選択
アリエッタが部屋から出てきて、驚いて尋ねた。
「王妃様!おひとりでここまで来られたのですか?」
王妃は無邪気な笑顔で言った。
「ええ。最近、姿を消せるローブを手に入れたのでお試しがてらね。」
「なんと危険な…国民のほとんどはあなたをお慕い申し上げておりますが、中にはあなた様のことを快く思っていない人もいます。一人で出歩くなどの行為は以後謹んでください!」
「はい…。ところで、私は堂々と諌めてくれるあなたのそういうところが好きなのです。」
「そんな…もったいないお言葉です。…ここに来られた理由はわかります。王妃様には申し訳の立たぬことをしでかしてしまいました。」
「しでかしたのは、王子ですよ。それに私は王子のしたことを誇りに思っているのです。息子は身分を超えてあなたへの愛を貫こうとした。あなたには振られてしまったようですけどね。」
「…なぜそれを?」
「あら?私だってあなたと同じ女性ですよ。あなたが考えることぐらいお見通しですよ。」
「…」
「私はあなたの選択はあなたにとって幸せだと思っています。あなたが王子と結婚すれば嫉妬と憎しみは全てあなたに向けられるでしょう。…私はあなたのような人たちには普通の幸せを与えたかった。誰にも邪魔されることなく自由に生き、笑いあい…王子と結婚したら、そんなことは夢のまた夢。」
「…はい。王子のご好意は大変ありがたいのです…が…」
アリエッタの目から涙があふれ、言葉はそれ以上続けられなかった。
王妃はアリエッタの肩を抱き静かに話した。
「…それほど王子のことを好きなのですね。想うと涙がでるほどに…」
アリエッタが落ち着くと、王妃は静かに立ち上がり帰ろうとした。
別れ際に王妃は言った。
「アリエッタ…今日ここに来たのはこのことを言っておこうと思ったのです。あなたがどういう決断をしようと私はあなたを応援すると…どの道を選ぼうと責めません。好きな道を歩みなさい。ワイアス様、マーチ様!彼女をよろしくお願いします。」
そう言い残して、王妃は去って行った。
少ししてアリエッタは呟いた。
「また…お一人で帰ってしまわれたわ。」