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お気に入り小説5

「姉上がいないと何もできない」婚約者なんて、わたくしには必要ありません。

作者: ユミヨシ
掲載日:2026/08/14

「私の姉上は素晴らしいんだ。なんでも知っているし、尊敬しているんだ。私の人生は姉上抜きでは考えられない」


「そうでしょうね。だから、わたくしが貴方は傍についていないと駄目なのよ」


いつもいつもいつもそう。


レティリシアはいらついた。


レティリシア・ファレン公爵令嬢の歳は17歳。

ガイド王国の第二王子エフェルと婚約して1年過ぎた。


同い年の17歳のエフェル第二王子は金髪碧眼の美男だ。


国王陛下からその話があった時、父ファレン公爵は二つ返事で引き受けた。

エフェル第二王子の婿入り先に、名門ファレン公爵家が選ばれる事は当然だと思っていたからだ。


レティリシアも一人娘だったので、王族の誰かが婿入りしてくるでしょうねと思って暮らしていた。


国王陛下は王妃の他に側妃が3人いる。

現在、国王陛下の子は15人。


エフェルは側妃の息子で、第二王子であった。

そのエフェル第二王子の婿入り先として、ファレン公爵家に声がかかったのだ。


初めて王宮の庭でエフェル第二王子に引き合わされた時に、美しくて優しそうな男性だという印象だった。

その時、エフェル第二王子もレティリシアも共に16歳。


だけれども、会ってすぐに、こんな男が婿入りしてくるのかとうんざりした。

隣に、エフェル第二王子の姉であるジリア王女が付き添っていたのだ。


客間で父ファレン公爵と共にレティリシアは対面したのだが、

ジリア王女は、


「母の代わりにわたくしがエフェルに付添って参りました。エフェルったらわたくしがいないと何も出来ないの」


「姉上、それじゃ、まるで私がまだ子供みたいじゃないですか」


「貴方はわたくしより5歳も年下なのですわ」


「それでも、恥ずかしい」


「まぁいつまでも可愛いわたくしのエフェル」


ジリア王女はエフェルより5歳年上だ。21歳。

とっくにどこかに嫁いでいても良いはずなのだが。


ジリア王女は、


「わたくし、エフェルの事が心配で心配で。お母様がエフェルの事をあまり構ってやれず、わたくしが幼い頃から面倒をみてきたのですわ。ですから、今回もこうして付添ってあげて。わたくしの嫁ぎ先?お父様にいって待ってもらっておりますの。だってエフェルが婿入り先で上手くやっていけるか心配で心配で」


「姉上、私をまた子供扱い。でも、私も嬉しいです。姉上が傍にいると心強いです」


結局、この二人は互いを褒め合い、互いの事しか目に入っていないらしく。

レティリシアの事をまるで聞く事はなく。

エフェル第二王子に至っては視線を一度もレティリシアに向けなかった。


ジリア王女がエフェル第二王子に、


「ああ、そろそろ家庭教師が来るわ。エフェル。帰って貰いましょう」


「遅れたら怒られる。それでは失礼する」


二人は行ってしまった。


父ファレン公爵に向かって、レティリシアは、


「お父様。エフェル様を婿入りさせて上手くいくのでしょうか?あの方、こちらを見ようともしなかったし、わたくしの事をひとつも聞かなかったわ」


ファレン公爵は、


「国王陛下の命令だ。断れない。お前がしっかりして、婿入りしてきたエフェル第二王子殿下を支えてやればよいだろう」


悲しくなった。

レティリシアだって女だ。

髪は柔らかい金の髪に青い瞳。

亡き母譲りの美しさには自信があった。


それなのに、エフェル第二王子はジリア王女の顔を見てばかり。

ジリア王女と話を一方的にして初顔合わせは終わってしまった。


わたくしを見てよ。

わたくしと話をしてよ。

貴方とわたくしは夫婦になるのよ。


レティリシアはイライラした。

少しでもエフェル第二王子が自分を見て欲しい。

そう強く思ったのだが、その想いは砕かれた。






婚約して一年過ぎた。


初対面の時とまるで変わらない。

エフェル第二王子の一番大切な人は姉ジリア王女だ。


ファレン公爵家に婚約者との交流として訪ねてくるときは、いつも姉のジリア王女を伴ってくるのである。


「エフェル。エフェルはわたくしが着いて来ないと駄目だっていうから」


「姉上が着いて来てくれるからこそ、こうして公爵家に来る事が出来るのです。姉上がいるからこそ、私は」


隣に座り、エフェル第二王子は、ジリア王女の手をぎゅっと握り締める。


いつもこんな感じで。

エフェル第二王子はレティリシアの方を見ようともしない。

視線はいつもジリア王女の方を向いていて。


ジリア王女は、


「そういえば、もうすぐレティリシアのお誕生日ね。エフェル、わたくしがレティリシアのお誕生日プレゼントを選んであげるわ。エフェルでは素敵な物を見つける事が出来ないでしょう」


「姉上、助かります。私では女性の喜ぶものが解らなくて」


レティリシアは思った。

目の前にいるんだから聞いてよ。

わたくしの好み位、興味を持ってよ。


何でわたくしの方を見ないの?

わたくしが貴方と結婚するのよ。


イライラする。

こんな男を婿に迎えたくない。

でも、王家の命令は逆らえなくて。


ジリア王女はにこやかに、


「そうだわ。結婚してエフェルがこちらに住むようになったら、しばらくはわたくしも付き添おうかしら。エフェルが心配ですもの」


「姉上だってどこかへ嫁入りをしないと。私の為にそんなっ」


「いいのよ。エフェル。貴方を一人にはしておけないわ。わたくしがいないと何もできないでしょう」


「姉上が小さい時から私の傍にいたから、私は生きてこられたのです」


冗談じゃないわ。

エフェル様の婿入りについて来る気なの???


ジリア王女はレティリシアに、


「わたくしのお部屋も用意して頂戴。南向きの日が当たる部屋がいいわ。エフェルと隣にして頂戴。エフェルったらわたくしがいないと何も出来ないんですもの。わたくしが共に来ると言っているのです。感謝しなさい」


ずっとずっと我慢してきた。

交流と言ったって、いつもエフェル第二王子はジリア王女とばかり話をして。

レティリシアに話をするのはジリア王女ばかり。

それも思いだしたように、こちらをちらっと見て話かけてくる。


どれだけわたくしを馬鹿にすれば気がすむの?



亡き母の親友であったリリア王妃に相談することにした。

リリア王妃に面会を頼めば、快く応じてくれた。


「レティリシア。久しぶりね。貴方に会えて嬉しいわ」


「リリア王妃様。どうかわたくしの悩みを聞いて下さいませんか」


王宮のテラスでリリア王妃は、レティリシアの悩みを聞いてくれた。


「本当にエフェルとジリアには困ったものね。貴方にエフェルを押し付けて申し訳なかったわ。エフェルもジリアも側妃の子だから、わたくしの目が届かなくて。なんせ国王陛下のお子は15人いるのですもの。エフェルとの婚約解消、わたくしから国王陛下とファレン公爵にお話して成立させます。だから安心していいのよ。この一年間、辛かったわね。本当にごめんなさい」


リリア王妃に抱き締められた。

幼い頃に亡くした母の匂いがして、ああ、この香水は母が良く使っていたわ。

涙が零れる。


リリア王妃が母のようで。

やっとあのエフェル第二王子から離れる事が出来ると、レティリシアは安堵するのであった。


婚約は解消された。


ファレン公爵も、


「王家の命だったが、この婚約。私も嫌だったのだ。無能の婿でもお前がしっかりしていればよいと思っていた。王妃様から手紙でお叱りを受けた。申し訳なかった」


父に謝られた。

レティリシアは頷いて、


「新しい婚約者を探さねばなりませんね」


「それがな。王妃様が探して下さると。王妃様の息子の王太子殿下はもう結婚している。他の側妃の王子になるだろうが…‥」


「年下ですわね。でも構いませんわ。エフェル様より少しでもマシならば」


自分の方を見て、しっかり向き合ってくれるのなら、誰だっていいわ。

エフェルみたいな男、あんな男と婚約が解消されて良かった。

心からそう思うレティリシアであった。



リリア王妃が紹介してくれたのは、他の側妃の息子でイルド第四王子殿下。

歳はレティリシアより3歳年下。現在17歳のレティリシア。なので、彼は14歳である。

まだ幼さが残るイルド第四王子は、レティリシアと王宮の広間で対面した。


母であるレリア側妃が傍にいて、挨拶をしてくれた。


「まだ14歳で、未熟な所がある息子ですが。どうかよろしくお願い致しますわ」


ファレン公爵は頭を下げて、


「有難うございます。こちらが娘のレティリシアです」


レティリシアはカーテシーをし、


「レティリシア・ファレンです」


イルド第四王子も優雅に頭を下げ、


「イルドです。よろしくお願いします」


イルド第四王子も、金髪碧眼の美しい顔をしていた。


二人で王宮の庭を散策する。

イルド第四王子は、レティリシアに向かって、


「私は嬉しいのです。名門ファレン公爵家に婿入り出来て」


「まぁ、そんなに我が公爵家に婿入りが嬉しいんですの?」


「弟達にも羨ましがられました。私達王子は、婿入り先は少しでも良い所をと思って生きてきましたから」


イルド第四王子は、レティリシアを見つめて、


「それに、私は妻になる女性は尊重するようにと、王妃様と母上からそう言われました。私はレティリシアと沢山、話をしてレティリシアの事を沢山知りたい。私も自分の事を沢山お話します。お互いに歩み寄って互いの事を知って、良い関係を築いていきましょう」


レティリシアはイルド第四王子殿下の顔を見た。


正面から自分を見つめるその瞳。

ずっとずっと自分を見て欲しかった。

婚約者であった男性に、正面から自分を見て欲しかった。

いつもエフェル第二王子はジリア王女しか見ていなかった。


イルド第四王子の瞳に自分の姿が映っている。

普通の婚約者なら当たり前の、互いを思いやる関係に……


ずっとずっと欲しかったその言葉に。

レティリシアの心は嬉しさに溢れ出した。


「有難うございます。わたくしは嬉しくて嬉しくて。ずっとわたくしを見て欲しかったから」


イルド第四王子に抱き締められた。

この人となら、良い関係を築いていける。

そう、レティリシアは確信した。




イルド第四王子と正式に婚約が結ばれた。


彼はいつもレティリシアを気遣ってくれて。

共に将来の事を話して。

とても毎日が充実している。


とある日、王宮にイルド第四王子に会いに来たら、ジリア王女から声をかけられた。


「何故、婚約解消したのかしら。エフェルは毎日泣いているわ。名門公爵家の婿入り先が無くなったって。第四王子に乗り換えるなんて。わたくしが傍にいてしっかりとエフェルを助けて貴方と交流したじゃない。酷いわ」


頭に来た。

だから言ってやった。


「わたくしは婚約者のエフェル様と交流したかったのですわ。それを邪魔したのがジリア王女様。わたくしは今、とても幸せ。イルド第四王子殿下はわたくしを見て交流して下さいますから。エフェル第二王子殿下に良い縁が見つかるといいですわね。それでは失礼致します」



良い縁が見つかるといいですわと言ったのは皮肉だ。

あんな、ジリア王女がべったりなエフェル様に新しい相手が見つかるかしら。

もう、わたくしには関係ないわね。


ジリア王女は国王陛下が王妃と相談して、このまま我儘を通すのはまずいと思ったのか、隣国の年を取った国王陛下の側妃として嫁に出された。


ジリア王女は輿入れの馬車の中で泣き叫び、


「エフェルを置いていけないわ。エフェルを連れて来て。お願いっーー」


同じくエフェル第二王子も、ジリア王女の荷物の馬車に潜り込もうとした所、近衛騎士に引き出されて、見送りも許されず、部屋に閉じ込められた。


その後、残されたエフェル第二王子は、自分では何も出来ず、公の場に出すのはまずいとの事で、離宮に隔離された。



一月過ぎた頃、エフェル第二王子から手紙が来た。


「私の態度が悪かった。君と話をするのが恥ずかしかったんだ。どうか私と婚約を再び結んで欲しい。弟よりも私の方が美しいだろう。お願いだ。レティシア」


レティリシアはその手紙を見て、怒りが湧いた。


「わたくしの名はレティリシアよ。わたくしの名を呼んだ事がなかった人ですものね」


手紙は丸めてゴミ箱に捨てた。



わたくしの名さえ覚えてくれなかったあの人の事が憎い。

憎くて憎くて。


そして悲しくて……


本当に婚約解消出来てよかったわ。


ああ、でももうあんな人なんて忘れるに限るわね。


窓を開ければ晴れ渡った空。

レティリシアは、イルド第四王子との未来を見つめて、眩し気に空を見上げるのであった。


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― 新着の感想 ―
エフェル第二王子、変……辺境騎士団に連れ去られればいいのに……(´・ω・`) アイツらなら、ちゃんと教育出来るでしょ!(ピヨピヨ妖精の着ぐるみを着せられて子供達から蹴られるって?知らん知らん)
邪魔なブラコン姉王女は他国にドナドナされ、シスコン王子は離宮へ幽閉…… 変狂……辺境騎士団よ、『屑美男狩り』の時は今!  あの離宮にコッソリ入るには……あ、みぃ様から、秘密の扉の解除方法が提供されてま…
拝読させていただきました。 シスコンもここまでくるとうーんですね。 やっぱり変……辺境騎士団の活躍に期待したいところです。
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