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第八十三話:とんでもない条件

 役所は結構豪華な建物だった。

 冒険者ギルドも結構立派だったが、こちらもそれに負けていない。というか、細かな装飾とかを考えるとこちらの方がお金はかかっていそうだ。

 中に入ると、広い空間に受付がいくつかあり、待つための椅子がいくつか置かれていた。

 さて、確か呼ばれたのはダンジョン管理の部署だったよね。話は通っているはずだし、適当に話しかければ行けるかな?


「おい貴様、ダンジョン管理課に伝えろ。Sランク冒険者ニクスがやってきたとな」


「え? は、はい、かしこまりました」


 ニクスがその辺にいた職員に話しかけると、職員は足早に去っていった。

 そして、しばらくすると声がかかり、応接室へと案内される。

 部屋で待っていたのは、恰幅のいいおじさんだった。制服なのか、黒を基調としたかっちりとした服を着ており、眼鏡をかけている。

 おじさんはニクスの姿を見るなり大げさに手を広げながら立ち上がった。


「おお、これはこれはSランク冒険者のニクス様、お待ちしておりましたよ」


「貴様か、我を呼び出したという愚か者は」


「お、おろ? ま、まあ、とにかく座ってください。今お茶を出しましょう」


 ニクスの言葉に面を食らった様子だったが、気を取り直してソファを勧めてくる。

 そして、てきぱきとティーカップを用意すると、紅茶を注いでくれた。

 紅茶はあんまり好きじゃないけど……まあ飲まなければいいだけの話か。


「さて、まずはわざわざご足労いただきありがとうございます。世界でも数少ないSランク冒険者と出会えて光栄ですよ」


 ニコニコと人のよさそうな笑みを浮かべながら話しかけてくるおじさん。

 見た感じはそこまで悪い人には見えないけど……まあ、人は見かけによらないからなぁ。


「私は二コラと申します。以後お見知りおきを」


「ふむ。ニクスだ。別に覚えてもらわなくても構わん」


「いえいえ、高名なSランク冒険者の名前を忘れるなどありえませんよ」


 やたらとSランク冒険者ということを押してくる。

 何となくだけど、ニクスの機嫌を取ろうとしてる?

 まあ、それならそれでいいんだけど、わざわざ機嫌を気にするってことは何か頼んできそうだよね。


「さて、さっそく本題に入りましょう。今回わざわざご足労いただいたのは、ダンジョンコアの調査の依頼に関してです」


「それは聞いている。どうやら報酬を出し渋っているらしいな」


「まあ、そう捉えられてしまうのも仕方がないでしょう。ですが、私達も資金繰りに苦労しているのです。どうかそのあたりをわかってくださいませ」


 本来、ギルドが出す依頼の報酬はギルドが出すものだが、今回のようにダンジョンに関連する依頼については町が報酬を管理しているらしい。

 というのも、ダンジョンにはそれぞれ所有者がおり、基本的にはその人物が町を興すことから、大抵は町長がその権限を持っているらしい。

 ダンジョンに入るのが冒険者な以上、ギルドも深いところまで関わってはいるが、ダンジョンで問題が起こった時に最終的にどうするかを決めるのはその所有者なのだとか。

 そして、この町も例にもれず町長、正確には最初の所有者であった町長の子孫ではあるが、その人物が所有権を持っており、今回の依頼の件に色々口を出しているというわけだ。

 二コラさんの言い分では、町長はかなりの守銭奴らしく、ダンジョン管理に回すお金は最低限に、搾取する利益は最大限にがモットーのようで、金貨200枚なんてとてもじゃないが払えるはずもなく、むしろ100枚でも厳しいとのこと。

 なんというか、お金にがめついって恐ろしいね。


「我々としても、一刻も早く守護者を倒し、ダンジョンコアを安定化させなければならないと考えております。ですが、町長からはできるだけ安く済ませるようにと仰せつかっておりまして、報酬の減額を認めていただけない限りはどうにも……」


 報酬の減額なんてワード早々聞かないと思うが、町の一大事にお金に構っている場合ではないだろうに。

 まあ、別に俺達はお金が欲しいわけではない。この分だと最低額である金貨100枚すら貰えるか怪しいけど、そもそもの話ニクスは報酬に興味はないし、減額されようがむしろ貰えなかろうが関係ない。

 だから、減額するだけで済むというなら喜んでそれを受け入れるのだが。


「では報酬は最低限で構わない。早く案内役をよこせ」


「ああ、それがですね……」


 報酬は最低限、そして言ってはいないが、ダンジョンへの入場禁止も失敗しなければいいだけなのでまあ大丈夫だろう。

 ネックなのはこの二つであり、これが解決した今、特に障害はないように思える。

 しかし、二コラさんが告げた一言によって場が凍り付いた。


「案内役を貸し出すにあたり、貸出料を払っていただきたく……」


「……は?」


 案内役は、ダンジョンコアの場所を知る数少ない人間であり、またダンジョンコアを守っている結界を解除する権限を持っている人物である。

 この人がいなければダンジョンコアに近づくことはできず、その近くにいるという守護者を倒すこともままならない。

 当然、依頼しているのは向こうなのだから、守護者を討伐するために必要な案内役はきちんと用意するのが筋だろう。

 しかし、飛び出したのはまさかの貸出料を払えという言葉。

 いや、馬鹿なんじゃないの? どこの世界に頼んでおいて討伐に必須な案内役を有料で貸し出す人がいるのか。

 これがもし、普通の討伐依頼で、その魔物を倒すために必須となるものがあるというなら自分でお金を出して買っていくこともあるだろう。

 だが、今回の場合は失敗すれば町に大きな被害が出るかもしれないという一大事。そんな貸出料なんて言って断られでもしたらせっかくのSランク冒険者を手放すことになる。

 スタンピードによって出る被害がどれくらいかはわからないが、対処するための冒険者を集めるだけでもかなりのお金がかかるだろう。

 もちろん、この町を拠点としている冒険者からしたら狩場がなくなってしまうかもしれないのだから多少安くても受ける人はいるかもしれないが、大半の冒険者は多分逃げ出してしまうんじゃないだろうか。

 冒険者は別にその町に所属しているというわけではない。冒険者ギルドという組織の中で、自分の意思で様々な国に拠点を構えているだけであって、必ずしもその場所を守らなければならないというわけではないのだから。


「……いくらだ?」


「え、ええと、金貨10枚です……」


 あのニクスですらぽかんと口を開けて呆けてしまっていた。

 聞けば、貸出料は金貨10枚だという。つまり、報酬の十分の一だ。

 報酬を最低限に減らした上にさらに金まで払わせるとか頭おかしいとしか思えない。

 今までなんでこんな奴が町長でやってこれたんだと思う。

 まあ、今までスタンピードが起こったことがなかったからなんだろうけど、だとしても酷い。

 二コラさんもそれをわかっているのか、冷や汗が凄い。きっと、自分がどれほど無茶なことを言っているかの自覚があるんだろう。

 そんな指示を出した町長には呆れてものも言えないが、二コラさんには同情するよ。ニクスを前によく言えたものだ。

 ちらりとニクスの方を見てみる。その目は蔑みに染まっていて、まるで豚を見るような目をしていた。

 うん、まあ、流石に怒るよね。いくらお金に頓着がなくても。


「……もういい」


 そう言ってニクスは立ち上がる。

 こうなってしまった以上、もはや役人に期待することはできないだろう。ならば最終手段を取るほかない。

 今回ばかりは俺もニクスの考えに賛同できた。

 よくわかっていない様子のフェルの手を繋ぎながら、俺も一緒に立ち上がった。

 感想ありがとうございます。

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