第二話 学年一の美少女(笑)がその本性を見せ始める
第二話 学年一の美少女(笑)がその本性を見せ始める
告白。学年一の美少女の告白は、俺の運命を決定づけたッ! すなわちッ! 妹を狙うヤツは俺の敵であるとッ!
と、思わず少年漫画風になってしまうような衝撃の、翌日。
フェアだとかいう告白の後、さっさと去っていった御堂を呆然と見送った俺はしばらくそのまま立ち尽くしていた。
何とか気を取り直して家に帰ると茜音が「どうしたの? 恭吾くん、今日は遅かったね?」と心配してくれたので御堂のことは頭から抜け落ちた。
休日らしく昼過ぎに起きた俺は、休日らしく妹といちゃいちゃするために居間へと降りていく。
と、そこに。
「おはようございます、恭吾君」
「な……おま、」
あり得ないものが居た。教室にいるときよりもいくらか雰囲気は和やかだが、私服は思っていたよりラフで、予想されるお嬢様お嬢様したひらひらではなかったが、それは紛れもなく御堂明日葉だった。
「おはよ、恭吾くん」
「あ、ああ、おはよう茜音」
「あれ? 私の時は無視したのに?」
御堂は置いといて、俺は茜音に視線で問い掛ける。
『何でこいつ、ここにいいるの?』
『急でごめん、昨日の夜にメールで話をしていたから』
アイコンタクト終了。いや、俺としてはもっとずっと茜音と見つめ合っていても大いにかまわないのだが。
この場合の問題点は、昨日の夜などに早速御堂が動いていたことである。というか俺も茜音とメールしたい!
「茜音ちゃん、お義兄さんが私を無視します……」
「お、お義兄っ……」
「あれ? どうしたんですか、恭吾君?」
御堂はしれっと首をかしげてこちらに問い掛ける。
「(お前どういうつもりだ?)」
「(昨日宣言したとおりです。私は茜音ちゃんを好きなのです。めいっぱい愛でたいのです。愛でられたいのです)」
「(貴様に妹はやらん、絶対にだ)」
「(あらあらお義兄さん? 茜音ちゃんの意思は無視ですか? 兄バカですね)」
「(シスコン上等。いい虫も悪い虫も茜音には近づけん)」
二人して小声で応酬する。
「……なんだか、随分仲がいいんだね」
「なん、だと?」
茜音の呟きに、俺は顔を慌てて戻す。こいつと、仲がいい? 我が妹よ、やはり君の目は節穴もとい美しいだけの宝石だ。現実は判断して導いてあげよう、お兄ちゃんがずっと!
「(シスコン)」
「(うっせ)」
「そうですね。お義兄さんとも仲良くさせていただこうと思ってるんですよー」
「なん、だと(二回目)」
平然と言い放つ御堂に目を向ける。こいつ……。理不尽に敵対されるよりは遙かにマシだが、こいつの場合「俺」というか「茜音の兄」と仲良く、だから、明らかに。
「ふうん」
と茜音は頷いてから。
「兄は友達が少ないので、明日葉さんも是非、友達として仲良くしてやってください」
ぺこり、と頭を下げながらそう続けた。
ああっ、その仕草も可愛いなぁ! そして兄を心配するいい子! 友達少ないは余計だけど! 泣いてないよ、全然泣いてないよ!
「もちろんです。友達よりももっと深いおつきあいをさせていただくつもりですよ」
「え?」
朗らかに答えた御堂の言葉に、茜音が固まる。無理もない。今の言葉は実際のところ、「もちろんです。友達よりももっと深い(義理の兄としての)おつきあいをさせていただくつもりですよ」なのだが、何も知らずに聞けば「深いおつきあい」という言葉は恋人とかそういう方向に聞こえる。
「ん?」
しかも御堂、まったく気づいてない! わざとだったら文句言ってやれるのに。
「(あの、私何かまずいこといいました?)」
茜音の表情が強ばったのに気づいた御堂が小声で尋ねてくる。
「(そうだな。家だったからよかったが、教室だったらまずかったな)」
「? なんだかよくわかりませんが……」
そしてまったくわかってもらえていないようだった。
「恭吾君の家に居るときと教室では、距離感を変えろということですか?」
「あってるけど違う!」
「教室では他人の振りをしろ、と」
「振りも何も御堂と俺は他人だよ!」
「恭吾君、そういえば私のことを御堂と呼ぶの、やめて貰っていいですか?」
「え? ああ、ごめん、御堂さん。ちょっと馴れ馴れしかったかな。クラスの人はたいてい呼び捨てだから気が回らなかったよ」
「ええっ!? 遠くなった? しかもなんか私が偉そうみたいです! いえ、そうではありません。明日葉と呼んでください。その方が後々いいですよ。名字は変わりますから」
「え?」
横で茜音が声を上げた。さすがに先輩女子からいきなり堂々の結婚宣言をされれば驚くだろう。
「(その必要は無い。妹はやらんといってるだろうが。というかお前、野望を隠しもしないのか)」
「(人を好きだってことを、何故隠す必要があるのですか?)」
「(……ふむ。それはそうか。御堂、思ったよりまともなのか?)」
「(なにを言っているのかわかりませんが。御堂御堂と呼ぶなら茜音ちゃんをお嫁さんに貰うことになりますよ?)」
「(断る。断固拒否する。妹は一生矢代茜音を名乗るのだ)」
「お、お兄ちゃん!」
「ん? おう」
御堂、もとい明日葉とひそひそ話をしていると、いきなり茜音にお兄ちゃんと呼ばれて驚いた。
「ちょっとこっち」
「あ、ああ」
「(ああっ、茜音ちゃんっ!)」
後ろに御堂、じゃなくて明日葉の小さな悲鳴を聞きながら、茜音と一緒に少し離れたところに行く。
「お兄ちゃ……恭吾くんと明日葉さんって前から仲いいの?」
「言い直さず『お兄ちゃん』と呼んでいいんだぜ?」
「恭吾くん?」
「すいませんでした」
じろっと睨んだ感じもたいそう可愛いのだが、あまり調子にのっても嫌われるので素直に謝る。
「さほど話したことなかったな。アドレス交換してからも別にメールとかしてなかったし」
「あ、アドレスっ!?」
「ん?」
「お兄ちゃん、明日葉さんのアドレス知ってるの?」
「知ってるけど? 別にクラスメートだし」
「そ、そうか、そうだよね、うん」
何故か挙動不審になった茜音が確かめるように何度か頷いている。
「ごめん、なんでもなかったよ」
この反応、まさか……。
あ、茜音も明日葉が好き、なのか……?
「あ、あのさ、茜音」
「うん? なあに?」
「ご、ごほん。茜音はさ、好きな人とか居るのか? その、学校の先輩とかで?」
「いきなりなにいってるの?」
まったく心当たりがないようで、即座にききかえした。ふぅ、一安心。どうやら杞憂だったようだ。あれだな、自分の友達が、他の誰かと仲よさそうだとちょっともやもやするみたいな、そういうのかな、さっきのは。
「変な恭吾くん」
茜音は首をかしげながら、明日葉の方へ戻っていく。