過去
家の中にはおびただしい程の本、実験道具であふれかえっていた。
老人は唯一空いていた椅子に腰かけ、ワイアスに尋ねた。
「さて、なぜお前は魔法が使えない?」
「…わかりません。生まれた時からずっとそうでした。」
「フム…生まれた時からか…」
「両親はあらゆる手段を用いてなんとか私に魔法を身に着けさせようとしてくれました。私もそれに応えようと必死に努力したのですが…。」
「『不魔石』は触れたものの魔力を消し去る石…それに触れた人間は二度と魔力が使えなくなるという…不魔石で何がしたい?」
「…」
ワイアスは沈黙を続けた。
その時、ワイアスの脳裏に両親の顔が思い浮かんだ。
いつも優しかった父と母…魔法が使えないからと嘆いたりもしなかったし、怒りもしなかった。
いつも正しい人間であれと教わった。
ただ…次男のワイバーンが生まれた夜、彼に魔力があると分かり、両親が喜んだのが悲しかった。
当たり前のことだが、彼にはそれが悲しかった。
ワイアスは脳裏に浮かんだ思い出を消し去り言った。
「あなたにはその理由は言うつもりはありません。」
老人はワイアスの瞳をじっと見つめた。
そして、静かに言った。
「今日はもう遅い。泊まっていきなさい。」