旅立ち
「父上、あなたは素晴らしい王であり、父親です。母上、私はこの上ない愛情をあなたから注いで頂きました。…ですが、お別れです。お元気で。」
そうつぶやき、ワイアスは誰もいない玉座を後にした。
そして、城をでて、北へ向かい歩き出した。
しばらく歩き続けていると、
「本当にいいのですか?」
隣で一緒に歩いている、マーチが彼に聞いた。
「…もう決めたことだ。おまえはどうなんだ?ここでは、『呪われた血』の迫害はマシなほうだぞ。」
「もう決めたことですから…」
ワイアスはマーチの緑色の髪をちらりと見て、何か言おうとしたが言葉は続けなかった。
それから二人は黙って歩き出した。
もう城は見えない。
目標は『不魔石』を見つけ出すこと。
それはどんな魔法も打ち消してしまうという伝説の石。
どんなに困難があろうと絶対に見つけ出すとワイアスは心に決めている。
夜が明けてきた。
小さい時に冒険した時のドキドキは今はあまり感じられなかった。
むしろ焦燥感、罪悪感、不安感などのほうが多かった。
もうしばらく歩きつづけると町が見えてきた。
そして、マーチに言った。
「いよいよだな」
「はい」
マーチはニッコリそう答えながら、歩調が速くなっていく。
「おい、待てよ」
ワイアスはそう言いながら、わくわくしているマーチにかすかな不安を覚えた。
しかし、その不安をすぐ打消しその町へ入った。
その不安は見事に的中したのだが…
町に入るやいなや石がマーチに飛んできた。
それが、マーチの頭に命中しマーチの頭から血が滴り落ちた。
「わーい。俺の狙った石が命中したんだぞ。」
子供達が4,5人いる中の1人が、無邪気に笑って自慢していた。
小さな子供たちの最初の魔法の練習は石を魔力で動かすことから始まる。
石を魔力で飛ばして的に当てる遊びがいつの時代でも流行っている。『呪われた血』はよく子供たちの的にされた。
ワイアスは怒りその子供の方に行こうとしたが、
マーチがそれを制止した。
「大丈夫ですから。こんなものすぐに治ります。」
そういって、マーチは呪文を唱え始めた。
すると、頭の傷がたちまちふさがった。
子供たちは悔しがってまた魔力で石をマーチの方に飛ばしてきた。
マーチはその石をすべて止め、逆に子供たちの方に飛ばした。
子供たちは石が自分達の方に来るあわてて逃げ出した。
「大丈夫。当たる直前で止まるようになっていますから。」
そうマーチは笑って見せたが、先ほどのわくわくはもう消えていた。
ここでも『呪われた血』の迫害は強そうだとワイアスは感じた。