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第一話 学年一の美少女(笑)が俺の妹を好きだという 2


「おー、矢代の負けだな!」

「玉砕してこいよー」

 クラス替えから数日、少しずつ新しいクラスに慣れ始めた俺達は六人くらいで集まって、賭けゲームをしていた。罰ゲーム内容は「御堂明日葉にアドレスを聞いて、クラスメートなのに玉砕する」だ。

 この頃、他のクラスやらから多く生徒が御堂の元に押しかけて、ことごとく玉砕していた。そんな姿を見ていたものだから、これから一年同じ教室で過ごすことになる気まずさもあって、うちのクラスでアドレスを聞きに行く蛮勇をふるうような奴はいなかった。男子連中にせっつかれて「え? 御堂のアドレス? いいよ、聞いてくる」とさらっと尋ねにいった玲二イケメンが唯一。そしてこの日までに、男子でただ一人の生還者だったのだ。

 さて、そうなると「やはりイケメンか!」という憤りと「いや、もしかして同じクラスだからじゃね?」という期待が混ざって、次の実験台が必要になる。

 そこで行われたのがこの「御堂にアドレスを聞いてくる」賭けだ。「玉砕してもネタになる」空気を出しつつ、「もしかしたら」という希望にすがる、まあ浅はかな男子高校生の知恵である。

 俺自身は別に御堂に興味は無かったが、クラスでわざわざ浮くこともないので、こうしてゲームに参加していたのだ。

 ダシにしてしまう御堂には悪いが、どうせ高嶺の花でしかない、接点もないだろう御堂よりも、クラスの男子との関係を重視して、俺は「玉砕しちゃうピエロ」を演じるべく行動にうつる。

「ちゃんと骨は拾ってくれよ」

「おう。放課後はやけ食いに付き合うぜ」

「矢代の奢りでな」

「いや家州だろ、今回は」

「一人勝ちだし」

 やれやれだ。内心肩をすくめながら、御堂の元へ行く。当然と言えば当然に、御堂にもある程度の話は聞こえているはずだ。いや、というかこいつらは多分、最初から聞かせている。自分が負けたときにも冗談にできるように。

 本当、やれやれ、だ。

「御堂さん」

 俺は彼女の席の前に立って、そう声をかけた。彼女は顔を上げて、俺を見る。さすがに不快感を表情には出さないようだ。気分いいはずなんて無いのにな。

「矢代君」

 俺の名前を確かめるように、そう口にした。

「うん、矢代。同じクラスの。あのさ」

「矢代君、妹さん、いる?」

「え? ああ、うん」

 さっさと用件を済まそうとしていたのに出鼻をくじかれて、戸惑いながら頷く。

「今年、入ってきた」

「うん。……なんで知ってるの?」

「え? あ、ああ、ちょっと小耳に挟んだものだから。そうなのかなって」

 今度は逆に、御堂が焦ったように付け足した。

「深い意味は無いの。ごめんなさい。……それで、何のようだっけ?」

 わかっているだろうにそう尋ねる御堂。茶番だ。

「ああ、アドレスを教えてくれない?」

 気軽な体で、そう口にした。はい、これで断られておしまいっと。

「いいですよ」

「ああ、だよね、携帯もってないんじゃしかたな――ん?」

「いいですよ」

 そういって、鞄から携帯を取り出す御堂。

「あ、でも私の、スマホで赤外線がないので」

 と、メモ帳を取り出して、さらさらと字を書き始める。

「はい、これで。矢代君のアドレス、送ってもらえますか?」

 そういって渡された、ファンシーなメモには、彼女の名前とアドレス、番号が書かれていた。

「あ、ああ。ありがとう……?」

 なんだかおかしな展開になってきたな。あまり、空気の読める方でもないのだろうか。

 それとも、うーん、俺、哀れまれてる?

 とりあえず言われるがままに、彼女のアドレスにメールを送った。

「あ、届きました。登録しておきます。よろしくお願いしますね、恭吾君」

「ああ、うん、よろしく」

 首をかしげながらそう告げて、俺は男子連中の待つところへ戻った。

「成功したな」

「みたいだな」

「ところでさ、」

 わざとらしく話題は逸らされて、それでおしまい。やつらは内心、御堂にアドレスを聞くタイミングををはかっていることだろう。クラスメートなら教えてもらえるらしい、ことがわかったから。

 腑に落ちないな。


 ともかくそれが、俺が御堂明日葉と交わした会話のほぼすべて、のはずだ。

 結局登録したアドレスだって、その後使わないまま数週間が過ぎたし。

 しかしこのまま、「腑に落ちない」程度で済んでいた方がマシだったのだ。

 御堂が俺の名前を確かめるように呟いた理由。唐突に妹が居るかなんて尋ねてきた理由。

 それを知らないままで居られたなら。


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