ぼくとアイツとちょっとお姉さん
ヨロです。
今回は爽やか目です。
匂わせてないですよね?私的にはw
私の意図的にはBL要素入ってるのでキーワード入れましたが、
内容的にはそこまで気にする必要はないですw
清廉な青と優美な黄色。汗のまじるシャンプーで香り付けされた染み付くような体臭と耳に残る不安な心を誘うサイレン。
それがぼくの夏だった。
ぼくはいつまでも日常が続くと思っていた。それが当たり前だと。
その定石を打ち破ったのはアイツとの仲違いだった。いや、アイツとのイザコザがなくとも日常は非日常によって打ち砕かれ、そしてまた新たな日常に替わっていったに違いない。あのイザコザが、アイツがぼくの運命を変えたのだ。
そう、ぼくは思っている。
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夏真っ盛りの頃合だった。夏休みも中盤・お盆に差し掛かり、プール・海は親子連れとリア充共で溢れ、公道には暇なガキ共がアホみたいに群がって騒いでいた。
ぼくもそのアホみたいに騒ぐ集団の一人だったわけだが、ある一人の少年――ぼくの親友のアイツ――とぼくはPspの某狩ゲームをやっていて、精神年齢低めのやつらによくあるイサカイを起こしてしまった。
簡単に言うと『誤って相手の武器が自分に当たって邪魔された、その反対も然り』が何回か起こってしまい、最初は笑って流したものの結局ぼくが先にキレてアイツもキレたという具合だろうか。
キレたまま、ぼくは自宅に帰ってきていた。今となれば、こんなに自己分析できるのにあの時は何故、冷静に対処できなかったのか、それはひとえにぼくの精神年齢が低めだということにある。
それに関しては今のぼくにできることはない。なにせ、過ぎ去ってしまったことなのだし。
そんな考えで現実逃避しているぼく自身のことも分析できるのに、これからアイツとどうしたらいいのかまったく考えが重い浮かばない。
それから、ぼくとアイツとの関係を整理していけば何か思いつくかもしれないと関係図まで書いたが、最後に分かったのは『ぼくとアイツは親が同級生ということもあり家族ぐるみで大変仲がよい』という不必要な再確認用件のみだった。あとはつまらない出会いの場面とか書かれている走り書きだけ。
北から吹く心地よい風を扇風機でさらに強化したものを一身に浴びながら、ぼくは考えていた。窓からはすこし成長の遅い青い種をもったひまわりがちょこんと、庭の隅に見えていた。
結局いくら時間をかけても思いつくことが出来ず、母が知らせてきた夕飯の合図を境にいったん中断された。
一瞬母に相談しようかとも思ったが、そんなことをしたら母からアイツの母へ、そしてアイツへいくに決まっている。
『ぼくが仲直りしたい』と思っていると言っている様なものじゃないか。まぁ、そんなことミジンコほども思っていないが。そんなこと、おとこのプライドにかけて出来なかった。どんなに小さくても、男にはプライドというものが存在するのだ。前に父が言っていた。
「暑い夏には、辛いもので夏バテ防止!!!」
昨今の流行の食べるラー油など辛いものが苦手なぼくにとって、このCMはうっとおしいことこの上にない。軽く悪態をつきながらTVの画面を眺める。ぼくと同じ年ぐらいの少年がおいしそうに馬鹿食いしていた。
そういえば、アイツも辛いものが苦手だった。
もっとも、アイツの場合は辛い辛いと言いながらそれでも味わうことをやめずにオカワリまでするものだから、本当に苦手といえるのかは定かではない。
アイツが苦手と言いながら食べるせいで何度、ぼくが被害を被ったことか。だが、はっきり言おう。ぼくは真性だ。もしアイツと一緒にいることがなくなれば、給食のカレーを強制的にオカワリさせられ涙を零しながら食べる必要をないということになる。念のため言っておくが、感涙じゃないからな。むしろ苦痛の涙だからな。
ほかにも、授業中に騒いでいたアイツが言い訳ついでにぼくを巻き込んで、何の罪もないぼくまで怒られたり。学校からの帰り道でイタズラをしたアイツが、ぼくはいなかったにもかかわらずぼくがいたかのように語りぼくのせいにしたり。
『へへっ。お前も俺といれてうれしいだろ?』
あげればキリがないが、アイツといたせいでぼくが怒られたり辛苦を味わったのは数え切れないほどだ。本当に、何でぼくはあんなやつとずっと一緒にいたのだろうか。
今までのアイツと遊んでいた毎日が今日はまるで違う。
現在進行形でケンカしているぼくを気遣った家族が、家に引きこもりだったぼくを連れ出してくれた先の川でたまたま会ったクラスメイトと仲良くなったのだった。今まで、ほとんどアイツとしか話してなかったぼくはクラスメイトからはアイツの腰巾着のように見られていなかったか心配だったのだが杞憂だったようだ。クラスメイトからぼくは『アイツの良心』とひそかに呼ばれていたらしい。まぁ、これからはそんなことはないと思うが。
とりあえず、ぼくがアイツとよく遊んでいた川はクラスメイトたちもよく来るらしい。なぜ、今まで遭遇しなかったかというとクラスメイトたちが避けていたのもあるが、なによりアイツが人と同じというのを嫌うので被らなかったというだけだ。まったく、アイツの同じもの嫌いは。アイツは新しいもの好きでもあるので、それでアイツに付き合わされてぼくの少ない小遣いが削られたことが何度あるか。何度も言うが、それもこれからはなくなるのだ。ついに開放される。
そんなこんなで、ぼくはアイツと一緒にいない夏休みをエンジョイしていた、はずだった。
ある日、突然。イラっとしてしまった。何故、毎日毎日同じ場所で同じことをして遊ぶのか。この夏休みから仲良くなった彼らの考えが理解できなくなった。なぜ今になってこんなことを思うのかと言ったら、おそらく新鮮だったのだ。
新しい仲間と新しい場所での新しい遊び。初めての相手と初めてのことをやるのだから、楽しいかつまらないかの二極だろう。楽しく感じたときは良かった。つい昨日までもぼくは楽しく感じられていた。もしかしたら、心の奥底で初めて仲良くなったのだから、という不満に対する自制があったのかもしれない。もともとぼくは我慢強いほうでなく、その上ころころと好きなものが変わる新しいもの好きなのだから。
それに気づいた瞬間。ぼくはアイツの必要性を思い知ったのだ。
アイツは、たとえ同じ場所であっても日によって違う遊びをするやつだった。かと思えば、ぼくがもうすこしやりたいなと思ったときは数日続けてみたり。そんなアイツを以前の僕は『良く言えば臨機応変悪く言ったら気分屋』と思っていた。ちょっとだけぼくは、いつもぼくを振り回し自分勝手に行動するアイツに不満を持っていた。
がしかし、今のぼくの喪失感といったら。
『アイツは、気分屋や自分勝手とか自意識過剰とかじゃなかったんだ。もしかしたら、自分のことよりもぼくのこと を気にしてくれる非常にありがたい存在なのかもしれない。』
小学生の幼稚などう仕様もないぼくの頭は不覚にも思ってしまった。
そう思ったぼくは夏休みに入って初めて仲良くなった仲間を無情にも切り捨て、することもなく節電なんてまったくなされていない冷房がガンガンきいた家に閉じこもっていた。どうやって仲直りしようか、しかし自分から言いに行くのは癪だとか思い悩んでいたぼくに、遊びにも行かず暇なら宿題でもしろ、という無慈悲な我が家の専業主婦の声によって渋々とソレに取り掛かっていたときだった。
ピーポーピーポーピーポー……
どこからともなく救急車のサイレンの音が耳に入ってきた。
あぁ、またか。
この辺は事故がそれなりの頻度で起こり、度々救急車がやってくるのだ。この辺が少子化を無視し異常に子供が多いことが主な要因だったりする。なんと驚くことに、ここの地域は幼稚園・保育園・子供園があわせて11、小学校3つ、中学4つ、高校3つという何故か中学だけ多い驚きの施設数なのだ。住宅地に囲まれた学校がいくつもあると想像してくれていい。
住宅地は多いが、勤務先は少ないというベッドタウンさながらな状態である。
まぁ、子供の数が多いというのもあるが落ち着きのない騒がしい子供が多いんだな。たとえば、アイツとかアイツとか。
実際、中学高校とすべて名高い不良校である。何故、親はそんな学校に通わせるか疑問はあるが。子供に対しては優しい色とりどりの近所のお兄さんがトップだったりするから驚きである。みんなそうだから、巻き込まれることもないんだが。そんなことも救急車がよく来る原因の一つだったりもする。
「たくクンじゃないかしら。心配だわ」
ちなみに、たくクンというのはアイツのことだ。音が聞こえたらいつものように言う母の台詞が今日はえらく不安を煽るものだった。いつもだったら、アイツなら事故する前に自分でよけるだろと思うのだが、何故か脳裏に元気100%とでもいうような最高の笑顔でいるアイツの姿が思い浮かんだ。
――アイツが、事故ったのかもしれない……
ただのBGMでしかなかったサイレン音が不安を誘う。
ぼくの頭には偏見に満ちた『救急車といえば事故』という固定観念が植え付けられていた。
ぼくのモヤモヤした気持ちは一向に消えず、この日から数日間、隣の家のお姉さんに背中を押されるまでぼくはその気持ちを抱えて過ごす事になる。
その日ぼくは、夏休みの宿題の朝顔の観察日記を外で書いていた。空にはどんよりとした雲がかかり今にも雨が降り出しそうだった。ぼぉっと空を眺めてしまっていたとき、いつからいたのか隣の家のお姉さんに後ろから声をかけられた。
「君、男友達とケンカしてるでしょ」
ニヤニヤした微笑みを浮かべた怪しそうな隣のお姉さんは、かんぺきなストレートをぼくに投げてきたのだ。
それから1時間余り相談に乗ってもらった。最初は笑みが胡散臭くて本当に打ち明けていいものかと悩んだが、このまま夏休みをあけることは出来ないと思い決心を固めて相談したら、意外と要点をついた解答がもらえた。
その日は一日用事もなかったので、お姉さんがくれたアドバイスを実践しようとその足でアイツの家に向かった。
行く途中で軽い雨が降ってきて足早に言うことを考えながら進んだ。雨に濡れた前髪がうっとおしくて、Tシャツをたくし上げ拭う。汗と雨の臭いに混じってシャンプーの香りまでして、嗅覚が麻痺する。臭いの混雑により発生した頭痛がいっそうぼくの足を急がせた。
頭痛に悩まされながらやっと着いたときはホッとしたが、今度は一緒に遊んでいた所はふざけてピンポンダッシュとかやっていたインターホンがものすごく遠いものとなっていた。それでも4,5分悩んだ末、決死の覚悟で押した。
出たのは、予想を裏切りアイツのお母さんだった。ある意味ホッとし、ある意味がっくりした。
アイツのお母さんがアイツを呼びに行っている間に、外は土砂降りに変わっていた。ごぅごぅと降る雨音に混ざって、ドタドタというアイツの足音が聞こえた気がした。と思ったら、今度は予想通りアイツがぼくの家と同じ間取りの狭い家の中から走って現われた。
早速、ぼくはお姉さんが教えてくれたことを実践することにした。
『君みたいな子は泣き落としが一番よ』
そう言った彼女の声と、その後のレクチャーを思い出しながら行動に移した。気持ちが乗っていたのかはたまた雨が目に入って出やすかったのか、意外とあっさり過去のいやな出来事を思い出す前に涙がポロリと零れた。
いったいどうしたのかと、驚愕の目で見てくるアイツから目を逸らして目を伏せながら言った。
「や、っやっぱり……!!ぼくには……お前が必要、かもしれない」
言った瞬間、演技だった涙が本物になった気がした。中から嗚咽がこみ上げてくる。
まだ少し、驚きで固まっていたらしいアイツをチラッと上目遣いで伺うと何故かボッと顔を赤らめる。それがなんともいえない優越感で、上目遣いのまま凝視していたらすこし治まったと思っていた涙が乾燥を防ぐため、再びじわじわと瞳が潤んできた。ゆっくり瞬きをすると一筋の涙が流れた落ちた。どうなったかと思い、再びアイツをみるとさらに顔を赤らめ、今度は耳まで真っ赤になっていた。
「仲直り、してくれる?」
今度は演技で、震えながら言うと即座にアイツから『許す!!』という答えが返ってきた。即座に返ってきたのがうれしくて、許してくれたのがうれしくて、思わず喜びの余り抱き付いてしまった。レクチャーはされていたけれど、この思いは本物だ。
めでたく仲直りして、アイツの家を出るといつのまにか土砂降りだった豪雨も止んでいて雲の合い間からは清々しいほどの青色が覗いていた。帰る途中に見た、やさしいお姉さんの家の花壇には2階にまで届くくらいのヒマワリが太陽の光を反射している雨の雫を湛えていた。
そして月日はあっという間に経ち、ぼくは高校生になった。
今ではあの時知り合ったお姉さんを倣って、夏にはぼくの髪とおなじ色のヒマワリが植えられている。
お姉さんとは今も旧交を深めている。本の貸し借りをするほどだ。
もちろん、アイツとは今でもずっと一緒だ。
お題『ひまわり』で書いたんですが、そんなに出てませんね……
個人的には、結構主人公の中で『ひまわり』という象徴で記憶に残ってるイメージで書きました。
~後日談~
「え、お前って。辛いもの好きじゃなかったの?てっきり、好き過ぎて泣いてるもんだと……」
「……は?」
「それに、俺ってば一人でもお前が背後にいる気がしてさwうれしくてそれを伝えようとしたら、アレでさ。あの時はメンゴ☆≡」
「……あ゛?」
「……メン((殴」