第二話 学年一の美少女(笑)がその本性を見せ始める 3
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「恭吾君、一緒に帰りましょう?」
「あん?」
ホームルームの直前、明日葉がこちらへ来て、そう声をかけた。
コイツの頭が残念なのを知ってしまった俺は、「また妹にちょっかいかけるつもりか」くらいのつもりで答えたが、
「え? どういうことだ?」
「御堂さん、なんで矢代と親しげなの?」
「リア充爆発しろ」
「ギルティ」
「裏切り者っ!」
「矢代が女と仲良くだとっ!?」
「ヤツは男にしか興味ないんじゃなかったのか?」
「矢代君は家州君のなのに!」
などと教室がざわつき始め、って後半おかしいだろ。
「人気ですね、矢代君」
「これ、人気なのか?」
殺意と同性愛疑惑しか無いわけだが。
「ね、ねえ、御堂さんと矢代って、仲いいの?」
イケメン(爆発しろ)がひきつりながら明日葉にそう尋ねる。
「ええ、私は仲良くできれば、と思っていますよ」
「そうだな、適度な距離感でな」
「恭吾君、そんな他人みたいな。もっと家族ぐるみのおつきあいをしましょうよ。あ、今度妹さんと是非うちにいらしてください。両親にも紹介したいので」
ざわっ、と教室がどよめく。
うん、まあね。勿論妹を両親に紹介したいんだろうけどね。普通そうはとらないよね。明日葉さんは本当に言葉選びが下手だなぁ!(一部からの殺せコールに目を背けつつ)
「そ、え、そうなんだ」
イケメンはすごすごとひきさがる(ざまあ! おっとつい本音が)
「明日葉、先日言った事を覚えてるか?」
頭を抱えながら、そうきく。
「うーん……?」
と明日葉は首をかしげてから、ふと思い出したように、ぽんと手を打った。
「ああ! 家と違って教室では他人の振りをしろってヤツですね!」
「うん、思い出せたなら空気をもうちょっと読んでほしかったかな!」
どよっ、と教室がざわめく。もうどおにでもなぁれ♪
「君には立場とか空気とか表裏とかはないのか?」
「はぁ……空気はよめないとよく言われます」
「だろうね」
「でも悪いことはしてませんよ?」
それに、と明日葉が続ける。
「ふと思ったのですが」
「ああ、うん」
「正直なところお互い、別に茜音ちゃん以外にはどう思われてもいいんじゃないですか?」
「…………まあ、」
天然で女王様気質でいらっしゃる明日葉さんは、どうもクラスの連中とか眼中にないようでございますね。
「よく考えてみれば、恭吾君とどんな意味で仲良いと思われても、デメリット無いじゃないですか。むしろ、お互い煩わしくない気がしませんか?」
「それもそうか」
本来的には、俺と明日葉は恋敵に他ならないわけだが。しかし茜音のことだけを除けば、利害は一致する、と。好きな相手のことをしゃべり倒せるわけだし。
「あと恭吾君は反応が面白いので一緒に居ると楽しいですよ? おもちゃみたいで」
「建前ー! 明日葉は建前という言葉を覚えるべきです」
「建前、ですか。ふむ」
と、何か納得したような顔をして。
「私たちは同志です、仲良くしましょう、(お義兄さん?)」
最後の一言だけを小声で、明日葉が邪悪な笑顔を浮かべる。明らかに邪悪だってわかっているのに、それはそれで、悪くない笑顔だった。
『お義兄さん』その一言の告白から始まった食い違いは、俺の日常を揺るがした。妹を狙う美少女。
俺の心のにさざ波を立て、俺の家に打ち寄せて、クラスを津波にのみ込んだ。退屈な砂の城でできた日常と、砂浜に書かれた絵でしかない平穏を溶かし始める。
何かの終わりは、何かの始まりだ。
とはいえ俺のやること、目指すことは変わらない。ただひたすらに、未来なく妹といちゃいちゃするだけだ。
なにせ俺はシスコンだから。
徹頭徹尾、首尾一貫、初志貫徹、終始一貫、この世界は、世界一可愛い妹の為にある。