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閑話 俺はおっさんなので疲れた!(情報部隊隊長視点)

誰やねんこのおっさん!パート3(笑)

不穏な地響きとともに、剣戟の音が聞こえた。

いまだに戦闘が行われているようだ。

急いで音のする方に向かうと、自分の部下たちが捕らわれていた人たちを守りながら戦っていた。


「総員退避だ!急げっ!!」


部下に迫りくる剣を弾き、大きな声で叫ぶ。

時間がないんでね、恨むなら聖主とやらを恨んでくれ。

そう思いながら、麻痺毒の塗ってある短剣を振るう。

即座に動きが鈍くなるルノハークたちを、容赦なく斬り倒していく。

粗方片づいたと思っても、部下たちが退避している方にまた湧いた。


「そいつらには構うな!」


敵の意識をこちらに集中させようとするが、敵も弱い者を狙う。

捕らわれて、弱りきった民たちの方を。

舌打ちをして、どうにか退路を開こうとしたときだった。


-グゥガァァァァ!!


低く獰猛な唸り声が坑道内に反響する。リンドドレイクか!?


「ここはオレに任せて、お前たちは行け!」


「ダン!」


捕らわれた人を連れた部下たちは、一瞬の隙を見逃さず、リンドドレイクの向こう側へと走って避難した。

それを確認したダンはリンドドレイクを操り、ルノハークたちを次々と倒していく。

リンドドレイクの尻尾に吹き飛ばされる者、ダンの長い戦斧に砕かれる者。

そして、踏み潰される者。

ぐしゃりと嫌な音がしたとき、悲鳴が上がった。

どうやら、逃げ遅れのようだ。

部下に支えられて逃げてきたみたいだが、思わぬものを目撃してしまい、精神的負担が限界に達し気絶してしまった。

部下はぐったりとした体を担ぎ上げ、壁とリンドドレイクの隙間を抜けてこちらに向かっている。

それに気づいた敵が、部下に襲いかかろうとしている。


「うし……」


後ろだと、部下に敵の存在を教えようとしたが、その前にリンドドレイクの尻尾が部下めがけて振られた。

さすがにそれは注意を促すまでもなく、ひょいと飛んで避けた。

そして、リンドドレイクの尻尾はそのまま敵に当たり、壁まで吹っ飛んだ。


「ダン、ここも長くは保たないぞ!」


「わかってますって!」


目視できる範囲の一番奥で、天井が崩れ落ちる。

細かな砂埃が、こちらの方まで流れてくる。

殿(しんがり)をダンに任せ退避を急ぐしかない。

俺たちがいては、リンドドレイクが退避するときの邪魔になる。味方がいない方が、容赦なく突っ込めるからな。


「離れろっ!巻き込まれるぞ!!」


鉱山の外に出ても、近くにいる者たちに声をかけ退がらせる。

だが、俺たちが脱出したあとも、鉱山の出入り口から敵が逃げ出てくる。

いったい、どこに潜んでいたのやら。

命からがら逃げ出してきた奴らも、結局烈騎隊(れっきたい)の者たちに斬り倒されたけど。

それら一段落つくと、安否の確認だ。


「各部隊、全員いるか?」


こちらの出入り口だけでなく、もう一つの方へ逃げた者たちもいるだろうが、今のうちに被害がないか確認しておきたい。


「我々の方はダン隊長以外、全員無事です」


「第二地点から突入した、四班と五班が不明ですが、他は無事です」


こちらから突入した者たちは無事か。

第二地点の奴らと連絡を取ろうとしていたとき、上空で監視していた飛翔隊から笛が鳴らされた。

ピッピッピーーと、短音二回、長音一回は、発光信号を送るので注目しろという合図だ。

魔道具を使って、祝いの六色のうち黒を除いた五色の光でやり取りをする連絡手段。

これは、国によって使用する組み合わせも違うし、我が国内でも部隊独自の組み合わせを使用しているところもある。

その最たるが俺ら情報部隊だ。

部隊の者にしかわからない組み合わせがあり、不定期に変更もされる。


上空のリンドブルムを注視すれば、緑、黄、緑の短点。これは情報部隊を示す。

そして、白の長点が一回と短点が三回は数字の八。

緑の長点三回は定型文で、全員の生存を確認となる。

つまり、飛翔隊が第二地点の様子を見て、あちら側から突入した情報部隊の無事を確認してくれたということだ。


「了解したと信号を鳴らせ」


俺の指示で、ピッピッと笛を二回鳴らす部下。

音による信号は届く距離が短く、敵に悟られやすいため、限られた場面でしか使えない。

長音と短音の組み合わせで、定型文が二十ほどあるだけだ。

発光信号も敵に見つかりやすいが、最近は遠隔操作のものが主流になっている。


「あとはダンだけか……」


早く出てこいと、祈るように出入り口を見つめる。

崩落の音は不気味さをともなって、あたり一帯に響く。

ゴゴゴッと地面の揺れに気を取られたとき、雷鳴のような音を立て、鉱山が崩れ落ちた。


「ダン隊長っ!!」


竜騎部隊の者たちが、慌てて駆け寄ろうとするのを止める。

いまだに、カラカラと乾いた音がしているのだ。さらに崩落する可能性もある。


「大丈夫だ。あいつにはリンドドレイクがついているだろう」


一縷(いちる)の望みは、リンドドレイクがいることだ。

リンドドレイクの頑丈な体なら、衝撃にも耐えうるだろう。


「土の精霊たち。場所だけでいい。リンドドレイクがいるところを教えろ」


あの方が精霊に命じている。

きゃらきゃらと、はしゃぎながら飛び回る精霊たち。

一応、まだ見る力は残っているらしい。

土の精霊たちが一点に集まり、ダンが埋もれている場所を教えてくれた。

その場所に聖獣様が向かい、目印の代わりとなる。

土の魔法を使える者たちが、あの方の命令で大きな岩を小さく砕き、その砕石を使って周囲に壁を作っていた。

つまり、鉱山自体が崩壊したために(ことわり)も変化し、魔法が使えるようになったのか。

作業が続く中、再びカラカラと乾いた音が聞こえ始めた。


「もういい、引けっ!」


慌てた様子の声に、作業にあたっていた者たちが、急いで岩山となった場所から退避する。

カラカラという音が徐々に低くなり、ドンッという鈍い音がした。


-ゴルガァァァッ!!!


鼓膜をつんざきかねない咆哮に、何人かが耳を覆い膝をついた。

怒りのためか、それとも外に出られた喜びかはわからないが、今までで一番恐ろしい咆哮だった。

そんなリンドドレイクの足元から、何事もなかったかのように現れるダン。

竜騎部隊の者たちの表情が安堵に変わる。

何気にちゃんと慕われているんだな。


「マイル、ありがとな!お前のおかげで、命拾いしたぜ」


リンドドレイクを褒めるダンの元気な姿に、ようやく俺も緊張を解くことができた。

ったく、あとで説教だな!


しばらくして、全員が合流できたが、捕らわれていた人が多いため、ひとまずミューガ領で治療を行うことにした。

リンドドレイクに運搬用の荷台を取りつけ、一気に運ぶ作戦だ。

それとは別に、もう一つ任務があるため、増員のリンドブルムが派遣されるらしい。

その間に、リンドブルムを使って、鉱山の奥、白い装束の男と武装したルノハークを回収する。

いやー、本当にあの睡眠毒、効きすぎじゃないか?

一瞬、死んでいるかと思ったわ。

こいつらと捕まえた幹部らしき者たちは、別で王都に送られ、情報を聞き出す手はずになっている。

きっと、宰相殿が今か今かと待ち構えていることだろう。

まぁ、何が行われるかは明白だ。

そして、用済みになれば、処分される。それまで、いつ毒を盛られるのか、死の恐怖に怯えることとなる。

我が国というか、あの家を敵に回すと恐ろしいということが、身に染みてわかるだろうよ。


『シーリオ!見えてる?聞こえてる?』


俺が気を緩めたのを感じた途端、突進してくるセラフィ。


「見えているし、聞こえている。ただ、どれだけ力が残っているかはわからないがな」


『…そうね。下位の精霊を一回使役できるくらいかしら』


ほとんど残ってないのと同じだな。

本当に、絶体絶命のときに使う、最後の命綱ってことか。

情報収集も精霊に頼っていたこともあるから、まじで致命的だが。


「シーリオ。悪いが今はまだ、お前に隊長職から退かれると困る」


セラフィの声が聞こえていたのか、険しい表情で言われた。


「しかし…」


精霊術が使えないまま隊長として残っては、要らぬ混乱も招くはず。

以前はできていたことが、もうできないのだし。


「聖主とやらを捕まえて、ルノハーク自体を消滅させるまではここにいろ。情報の把握が必要なら、風の精霊をつけてやる」


風の精霊をつける?俺に!?

そんなことができるのか?


「それでは…」


「シーリオの言うことを聞けと、俺が命令をすれば、お前が命令した際に精霊へ渡すのは俺の力だ。すでに実証済みだから安心しろ」


『ちょっと、シーリオは私の契約者なのよ!』


割って入ってきたセラフィに、目の前の彼ではなく、聖獣様が何か言ったようだ。

グルルと喉を鳴らしているような声がした。


『でも……』


「シーリオは精霊との付き合い方をよくわかっている。それは貴女を見ていればわかる。堕落者になるようなことはない」


この方がそう言い切ってくれるのは嬉しいが、保証はどこにもない。

俺が理を読み間違えれば、堕落者になることだってあるかもしれない。


『…わかったわ。でも、シーリオにつく子が悪さをしたら、私も黙っていないわよ。精霊同士なら消すこともできるんだから』


「駄目だ。絶対に手は出すな。そんなことをしたら、お前が傷つくだけだ」


精霊同士ならできるかもしれないが、精霊はとても仲間を大切にしている。

たとえ、言葉を交わしたことがなくても、会ったことがなくても、精霊は精霊を我が身と同じに捉える。

俺のことで、セラフィが傷つく必要なんてない。


「大丈夫だ。貴女の同朋を信じろ」


その自信はどこから来るのかわからないが、この方がそう言うのなら大丈夫な気がするから凄い。

セラフィもそう感じただろうが、別の心配もあったらしい。


『だって、風のでしょ?あの子たち、いつもやらかすじゃない』


確かに、風の精霊は短慮な一面も持っている。基本的にせっかちなんだよな。

水や土は穏やかなものがほとんどで、セラフィのような性格の方が珍しい。

ついでに、火は怒らせるとやばいから、取り扱い注意だ。


「中位精霊である貴女なら、簡単に押さえることができるだろう」


下位の精霊は、上の位にどうやっても敵わない。

セラフィは中位でも、あと少しで上位に行けるくらいには力を蓄えられているし。

あと少しか。

俺が死ぬときは、残りの力も全部くれてやるからな。


「まだまだお前の世話になりそうだな」


よろしくな相棒と続けると、セラフィは呆れた表情のあとに綺麗な笑みを見せた。


『仕方ないわね。貴方についていける精霊は私くらいだもの』



♦︎♦︎♦︎

結局、事後処理などもあるため、もう一つの任務は明日へと先送りになった。

同時に問題も浮上したので、その解決策をどうするのかを話し合わねばならない。


「俺が行こう」


「却下。そんな危ないこと、させられるわけないでしょう!」


俺がそう叫べば、ダンも深く頷く。


「だが、リンドブルムで無理ならば、俺らしかいないと思うが?それとも、ライナス帝国からワイバーンを借りるか?」


ワイバーンを借りたところで、リンドブルムで駄目だったのだから、ワイバーンでも怪しいと思うぞ。


「聖獣様がいるから大丈夫なんて仰らないですよね?近衛の面目を潰す気ですか?」


聖獣様がいて、精霊の力を借りれるからと無茶をされては、この方を守る近衛騎士たちは立つ瀬がない。

不必要だと言われているも同然だ。

烈騎隊として動かれているときは、烈騎隊の者たちが護衛も兼ねているので問題ないが、そうそう危険なものに近づけさせるわけにはいかない。

そもそも、竜騎部隊自体が護衛任務は範疇外だ。


「そうだった。我儘を言ったな、忘れてくれ」


理解してくれたのはよかったが、正直を言えば、聖獣様のお力は借りたい。

しかし、聖獣様が契約者の側を離れるとは思えない。

どうしたものか…。


「仕方ない。あの方に協力を頼もう」


あの方?

言い方からして、上の存在。もしくは、敬意を払っている存在。

なんだか、嫌な予感がする。


「今から協力してもらえるよう説得しに行くから、俺が戻るまで待て」


「だから、単独行動させるわけにはいかないんですって」


「…ついてくる気なら、飛竜でないと無理だぞ?」


いや、どこまで行くつもりなんだよ、この人は!!

飛竜じゃないとってよっぽどだぞ!


「ダン、お前とあと一名は任せる。同行しろ」


ため息を一つ吐いて、ダンに頼む。

ちょっと陛下に陳情しようかな。

リンドブルムに乗れる近衛騎士を用意してくれって。


「了解です」


一度、王都に立ち寄ると言って、すぐに聖獣様に騎乗して飛び立っていく姿を見送った。

ダンも慌ただしくあとをついていく。

一時的にだが、残った竜騎部隊の指揮権が俺に押しつけられた。


「おーし!やることやったら飯にするぞー!」


そして朝になり、燃え盛る炎のような深紅の色を見て、頭を抱えることとなる。


途中でおっさんの彼女と、おっさんにお見合いを斡旋する上司みたいに思えてきて、夜中にツボってました(笑)

なんだかんだ言っても、セラフィはおっさんが大好きなんだなぁと。

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