたくさんの書き込みがしてある地図。
イクゥ国と小国家群の地図だ。
赤く塗られている場所は、国としての体裁が成り立たず、無法地帯と化した危険区域なんだって。
イクゥ国はまだかろうじて赤く塗られている部分は少ないが、小国家群は半分近くまで塗られてしまっている。
いったい、いくつの国が消えてしまったのか。
そして、平穏に暮らしていたはずの民の命が、どれだけ女神様のもとへ旅立ったのか。
やるせなさを感じてしまう。
「ガシェ王国はもちろんですが、我々もルノハーク殲滅のために動いております。必ずや、大陸に平和を取り戻しますから」
しょんぼりしてしまった私を元気づけるように、総帥さんが力強く約束してくれた。
「はいっ!」
別の作戦とやらが、国を越えて動いているのかもしれない。
私ができることなんてたかが知れているけど、私も頑張ろうって思った。
「そういえば、この旗はなんですの?」
ダオとマーリエも地図を興味深そうに見ていたが、壁一面に掲げられている旗がなんなのか気になっていたようだ。
私は大体の察しはついていたけどね。
「あぁ。各部隊の標章でもある隊旗です」
ちょっといっぱいありすぎて、いくつあるのか数えられない。
でも、ラーシア大陸の約半分を領土に持つ国だ。そりゃあ、部隊の数もいっぱいあるだろう。
「こんなにたくさんの部隊があるの?」
「帝国軍という大きな組織ですが、帝国内を五つに分けて下位の組織を編成しています」
組織図も機密事項に当たるはずなのに、総帥さんは簡略した図を描いてくれた。
五つに分けたのを方面隊。これは我が国もある。
それをさらに分けて、団、部隊、隊となる。
例えば、十の隊で一部隊、八の部隊で一団みたいな。
特別枠なのが、ライナス帝国が誇る、飛竜兵団だ。
こちらは総帥直轄の組織になるらしい。
「ペリーさんはどこの部隊なんですか?」
「ペリーは確か、中央方面隊帝都防衛団第一宮殿防衛部隊だったかと」
長いわ!!
自分の所属を言うときに絶対に噛むやつじゃん!
しかもペリーさん、隊長は隊長でも、部隊長だったなんて!!
…なんにせよ、大きい国は大変なんだな。
「もう次に行かないと、時間がなくなってしまいますね。転移魔法を用意してありますので、こちらにどうぞ」
「転移魔法?」
「竜舎は転移魔法かワイバーンでしか行けない場所にあるので」
どういうこと?
竜舎って本部の近くにあるんじゃなかったっけ?
促されるがまま魔法陣がある部屋に向かうと、王宮にあるものよりも一回り以上大きな魔法陣があった。
今日も警衛隊やらなんやらで大所帯だけど、全員が一度に転移できそう。
「では、ワイバーンの住処へ参りましょう」
どんな子たちがいるのか楽しみだなぁ。
引退した子たちは大人しかったというか、ご隠居ってな感じだったけど。
赤ちゃんいたらいいな!
前後編じゃ終わらなかった(笑)
次こそはワイバーン!!