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本当に恐ろしいのは…。(デールラント視点)



可愛い愛娘が、天虎に寄り添って眠っている。

本当に天使のように愛らしい寝顔だ。

正直、殿下の聖獣が雄なところは気に食わないが、ネマを護ってくれているので我慢しよう。


謁見の間に集まった貴族たちが煩くなってきた所で、天虎がネマを寝かしつけてくれたのは有り難い。


これ以降の会話をネマには聞かせたくないという、天虎自身の判断ならば、異様とも言えるが。


天虎は言葉をしゃべることはできない。しかし、契約者とは何らかの方法で意思の疎通ができる。人間の言葉も理解でき、もしこの場で王族の悪口でも言えば、天虎経由で殿下に知らされるだろう。もちろん、殿下に害有りと天虎が判断すれば、即咬み殺されるだろう。

ネマにとっては、天虎の側が一番安全だと言える。


集まった貴族たちは炎竜の利用価値に目を輝かせ、どうしたら自分たちに有益に働くか議論を飛ばしている。

大臣たちはどちらかと言えば、ネマの方を気にしている。

現状を詳しく話せと迫ってくる内務大臣のオリヴィエ・ワイズ。

王国騎士団と近衛師団のトップ、将軍のゴーシュ・ゼルナンはネマの身の回りに危険はないのかと問うて来た。

彼らはネマのことを心配してくれているのだ。

内務・外務・財務の三大臣と将軍、宰相の私の先祖は『建国の英雄たち』と呼ばれていて、私たちも強い絆で結ばれていて、初代から変わらぬ家族ぐるみでの付き合いだ。


そんな彼らとの会話に割り込んで来た者がいた。


「ネフェルティマ様を我が神殿にてお預かりしたいのですが、いかがでしょう?」


何を言ってるんだ、この阿呆は?

あんな胸糞悪い所に、私の天使をやるわけないだろう!


「おや?神官長殿は幼女趣味でしたか…。いくら私のネマが可愛らしいからといっても、そればっかりは…」


周りから失笑が起きるが、やつは怒ることもなく、なおも食い下がってきた。


「いやいや。勘違いしないで頂きたい。我々には『聖女』様の教育の実績がありますので、任せて頂ければと」


聖女の教育だと!?

洗脳の間違いだろ!!

治癒魔法の強い子供を人さらい同然に家族から奪い、教育という名の虐待による隷従を強い、物言わぬ考えぬただの人形に仕立てられた者のどこが『聖女』なのだ。

そう言えば、ラルフのときもこいつはしつこかったな。


「あの子は天真爛漫で自由奔放ではあるが、それゆえに万物に愛されている。神殿に預けてネマが人形になれば、炎竜や殿下の聖獣も黙ってはいないと思うが?」


私の言葉に同意するように、殿下の聖獣が「ガウッ」と一鳴きした。


ネマが起きるから鳴かんでいい!


「失礼ながら、ネフェルティマ様は本当に貴殿の娘御か?」


横から口を出してきたのは、同じ公爵家のフェルデス・ラズールだ。

まったくもっていけ好かない狸親父だ。財と権力に貪欲で、王家の権力さえも手にしようと悪知恵を働かせている。

まぁ、どんな悪巧みも陛下にはだだ漏れだ。陛下子飼いの隠密が優秀すぎて、ある意味恐ろしい。


「どういう意味ですか?」


「いや、なに。そういう噂を耳にしただけのことだ」


確かに、上の二人は私たちに似ているが、ネマは違っている。

妻のセルリアの不貞が疑われているわけだが、私は微塵も疑っていない。それ程確固たる証があるのだから。


ラズール公爵の言葉に、セルリアがクスクスと笑い出した。

いや、気持ちは良くわかる。


「失礼しました。ネフェルティマは間違いなく、デールとわたくしに創造の神が授けて下さった子ですわ」


「まぁ、口では何とでも言えますがな」


セルリアの目が光った(ように見えた)。

久しぶりに見るな、この表情。

口元には笑みをたたえているが、目には虫けらを見つけたときのごとく侮蔑の色。そして、体に纏うは冷気のオーラ。

子供たちには内緒だが、セルリアと出会った当初は、私もこんな感じで見下されていた。ときには普段のおっとりからは想像もできない程の毒舌も吐かれたりもした。

父親の威厳がなくなってしまうので、ぜぇぇぇったいに子供たちには内緒だ!!


「あら、わたくしたちは貴方がたのような色ボケ貴族と違って、『真名の誓約』を交わしておりますのよ?万物に宿る精霊が、ネフェルティマをわたくしたち二人の子だと認めております。これ以上の証明が他にございまして?」


結婚とは神の力が宿る真名を知らし、貞淑を誓い合い、お互いを束縛するものだ。この誓いを『真名の誓約』と言うのだが、この誓いを破り不貞を働くと、神の怒りをかう。死ぬわけではないのだが、神に背いた者として額に『堕落者』の烙印が現れる。

それは神の加護を失った証であり、その者は社会的に抹消され、死ぬまで蔑まれるのだ。

しかし、一人の女だけで満足できる男は少なく、特に権力を持った者程その傾向は強い。そのため、逃げ道となったのが、妻となる女性にだけ真名を名乗らせて結婚とする『淑女の誓約』と呼ばれるものだった。これは、妻は不貞を行えば堕落者になるが、夫が不貞を行っても真名を明かしていないため免れる。どうしてそういう現象が起こるのか、詳しいことは未だ解明されてはいない。(いにしえ)にいた精霊術師の記述によると、真名による誓いを破った者は否応なく精霊に感知され、即座に神に報告されるとか。

精霊は万物に宿り、目に見えずとも、どこにでもいる存在。そんな彼らから隠れることは不可能だ。

そのためか、今や貴族だけならず、平民たちにまで浸透し浮気が蔓延しているという。また、未婚者も増え、同棲ですませる場合も多いので、出生率の低下がどの国でも問題になっている。

どちらか一方が真名に誓わなければ、夫婦として認められず、夫婦でなければ神は子を授けてくれない。


それが原因で後継者争いが酷いことになっている国もある。基本、王妃は他国の王女が嫁いでくるのだが、王家の者に淑女の誓約をさせるわけにはいかず、真名の誓約だと側室は置けないので、どうしても王妃に男の子を産んでもらわないといけなくなる。

我が王国は祖父が臣籍降下したことにより、私と息子のラルフに王位継承権が与えられている分まだマシだが。

王家の血が薄まると、いちゃもん付けてくる貴族も出てくるので、ラルフの嫁は我が王家に連なる者でないといけない。陛下の弟君が嫁がれたミルマ国の王女が有力候補だが…。陛下に王女がお産まれになれば話は早いんだが…。


いかんいかん。思考が逸れてしまった。


「わたくしに堕落者の烙印がございまして?」


「しかし、オスフェ公が貴女に惚れ込んでるのは有名な話ですからな。オスフェ公だけが真名に誓ったのではないのか?」


「誓いの儀式には陛下も立ち会って下さいましたわ。陛下をお疑いになるの?」


どうやら勝負は決まったようだ。

口でセルリアに勝とうと思ってはいけない。対人恐怖症や鬱、最終的には己の存在意義を見失い、自殺願望に囚われるはめになる。

結婚してからはだいぶ治まったが、セルリアの独身時代はそりゃあもう大変だった。


幾人かの貴族はセルリアの恐さを知らないのか、ネマへの執着を見せた。しかし、サザール老と陛下を味方に付けて絶好調なセルリアの理論と毒舌によって、その愚かな貴族たちは撃破されていった。


師匠と兄弟子にあたる二人は、セルリアには甘い。

恨むなら、彼女に火を付けたラズールか、彼女のことを知らなかった己を恨めよ!



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