第一話 学年一の美少女(笑)が俺の妹を好きだという 3
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さて。たとえ仲がいい兄妹だろうと、さすがに何でもかんでも日々のことを、事細かに話したりはしないだろう。
少しくらい話題にでても、だから御堂の事は、同じ委員会に入っているからでてくるのだろうと、そのくらいに思っていた。
そんなある日、放課後、帰り支度をしていると、声をかけられた。
「ねえ、恭吾君」
と。聞き慣れない女性の声に顔を上げると、そこにいたのは御堂。
「なに?」
純粋に理由がわからずに尋ねた。なにか、プリントでも出し忘れたか?
「ちょっと、付き合ってくれない?」
「あ、ああ」
よくわからないまま頷いた。用件がまるで思い当たらない。
場所を変えたい、という彼女に居従って、後ろをついて行く。なんだろう。別に、恨まれる覚えもないのだが。
階段を上がる。四階も通り過ぎ、屋上へ。
屋上? 屋上は確か、鍵がかかっているはずだ。
と、御堂は鍵を取り出すと、屋上への扉を開いた。
薄暗い階段に外の光が差し込み、やたらとまぶしい。思わず目を瞑った。
彼女に続いて屋上へ出る。当然誰も居ない。……誰も居ないことに少し安心した。こう、なにか怖い人がいなくて。
「ねえ、恭吾君」
「うん」
屋上の真ん中辺りで、彼女はくるりと振り向いた。
「クラスとかでもそうだけど、恭吾君って、シスコンだよね?」
「ああ」
いきなりなんだ? とおもいつつも、俺はその類いの質問にはイエスと答えることに決めている。
「うん、それじゃあ言っておく。その方が、フェアだから」
「フェア?」
茜音に関係することか? そう思い当たると気を引き締める。俺自身のことなら多少の迂闊も後悔すればすむが、茜音のこととなれば別だ。慎重に、一つの失敗もなく、あたらなければならない。
「私ね――」
彼女は息を吸い、告げる。
「茜音ちゃんのことが、好きなの」
「…………は?」
「入学式の日、初めて会った時から。五分咲きの桜の下で、迷っていた彼女に声をかけた瞬間から。新入生オリエンテーションの時に舞台から一年生を見ているときもずっと。同じ委員会で話してからはもっと。そして今は、なによりも」
「あ、ああ、うん。うん?」
勢いに圧倒されて曖昧に頷く。
「茜音ちゃんはよく恭吾君の話をするんです。たった一人の家族だって事も」
「ああ、まあ」
茜音が他のところで俺の話をしていることにうれしくなった。我ながら単純だな。
「だから、ご挨拶を」
彼女はまっすぐに俺を見つめて――それは思わず引き込まれるほど綺麗で――丁寧に頭を下げた。
「これから、よろしくお願いします。お義兄さん」
と。