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第九十一話:ダンジョンの意思とは

 とりあえず、子供達の護衛はニクスがやるということで決着がついた。

 どのみち、ニクスはダンジョンの意思と戦う際にもそこまで手は出さない予定である。だったら、その間子供の護衛をするくらいは造作もないはずだ。

 子供達も、ニクスがSランク冒険者だと聞くと目をキラキラさせて喜んでいたし、思ったよりもスムーズに事が運んで何よりである。

 まあ、ニクスはだいぶ渋っていたけどね。

 でも、俺はいざという時にはフェルを助けなければならないし、そもそも自分よりも幼い子供に守られるのは子供達だって嫌だろう。

 だから、この場で子供達の護衛を任せられるのはニクスくらいしかいないのだ。


「白竜の、小娘、こい。道を見つけたぞ」


 しばらくして、ニクスが道を見つけたのか、俺達を呼び出した。

 ボス部屋は円形状の構造になっているが、どうやら隠し扉のようなものがあるらしい。

 普通に見ただけじゃどこにそれがあるのかはわからないけど、よく見てみると一部に結界が張られているのがわかる。

 結界というのは、言うなれば魔力の膜だ。 あらゆる攻撃を撥ね退ける不可視の壁、それが壁の一部を覆っている。

 恐らく、ダンジョンコアを管理する過程で誤って誰かが入らないように入り口に結界を張ったのだろう。それが扉越しに感じられるのだと思う。

 まあ、普通は結界はその存在を知っていなければ弾かれるまで気づくことはないだろうけど、ニクスならそれを感じ取るくらいは簡単にできるようだ。

 そして、感じ取れる以上、干渉することも容易である。


「この程度の結界で厳重に守っているとは、片腹痛い」


 ニクスが腕を振った瞬間、ぱりん、と何かが割れるような音が響いた。

 多分、結果が破壊されたのだと思う。何となく、さっきまで感じていた結界の反応がなくなっているし。

 俺にもできるのかな。集中すれば感じ取ることはできるし、壊そうと思えば壊せたり?

 後でニクスに聞いてみようかな。


「さて、この先にいるのは間違いない。小娘、行けるな?」


「は、はい!」


「よし、では行くとしよう」


 結界がなくなり、普通に通れるようになった道を進んでいく。

 初めは暗く、足元を確認するのも難しい通路だったが、次第に明るくなっていき、やがて広い空間へと出る。

 言うなれば、祭壇というべきだろうか。部屋の中央には台座があり、その上には一抱えほどはあろうかという巨大な球が浮いている。

 中心に向かって黒く渦巻くように脈動しており、それがただの球ではないことは容易に想像がついた。

 恐らく、あれがダンジョンコア。ダンジョンの心臓とも言っていい部分である。


「これがダンジョンコア……」


 フェルが一歩前に踏み出す。すると、その瞬間バランスを崩すほどの突風が起こった。

 思わず腕で顔を守る。下から吹き上げるようにして逆巻く風は次第に収まっていき、すぐに止んだ。

 しかし、風が収まった時、ダンジョンコアの目の前には全身真っ白の人型が立っていた。


『やぁ、よく来てくれたね』


 まるで古くからの友人に話しかけるように気さくに話しかけるその人型は、台座に背中を預けながら腕を組んだ。

 もしかして、これがダンジョンの意思? なんか想像と全然違うんだけど……。


『君達の目的はわかっている。僕を倒しに来たんだろう? そうだよね。こうして暴走してしまった以上、僕を生かしておく理由はない。さっさと余計なものを切り捨てて、ダンジョンを手に入れたいことだろう』


「ダンジョンの所有権などどうでもいい。我は修行の一環として貴様を葬りたいだけだ」


『そうかそうか。もちろん、僕達ダンジョンマスターとしても暴走によって迷惑をかけていることはわかっている。だけどね、戦う前に少しばかり話を聞いてほしいんだ』


「話すことなどない。貴様はただ、この小娘の相手をすればいい」


「にくす、まって」


 聞く耳を持たないニクスを思わず止める。

 確かに、ダンジョンの意思を倒さなければスタンピードは収まらないし、倒す必要があるのは確かだろう。しかし、これが凶暴な魔物の姿をしているとかならともかく、人の姿をしていて、且つ話がしたいなんて言ってくるのだから聞かないわけにはいかない。

 もしかしたら、倒す以外の解決法があるかもしれないし、それがあるならそっちの方法を取る方がいいに決まっている。

 何も、魔物を倒すだけが修業とは限らない。無益な殺生はしないほうがいいのだから。


『君は話が通じそうだね。名前は言えるかな?』


「るみえーりゅ」


『ルミエーリュか、いい名前だね』


 違う。それは噛んだだけだ。

 噛んだのにいい名前って、それ絶対お世辞だろ。


『さて、ルミエーリュ。僕が君達に言いたいことはただ一つ、ダンジョンマスターを安易に殺さないでほしいということだ』


「ダンジョンマスター?」


 聞かない名である。

 名前の響き的に、ダンジョンを管理する者、つまりはダンジョンコアのことを言っているのだろうか? あるいはダンジョンの意思のことだと思う。

 それを殺すなというのは、まあそのダンジョンマスターからしたら当然の主張ではあると思うけど。


『もちろん、ただ命が惜しいからとかそう言うわけじゃない。君はダンジョンマスターが殺されるとどうなるか、想像したことはあるかな?』


「ない」


『うん、そうだろうね。答えは新たなダンジョンが増えていく、だよ』


 うーん? どういうことだ?

 ダンジョンマスターが殺されると、そのダンジョンはその機能だけを残して意思がなくなる、だから、定期的にスタンピードを起こす以外は特に問題はないように思えるけど、どうやら別の部分で影響があるらしい。


『ダンジョンマスターは殺されても本当に死ぬわけじゃない。その魂は一度神の御許に送られ、その後新たにダンジョンを与えられてそのダンジョンのダンジョンマスターとなる。つまり、ダンジョンマスターが殺されれば殺されるほど、ダンジョンは増えていくというわけさ』


「なるほど」


 ダンジョンマスターは死んだらまた別のダンジョンのダンジョンマスターとなる。そして、その別のダンジョンとは新しく造られるものであり、結果的にダンジョンの数が増えていくというわけか。

 でも、それってそんなに悪いことかな?

 ダンジョンは一定周期で魔物を始めとした資源が復活する貴重な無限資源である。

 実際、ダンジョンの近くには町が作られ、ダンジョンからの産出品によって町は潤い、活気が生まれる。

 これだけ見ると、ダンジョンはあればあるだけ資源を多く回収できてお得のように感じるけれど?


『そう都合のいいものじゃないよ。ダンジョンマスターは殺されると新たに能力を授かる。簡単に言えば、お前は力が足りないからこの力を使って今度こそうまくダンジョンを運営しなさいってことだね。そしてそれは、殺される度に蓄積されていく。これが繰り返されると、そのうち人族では手を出せないような、要塞のようなダンジョンが出来上がるわけさ』


 殺される度に能力を身に着けるから、いずれは人族では対応できなくなり、放置するしかなくなるわけか。

 確かに、そうなってしまったらダンジョンが新しくできることにうまみはないし、むしろそんな強力なダンジョンならスタンピードが起きようものなら普通に人類の危機となるわけか。


『どうかな? 少しはダンジョンマスターを殺す危険性をわかってもらえたかな?』


「わかる、けど、わからない」


 確かに、ダンジョンマスターを殺すほどに強力なダンジョンが生まれてしまうのなら、いずれこの世界はダンジョンによって支配されてしまうだろう。

 スタンピードを止めるためとはいえ、問答無用でダンジョンマスターを殺すことは間違いなのかもしれない。

 でも、わからないのは、なぜそのダンジョンマスターであるこの人がそんなことを言ってくるかだ。

 死ぬ度に能力が手に入るのなら、ダンジョンマスターとしては、わざと殺されて能力を手に入れ、より強力なダンジョンを作ることも可能なわけである。

 それをせず、わざわざその事実を伝えて警告する意味は何なのだろうか?

 俺はこの人の言葉の真意を測りかね、首を傾げるしかなかった。

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