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原作では悪役女性短編集

『私』と別れる私

掲載日:2025/12/30

 今日は、高校入学式の前日。 春の涼しさを感じる夕方、部屋の中で制服のスカートをひらりと揺らしながら『私達』は鏡の前で制服の試着をしていた。


 鏡の前でニコニコ微笑みながらポーズをとっていると『私』が私に話しかけてくる。


 『よし、これで完璧。 湊の視線は私に釘付けだね!』

 「はいはい」

 『あれ? 反応が薄いぞ! どうしたの?』

 「私は湊の前では、恥ずかしいくてこんなポーズ出来ないよ⋯⋯」


 私は顔を真っ赤にして塞ぎ込んだ。


 「⋯⋯私は、湊とまともに話すことも出来ないのに、湊の前でこんなポーズを取れる訳ないじゃない⋯⋯」

 『そう言うところだよ! 湊の前で照れたらいいじゃん!』

 「⋯⋯でも、湊の前では平然としていたいかな」

 『全然出来てないけど⋯⋯』

 「ぐ⋯⋯」


 私は更に塞ぎ込んでしまった。 鏡の中の私が悲壮感に溢れていた。


 『⋯⋯うん? この景色見覚えがある。 あれ?  川端ことね?⋯⋯私が今、いるのは⋯⋯前に読んだ小説の世界?』

 

 『私』が突然、私の名前を叫んだ。 私は今更、『私』については生まれつき、あたり前のことだと思っていたのだが、今までにない『私』の発言と表情に驚く。

 

 「どうしたの? ⋯⋯貴方らしくない反応ね」

 『⋯⋯うんっと。 実はね⋯⋯』

 

 そうして、『私』の口から聴かされた内容に、私は驚いた。 『私』が言うには、この世界は小説の世界であり、『私』は前世にそれを読んだとーー

 

 そして、私はその小説では、悪役の生徒会長として君臨。 学校を支配して、生徒たちを駒にするらしい。 そして、湊とヒロインの手によって成敗されるのだとーー


 『話したらスッキリした! うん、大丈夫! なんとかなるよね~』

 「⋯⋯ちょっと。 どう言うことなの? ねえ?」


 私の気持ちを置いてぼりにして、『私』は部屋を飛び出して、湊の元に向かう。


 「湊~どう? 似合う?」

 「おう、似合ってるぞ。 サイズも丁度良かった見たいだね」

 「じゃあ私を見て! ⋯⋯ドキドキする?」

 「するよ、とっても」

 「やった! ⋯⋯さすが、悪女の実力だね!」

 「悪女? ことね、なにを言っているんだ? ⋯⋯それより早く着替えて、晩ご飯を食べようか。 今日の晩御飯は、ことねが好きなカレーライスだぞ!」

 「本当! 嬉しいなぁ。 じゃあすぐに着替えて来るね!」


 湊と楽しそうに話す『私』。


 私はそれどころじゃないんだけど!


 それから色々なことがあったーー 


 「アンタは、そうやっていつまで、猫を被っているの! なによ!⋯⋯私は犬派よ! って違うわ! そうやってとぼけて! ⋯⋯私、知っているのよ貴方の本性を。 ⋯⋯ねぇ『理想』の使者さん」

 

 ヒロインと教えられた彼女ーー桐原彩乃。


 「⋯⋯と言うことで、今日からここで世話になります! ことね様!」


 私のライバル? らしい彼女ーー櫻井美羽。


 「ことねちゃんこそ! 推しの魅力を理解しているね! ⋯⋯これからはちゃんと、『ことね』と『姫様』に分けるからね!」


 『私達』と意気投合した彼女ーー倉石瑞稀。


 原作ではなかったらしい、出会いと行事を経験をする私達。


 ーーそんな中、私は『私』の存在が消えかけていることに気付く。 二学期、彼女はあまり表に出て来なくなった。 湊との会話に困っていると、出て来てくれるが、それも続かない。 


 ーーその様子はまるで、『私』の役目が間もなく終わろうとしているかのようだった。


 私はいつものように、鏡に向かう。


 「文化祭明日だね⋯⋯」

 『うん! 明日は楽しもうね!』

 「貴方⋯⋯消えるの?」

 『ふふ。 わかる? そうだね。 多分消えるかな』


 私にとって、『私』はとても大切な存在だった。 いつも、寂しい時に見守ってくれる存在。 困っていたら助けてくれるお姉さんみたいな存在。


 ーーでも、私は思った。 『私』は私だと。


 たしかに、考えていることも違う。 理解出来ないこともあった。


 それでも、私は私だからーー


 文化祭の夕暮。 私達は湊と二人で静かな場所で過ごしていたーー


 「⋯⋯だからそろそろ、私とはさようならなんだ⋯⋯」

 「さようなら? それはどう言う?」

 『勝手に体に入ってごめんなさい。 迷惑だったよね。 私はそろそろいなくなるから私と楽しくやってね!』

 「⋯⋯おいおい。 さっきからよくわからないぞ! 『ことね』は『ことね』じゃないか!」

 『ありがとう! それが、私の聴きたかった言葉だよ! ⋯⋯さっきは全然答えてくれなかったもん⋯⋯さようなら』


 そう言うと、私の体から、小さな光が出てきました。


 私と湊は、それが見えなくなってもしばらく見つめてました。


 ーー私は敢えて、『私』のように湊に声をかける。


 「よし、じゃあ行こう!」

 「⋯⋯おいおい。 結局なにも変わってないような気がするんだけど?」

 「うん! 私は私の影響を受け過ぎたみたい。 だってあっちは前世の記憶ありだよ! 最近まで、記憶がなくたって、長生きしてるのはあっちだし、性格も引っ張られるよ! ⋯⋯湊はこんな私、嫌い?」

 「大好きだよ! 大好きだ!」


 ありがとう。 もう一人の私。


 ーーこれからは、『私達』は私だよ。

 

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