第一話 学年一の美少女(笑)が俺の妹を好きだという
第一話 学年一の美少女(笑)が俺の妹を好きだという
実際の妹がいると、妹キャラには萌えにくいとよく言われるが、妹がいる俺に言わせれば、確かにその通りだ。
だって本当の妹の方が可愛いじゃないか。萌えるじゃないか。そりゃ妹キャラだって、俺の妹と比較したら少しだけ劣っちゃうってものだ。
うん、仕方ない。
シスコン? そうさ、シスコンさ☆
そんな俺、矢代恭吾の一日は妹に起こされるところから始まる。
『……え? 本当に? いやだって。ねえ、やめてってば。もう、恭吾くん? 録らないでって。えいっ…………え? 本当に?』
ああ、いつまでも聞いていたい。と思いながら、妹の声を録音した目覚ましを止めた。布団からは出ず、目も閉じたまま手探りで。件の目覚ましボイスについては現在、新しい音声の取得を目指しています。
「まだその目覚まし使ってたの?」
「うおわっ」
声に驚いて目を開けると天使がいた。
「はいはい。そういうのいいから。早く起きてよね、恭吾くん」
妹はいつからか、俺のことを『恭吾くん』と呼ぶようになった。お兄ちゃんは悲しいです。でもたまに、油断すると「お兄ちゃん」と口走ったりして、その時の萌えポイントがとてつもないので許しちゃう。
カーテンだけあけてさっさと出て行ってしまう妹の背中を見送りながら、ふとおもいついて声をかける。
「茜音」
「ん? なに?」
妹は振り返って、俺の方をみた。客観的に見るとあまり表情豊かではないらしく、「考えていることがわかりにくい」なんて言われたりもする茜音だが、兄である俺は、ちゃんと表情で考えていることがわかる。
たとえば今は、「ん? なに?」って顔だ。そのままだった。
「兄を起こすときはもっとこう、布団の上に乗っかってくるとか、布団の中に潜り込んでくるとか、ほっぺにチューとか、そういうイベントらしいことをしてくれないと困りますよ?」
「…………はぁ」
ため息つかれた。今のはそうだ「もうだめだこいつ」という顔。そして俺の方を見つめて、一言。
「ばか?」
やれやれ。そんなの言うまでもないじゃないか!(無駄にさわやかな笑顔のサムズアップで)
学校にいるときに語ることはない。非常に残念なことに、茜音――愛しの妹とはクラスが違うからだ(学年も違うのでクラス替えにドキドキもない)
「恭吾はぶれないね」
と向かいで飯を食っている玲二が笑う。
家州玲二。成績はかなり優秀。専門にやっている競技はないが、運動神経もそこそこ。細そうな外見だが筋肉もあって、大人しそうな雰囲気に、さらさらの髪、さわやかイケメンの、ロリコンだ。最後で台無し。
しかしロリコンが「子供好き」に美化されるのがイケメンパワー。
実際、玲二のロリコンは、周りにはただのキャラだと思われている。パソコンの画像フォルダを知らないからだ。
そのせいか、このクラスは、男子にとっても女子にとっても「あたり」だと言われている。
女子にとってのあたりは玲二。そして男子にとってのあたりが……。
「ねえ、御堂さん、アドレス教えてよ」
「ごめんなさい、携帯持ってないの」
「えー、そうなの? 残念だなぁ」
わざわざよそのクラスからアドレスを聞きに来るほどの美少女、御堂明日葉。でもあれだ、今の会話を補足すると、
「ごめんなさい、(今手には)携帯を持ってないの(わざわざだすのも面倒だわ)」
となる。いや、これは好意的な方だ。「お前に教えるアドレスなんかねえんだよ」が本音かも知れない。隣の席で聞いているところ、御堂は「接点のない人間には一律アドレスを教え無い」で統一しているようだ。半面、角が立たないようにか、クラスメートには聞かれれば基本的に教えているようだし。
まあだからさっきみたいなのは邪推かも知れないな。隣に座っていたって、口をきいたのは数えるほどだし。ちゃんと話したのなんて、そうだ、数週間前。クラスが新しくなって日が浅く、俺が罰ゲームでアドレスを聞いた、あの日くらいか。