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だいぶ遠くに来たなぁと実感した!

昨日と同じように、ユーシェに乗って向かったのは大きな森だった。

絋深(こうしん)の森と言うらしい。

大きな樹々がそびえ立つ姿は圧巻だ。

私が両手を広げても足りない直径の幹と、見上げても天辺が見えない高さ。

世界一高いというセコイヤの木と、どっちが高いかな?

天辺がどうなっているのか気になる。

凄く、気になる!

そして、私が乗っている子には、翼があるじゃないか!!


「陛下、お願いがあるのですが…」


ダメ元で聞いてみよう。

ダメだったら、他に空中機動を持つ子にお願い……って、ソルしか選択肢がないわ。


「どうした?」


「…この森をお空から見てみたいです!」


言っちゃった。

陛下にお願いとか、パウルに怒られるかもしれないけど、言っちゃったもんはしょうがない。


「空か。ちょうどいい。ネフェルティマ嬢に見せたいものがある」


陛下は警衛(けいえい)隊の隊長さんに声をかけ、私にはウィーディによる命綱が、昨日よりもしっかりとぐるぐる巻きにされる。


「ユーシェ、ゆっくりと上昇してくれ」


陛下の命令を受けたユーシェが、その場で力強く羽ばたく。

徐々に上がっていき、樹々と同じ高さになり、それを追い越す。

広い空の青と、光りを浴びて鮮やかに色づく緑と、とても美しい光景が視界いっぱいに広がっていた。

深い森だとは聞いていたが、本当に切れ目がない。

ゆっくりとさらに上昇していき、ようやく視界に他のものも入ってきた。

遠くにそびえ立つ山々に、大きな川。その向こうに見えるのは街かもしれないが、小さくてよくわからない。


「ネフェルティマ嬢、あそこを見てごらん」


陛下が指を刺す方向に、この森の樹々よりも高い樹々が密集している場所があった。

小さな山かなと思ったが、どうも様子が違う。

何かに覆われているような、守られているような感じがする。


「あそこが精霊王の住まいし精霊宮だ」


え?えぇぇぇ!!!

あれが精霊宮!?

ってことは、あそこがラーシア大陸の中心!?


「精霊宮自体が広大な森になっている。そして、その森を守るように、深い森が囲っているんだ」


「陛下は精霊王様にお会いしたことありますか?」


ヴィは一年に一回程度、精霊王に会っているらしい。

どんな感じなのか聞いても教えてくれないんだよ!会えばわかるって!


「あぁ。我が帝国では、二巡に一度、精霊王様へ贈り物をする儀式があるからな」


儀式と言っても、本来なら陛下一人でやるものらしい。

でも、皇族に聖獣の契約者がいる場合、同行するのが通例になっているとか。

なので、陛下の場合は先帝様や皇太后様もいるため、一人で行ったことはないんだって。


「私は恵まれているんだよ。父上と母上という素晴らしい先達がいて、私が在位中には後継者も決まるだろう。つまり、他のどの皇帝よりも、多くの聖獣に恵まれた時代に皇帝でいられる」


確かに、陛下の言う通りだ。

サチェ、カイディーテがいて、自分にはユーシェがいる。

そして、子供たちの誰かが聖獣と契約すれば、その聖獣もだ。

一つの国に聖獣がこんなにも集まるのは、歴史的に見てもそうないんじゃないかな?


「そして、創造神様の愛し子と出会うこともできた。とても凄いことだと思わないか?」


今までのパターンで言うなら、陛下は相当、神様に気に入られていると思うところだ。

実際、凄く気に入っているんだろうなとは思う。

だけど、聖獣を与えるほど気に入っている人間を、こうも一ヶ所に固めているのはなんでだろう?

陛下がユーシェと契約したのは、二十年以上も前らしい。

ということは、私が転生するときに言われた件は関係ないのか?

うーん。うーーん…深読みしすぎかなぁ?


「陛下が神様のいとし子みたいですよ?」


それだけ聖獣に囲まれて育ったんだ。

私よりも愛し子に向いているのでは?

すると、陛下は声を上げて笑い出した。


「それはないな。愛し子には、創造神様の力が宿っていると言われている。ネフェルティマ嬢は感じたことはないか?」


神様の力!?

もふもふ能力のこと?


「いろいろな生き物とすぐに仲良くなれます!」


「そういうことではなく、そうだなぁ」


陛下はしばらく考え込んだのち、少し長くなるが、昔の話をしようと言った。

陛下が語った昔の話とは、我がガシェ王国にまつわる話だった。


今から四百年ほど前。ガシェ王国が誕生しておらず、乱世の時代と呼ばれているときだ。

魔物が減少して、あちらこちらで飢饉が起きて、いろいろな国同士が衝突していた。

その当時のライナス帝国は今よりも小さく、ライナス帝国より大きな国が攻め入ってくるという情報が入った。

ライナス帝国の皇帝が戦に備えていたところに、我がガシェ王国の初代国王ギィが立ち、次々と国を落としていったとか。

それによって標的がライナス帝国から、誕生して間もない国に変わったという。

このときはまだガシェ王国を名乗っておらず、ガンシア国と言っていたらしい。

私たちのご先祖様が早急に国としての体裁を整えるも、ギィは常に刺客から狙われる生活だった。

そんな中で、ギィが騎獣のロイと精霊の住処で出会った。

精霊の住処と呼ばれる、精霊に守られた森があったらしい。


「精霊が契約していた聖獣様に言ったようだ。愛し子を助けて欲しいと。そのときの皇帝の手記に残っていた」


人の世のことはわからぬが、ギィという名の人の子をけして死なせるな。

かの者は創造主の愛し子なり。

人の長となったお主ならば、愛し子を守る盾となりえるだろう。

当時の皇帝はさぞ驚いたに違いない。

聖獣が契約者より別の者を優先したのだから。


「聖獣様の言う通りに、ギィという人物を調べ、それが騎士から王へと登りつめたと知るやいなや、ギィの後ろ盾になったようだ」


つまり、我が国はライナス帝国の支援があったおかげで、ガシェ王国として足場を固めることができたのか。


「ギィと会ったときのことも書いてあったぞ」


精悍な顔立ちの青年は、姿を見る前からただならぬ者だと感じていた。そして、姿を見て納得した。

かの者は創造主の化身。その身に内包するは、溢れんばりの創造主のお力。聖獣や精霊は惹かれ、私は畏怖を感じる。

愛し子とは、創造主そのものかもしれない。


手記の内容を(そら)んじた陛下も凄いと思うけど、それを聞かされた私の気持ちを10文字以内で述べよ。

何してくれてんの!!

ギィを特別扱いしすぎじゃない?

私にそんな力ないよ!?

なんか一気にハードルが上がったよね?

というか、私が愛し子じゃない可能性も……ないか。

ラース君が私のことを愛し子だって言ったんだった。


「ネフェルティマ嬢が何も感じていないのであれば、まだ力が目覚めていないだけだろう」


「その皇帝さんはなぜ神様の力ってわかったのですか?」


そもそも、その皇帝が感じたという力が神様のものだという証拠はない!


「その皇帝が精霊術師だったからだ」


ん?精霊術師だと、神様の力がわかるの?なんで??

私が首を傾げると、陛下は一瞬だけ悲しげな表情をした。


「精霊術師が精霊に命令をする際、その身に宿す創造神様の力を譲るのだよ。精霊はその力を取り込み、より上位の存在になっていく」


昔はたくさんいたという精霊術師だけど、そんな仕組みだったとは。

陛下が言うには、精霊術師が身に宿す創造神様の力は恩恵なのだと。

だけど、その力を欲のために使い、精霊を穢し、消滅させてしまうから、神様も恩恵を与えなくなったのではないかって。

でも、神様は地上に干渉できないって女神様言ってたよね?

てことは、精霊術師の力は恩恵ではない。

じゃあ、その力はどこから来たのか。

考えられるのは、一番最初に与えたからだよね。

世界の(ことわり)が明確化する前に、一番最初に人間を作ったときに与えていたとしたらありえるのでは?

そして、魂は輪廻転生する。

力が残っていれば、次の生でも精霊術が使える。力がなくなれば、次の生では精霊術師ではなくなる。

よって、必然に精霊術師の数が減っていく。

精霊術師は、はなからいなくなる存在だった?

ひょっとして、精霊が人間と関わるようにするためだけの仕組みなのかな?

でも、なんでそんなこと…。

そもそも精霊ってどんな存在なのか?

……うぅぅぅ、わからない!!


「精霊さんって、どんな存在なんですか?」


「どんなとは?」


「この世界にとって、なんのやくわりを持っているのかなって」


「一概には言えんな。私は正すものだと思っている」


正すもの?と重ねて問えば、自然の流れをと返ってきた。

なるほど。つまり、世界の修復機能というわけか。


「彼らがなんのために創られたのかは、精霊王様くらいしかわからないだろう。創造神様の声を聞けるのは、精霊王のみだ」


精霊王なら神様とコンタクト取れるのか。

それならぜひとも会ってみたい。

会っていろいろと聞きたい。

力とはなんなのか、愛し子とはなんなのか。

本当の目的はなんなのか…。

人間を滅ぼすかどうかを決めるだけじゃないと思う。


「精霊王様に会えますか?」


「精霊宮は聖獣と一緒でなければ立ち入ることはできない。…必ず機会を作ると約束する。しばし待っていてくれるか?」


忙しい陛下自らが連れていってくれると!?

それならソルにお願いするよ!


「陛下のお手をわずらわせるのは申しわけないです!」


「なに、私が見てみたいのだよ。あの精霊王たちが、愛し子の前でどんな反応をするのかをね」


陛下がこんな言い方をする精霊王とはいったい…。

ヴィも教えたがらなかったし、なんかヤバかったりするのか?

ちょっと、会うのが恐ろしくなってきた…。


「さて、戻るとするか」


まだ少しもやもやしているが、これ以上は時間をかけることはできない。

これから、ロスラン計画の候補地の下見なのだ。


地上に戻り、陛下が待たせたことを詫びたので、私は待っていてくれたみんなにお礼を言った。

そして、号令がかかり列が進む。

ぼんやりと景色を見ながら、先ほど陛下が語ったことを反芻(はんすう)する。

あれか。歴史をもっと掘り下げて勉強しろってことか?

ガシェ王国の初代国王と、後ろ盾になってくれたライナス帝国の皇帝と、照らし合わせながら調べてみたら、何かわかるかなぁ。


「ネフェルティマ嬢、到着したよ」


ハッと周りを見回せば、木の小屋がいくつかある広場みたいなところにいた。

ヘリオス伯爵の説明によると、ロスラン計画に必要な調査を行なっている人たちの拠点なんだって。


「姉様っ!」


ヘリオス領周辺に伝わる民族衣装を着た女性が駆け寄り、ヘリオス伯爵に抱きついた。


「陛下の御前だぞ」


そう叱られると、女性はごめんなさいと素直に謝った。

そして、陛下の前で流れるような美しい動作で礼をした。


「無礼をお許しください。フランティーヌ・ヘリオスの弟、ゼルティールでございます」


「ほぉ。噂の弟御か」


「どうぞ、ルティーとお呼びください」


あっ!!わかった!!

さっきからやり取りに凄く違和感があったんだけど、女性の姿なのに弟なんだ!!

…あれ?あれか!?

まさかの男の娘か??

いや、男の娘っていう歳ではなさそうだから、女装の美男(びなん)の方があっているか……。

てかさ、なんでこの姉弟は性別逆転しているの?


「まぁ!男性の方でしたの!?」


お姉ちゃんも男の人だと気づいて凄く驚いている。

気持ちはよくわかるよ。

ヘリオス伯爵の方は、身体のラインが女性的だから、男性の服を着ていても女性だとわかる。

弟さんの方は身体が華奢だから、ぱっと見では男性だと思わない。

それに、首元まで隠すレースの襟と、大きなリボンの髪飾りのおかげか、男性的な特徴が目につかないのだ。

あと、民族衣装のエプロンドレスがめっちゃ可愛い!

男性用は三つ揃えのスーツみたいな感じで、意匠は華やかなものと可愛いものとあり、総じて可愛かった。

ピィノとニィノの双子ちゃんに着せたら、絶対に似合うし、可愛い!!

お土産にしようかな?


「男に生まれてしまいましたが、心は乙女ですの。ですから、仲良くしてくださいね!」


「えぇ、もちろんですわ」


すんなり受け入れてしまうところは、やっぱりお姉ちゃんだなぁ。

性別とか、外見とかにはあまりこだわらず、その人自身をしっかり見ているというか。

中身が悪い人でなければ、姿身なりは関係ないんだろうね。

ただ、それを瞬時に見抜く力は、上級貴族だからこそなんだと思う。

まぁ、味方につけた方がいいという、損得勘定が働いたのかもしれないけど。


「乙女とか言う年頃でもないだろう」


呆れた様子のヘリオス伯爵に、弟さんが頬を膨らませる。


「乙女心に年齢は関係ないのよ!」


この感じからして、年齢は聞いちゃいけないな。

それでも、二十代半ばくらいだとは思うけど。

頬を膨らませて拗ねる姿が似合うって、それはそれで凄いな。


「姉様の言う通りに、候補地周辺の村から計画の承諾をもらったのに、褒めてくれないの?」


「…よく説得できたな」


「陛下の御印(おしるし)をいただいているのに、できませんでしたとは言えないもの」


陛下の紋章を用いた何かを使って、陛下の威光を利用したのか。

見た目に反して、なかなかやるな。


「では、どこまで進んだのか、聞かせてもらおうか」


陛下の一声で、青空会議が開かれることとなった。

これだけの人数が入る小屋がないので仕方がない。

まず、今後はこの場所を拠点にして、拡張していくらしい。

そもそも、この広場はなんなのかと聞いたら、休憩する場所だって。

絋深(こうしん)の森に沿って、私たちが来た道は、ある程度交通量があるらしい。

ただ、宿泊施設がある町までは離れているので、ここで一息休憩して、数時間歩いたところに野宿ができる場所があるんだって。

絋深の森の反対側は草地となっており、所々に低い木が生えている。

奥に行くにつれ、森のようになっていくが、絋深の森とは雰囲気が違うのがまた面白い。

生息している植物の種類も明らかに違いが見えた。

ここをシアナ特区のようにするには、観光要素がないといけないわけだが、もちろん温泉は気配すらない。

まぁ、銭湯に似たロダンという風習が根づいているので、大きなお風呂で問題ないと思う。

じゃあ、他にはと言っても、目ぼしいものがない。


「いずれぼうけん者を受け入れられるようにするとしても、何か足をはこびたいと思わせるものがないと…」


そういう魅力がないと、各組合を誘致しにくいと思う。

現に、シアナ計画のときはママンの根回しがあったにせよ、すぐに賛同してもらえたわけではないし。

そう伝えると、各組合への説得も終わっているって言われた!

シアナ特区同等のものを作り、なおかつ、オスフェ家の協力を得ていると言ったら、すぐに賛同したって。

ちなみに、こちらの組合長はガシェ王国で会った人たちではない。

各国に組合長がいて、いわゆるエリアマネージャーみたいな感じだ。

小国家群はまとめて一つのエリア扱いされているけどね。

各組合が協力してくれるなら、観光要素はどうにかなるかもしれないけど、

一番の問題が魔物をどうするのかだよ!

シアナ特区の魔物たちは、私が名前をつけた子だったり、友好的だったりするからできたことだし。

種族的に知能があり、こちらのことを理解できていたのも大きい。


「魔物はどうするのですか?」


「現在、多くの種類が確認されていますわ。絋深の森はほとんど人が立ち入らないので、逃げてきたみたいです」


弟さん、と言うと拗ねられたので、ルティーさんが教えてくれた。

調査によってわかったのが、コボルトやゴブリン、オークの群れ、スライム辺りまではよかった。

ダムタと呼ばれる目玉みたいな魔物とバジリスクは、石化の能力を持っているため非常に危険だ。

ウッドスパイダーという、フローズンスパイダーの近縁種もいるらしい。

聞いた限り、レイティモ山より危険度が高い。

新人冒険者だと、逃げる前に死んでしまいそうだ…。

そうぼやいたら、ダムタやバジリスクといった石化能力持ちには、共通の回避方法があるから、そこまで危険じゃないとパウルが教えてくれた。

土属性の魔石を与えれば、それを咥えて逃げていくんだとか。

その子たちにとって、土属性の魔石は大好物なご飯なのかもしれない。

だけど、タイミングが悪ければ石化するんだよ!?


「シアナ特区よりもじょうきゅう向けにした方がよさそう」


実際、魔物に接触してみないことにはなんとも言えないが、経験上コボルト、ゴブリンはどうにかなると思う。

オークも群れを形成しているのであれば、長と仲良くなればいけるはず。

できれば、あと一種類くらい強い魔物が欲しいかな。その魔物がこの森の長的存在になってくれれば万々歳だけど、そう上手くはいかないよねぇ。


「魔物については、一つ案がある。それが可能かどうかは、明日になってみないとわからないが」


そうだ!明日は情報が届くまで未定って言ってた日だ!


「明日のこと、決まったのですか?」


「まだ内緒だ」


お上品な笑顔つきで言われてしまっては、突っ込んで聞けないね。

明日、何があるんだろう?


あとの話は私に関係のないというか、わからない話ばかりだった。

組合の誰々が担当者になったとか、いつぐらいに日程会議をしたいとか。

重要な会議は宮殿でやるようなので、私が必要だったら教えてくれるでしょ。

会議を終えると、周辺の確認ということで散策することになった。

草地の奥の森に行ってみると、複数の種類の木が生えていることに気づいた。

絋深の森は、樹高の高いあの木がメインだったが、こちらは枝振りが広い木もあれば、幹がうねっている木もあり、見ていても楽しい。

特に、木登りに適した木を見つけたときは、うずうずしちゃったよね。

パウルに怒られそうだったから、木登りは我慢した。


今度は道の方に戻り、ちょっと先に進むと、なぜか突然崖になっていた。

地層のような縞模様がうっすら見えるけど、断層の隆起とかじゃないよね?

地震って言葉、こっちでは聞いたことないもんね。

魔法で地面を振動させる地揺れならあるけど。


「この規模の悪戯(いたずら)は珍しい」


「ひょっとしたら、上位精霊がやったのかもね」


テオさんとルイさんの会話に、はて?と疑問に思った。

会話から、『精霊の悪戯』なのはわかったけど、精霊の悪戯って地味だけどやられたら嫌な、みみっちぃというかせこいアレじゃなかった?

地形が変わるほどのものは、悪戯の域を越えていると思うぞ。

でも、この崖、どこまであるのか気になって、周囲を調べたら円になってた。

それで悪戯って納得したね。

この大きさの地面を円形に押し上げるなんて、精霊か特級レベルじゃないと無理だ。

私が崖の前でなるほどと納得していると、稲穂が側に寄ってきた。

淋しがり屋な稲穂のために、白とグラーティアは移動中、側にいることにしたらしい。

稲穂の背中に乗っていた白とグラーティアは飛び降りると、崖の下にピタリとくっついた。

…まさか、お前たち、アレをやるつもりなのか!?

止めようと声をかける前に、稲穂がきゅっと鳴いた。

それが合図だったのか、白とグラーティアが同時に動き出した。

坂道を転がるオレンジのように、コロコロと転がっているのは白。

たぶん、目の錯覚かな?

オレンジはほぼ垂直の崖を転がりながら登らないし。

その隣には、全人類の敵とも言えるアイツのように、サササッと目にも止まらぬ速さで脚を動かすグラーティア。

マジでやめれ!

グラーティアは体が黒いからなおさらアイツに見えてならない。

あっという間に一番上まで着いたようで、白の勝どきが聞こえた。


「もう!おりてきなさーい!」


すると、二匹ともぴょーんとダイブするもんだから、肝が冷えた。

グラーティアが風に流されそうになって、近くの木に糸を飛ばして事なきを得た。

糸を垂らしてぷらーんと降りてきたグラーティアを確保する。

怪我はしていないようなので一安心。


「遊ぶときは安全第一!あぶないことしちゃダメだよ」


叱ると、グラーティアは両前脚をすりすりし始めた。

ピョコッピョコッと体を上下に弾ませるという、今までにない不思議な動きもしている。

ごめんなさいと謝っているのかな?

…仕方ない。可愛いから許してやろう。

ちょいちょいとグラーティアの頭を撫でると、許したのが伝わったのか、いつもの謎の踊りに変わった。

はぁ。うちの子が可愛いわぁ。

我が家に帰ったとき、お庭のアスレチックを増設しよう!


…あっ!いいこと思いついた!!


きっとろくでもないことを思いついたに違いない!


男装の麗人の対義語を調べたら男の娘ってなったてけど、ルティーさんのお歳を考えると違うなぁと。

しっくりくる言葉、他にないですかね?

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