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第八十二話:町のいざこざ

 それから一週間が経過した。

 てっきりすぐにでも案内役が来てくれると思っていたのだけど、どうやら町の役人と揉めているらしく、なかなか来ることができないらしい。

 メリアさんによれば、町の役人は色々と条件を付けて何とか安く済ませようとしているようだ。

 例えば報酬の話だけど、メリアさんは大体金貨200枚くらいを提示したわけだが、ダンジョンのランクの低さからそこまで払う必要はないとして最低額である金貨100枚で何とかならないかと言っているし、守護者の討伐中は安全のため他の冒険者達のダンジョンへの入場を禁止するのも稼ぎが減るからと渋っているらしい。

 メリアさんはSランク冒険者を、それも気難しい性格のニクスを引き留めるために色々と手を尽くしたようだったけど、役人にとってはそんなこと関係ないらしい。

 なんというか、ほんとに馬鹿なんじゃないだろうか。

 メリアさんによれば、すでにスタンピードの兆候は出始めていて、いつ起こってもおかしくない状況らしい。もちろん、スタンピードが起きてしまえば準備できていなければ相当な被害が出ることは想像に難くないし、普通に町の危機である。

 それなのに、報酬がなんだとか利益がなんだとか、そんなこと言っている場合ではないとわからないのだろうか。

 もちろん、スタンピードの兆候が現れたからと言ってそんなに早くスタンピードが起きることもないだろう。しっかりと準備をすれば、十分乗り越えられる災害である。

 同じ高い金を払うのなら、多くの冒険者に頼んで魔物を片っ端から倒した方が安上がりだと思っているとか?

 いや、いくら金貨200枚とは言ってもそれだったらSランク冒険者一人雇う方がまだましな気がするけどなぁ。

 まあそんなわけで、未だに守護者に挑むことはできず、今日もギルドで魔法の練習をする日々である。

 本当はダンジョンで修行したかったんだけど、案内役が着いたらすぐに出発できるように待機していてくれと言われてしぶしぶ待っているという感じだ。

 当然ながらニクスはそんな提案受け入れなかったけど、まあすぐ来るだろうと思って俺が諭し、受け入れてもらったのだが、これ以上来ないと流石のニクスもそろそろキレるぞ。


「さて、もう一週間もの間ダンジョンに行けていないわけだが、白竜の、何か申し開きはあるか?」


「も、もうすこし、くる……」


「そのセリフを言い始めてからすでに三日経っているがな。一刻も早く強化を終えたいのは白竜の、貴様も同じではなかったのか?」


「あ、あぅ……」


 案の定、いらいらとした様子を隠そうともせずそう語りかけてくる。

 どうしてくれるんだ。このままでは俺がニクスに怒られてしまうではないか。


「ニクス様、少しお話をよろしいでしょうか」


 そう思っていると、そこにメリアさんがやってきた。

 メリアさん、最初に会った時は結構クールな印象だったけど、最近は少しやつれたのか疲れた表情をしている。

 役人とのいざこざで疲弊しているのかもしれない。

 一応、冒険者ギルドのギルドマスターという立場なら管理を任されているダンジョン関連においてはメリアさんの方が権限は大きそうだけど、やはりそう簡単にはいかないのだろうか。


「案内役とやらは来たか?」


「い、いえ、それはまだ……。ですが、ダンジョン管理を担当している部署からぜひ話がしたいから会いに来てくれないかと伝言を受け取りました」


「ほう、これだけ待たせておいて会いに来いと。そいつの頭には何も詰まっていないのか?」


「……まあ、私もそう思います。ですが、そこを押して、どうか会っていただけませんか? そして率直な意見を言っていただきたく思います」


 メリアさんはかなり申し訳なさそうにそう言った。

 まあ、散々待たせているのにさらに呼び出すとかどう考えても失礼だよね。

 一般の冒険者とかならまだしも、こちらはSランク冒険者。その権力は、並の貴族すら凌駕するらしい。

 もちろん、町の役人ともなればかなり偉いんだろうけど、だとしてもここは向こうから会いに来るのが筋だと思うけどね。

 まあ、この世界のルールを詳しく知っているわけじゃないし、もしかしたらこれが正解なのかもしれないけどさ。


「ふむ。確かにいい加減待つのも面倒だ。行くついでに案内役とやらを見つけ出し、連れ出すとしよう」


「……できれば穏便にお願いしますね」


 一瞬言いよどんだあたり、メリアさんも密かにそれを望んでいるのかもしれない。

 それだけ役人の対応に疲れてるってことなのだろう。ギルドマスターって大変だね。


「役所は大通りを抜けて西へ少し進んだところにあります。案内は必要でしょうか?」


「いや、いい。それくらいならわかる」


「わかりました。では、どうかお願いします」


 そう言って、メリアさんは去っていった。

 さて、話がしたいとのことだったけど、一体何を話すつもりなのかね?

 普通に考えるのなら、依頼に関することなんだろうけど、向こうは依頼の報酬やバックアップの内容にケチをつけているわけだし、それを直接交渉するつもりなのだろうか。

 いや、交渉っていうのもおかしな話だけども。

 だって、メリアさんの話では、依頼の報酬額は規定によって最低でも金貨100枚と決められていて、さらに緊急性があるからと上乗せしてくれたわけだけど、額はともかくこれは普通のことである。

 期日がなく、いつ完了しても構わない通常依頼と近日中に必ず達成しなくてはならない緊急依頼だったらそりゃ緊急依頼の方が報酬がいいのは当たり前だし、それが達成されなければ町に被害が出るような大事ともなれば依頼が成功するようにバックアップするのも当然のことである。

 つまり、メリアさんは当たり前のことを言っているわけで、別に突っ込まれるようなことは何もしていないのだ。

 まあ、報酬に関しては少しでも安く済ませたいというのはわかるし、上乗せ分を少し減らすくらいならまだ理解できないでもないけど、ダンジョンの入場禁止にまでケチをつけるのは納得いかない。

 なにか? もし失敗して魔物が溢れ出して被害が出てもいいっていうのか?

 経費削減は結構だが、ケチりすぎれば信用を失う。特に、Sランク冒険者なんて相当な戦力なんだからそこはしっかり対応しなければならないだろうに。

 向こうには向こうの言い分があるんだろうけど、それならこちらにも言い分がある。

 ニクス相手に何を言い出すのかが見ものだけど、あんまり意味不明なことを言いすぎて怒らせることだけはしないでほしいな。


「行くぞ」


「はい」


「おー」


 的を片付け、ギルドを後にする。

 そう言えば、ここ最近ギルドに入り浸っているせいかだいぶ注目を浴びるようになってしまった。

 訓練施設はただの広場なので、他の冒険者も多数いる。そんな中で、Sランク冒険者が魔法が未熟な少女に魔法を教えているとなれば気になるのも無理はないけど、こういう視線って結構わかるものだよね。

 それでも話しかけてこないのはやはりニクスが怖いからだろうか。普段から仏頂面だし、ぱっと見怒っているようにも見えなくはないしね。

 できることならこのまま話しかけられないほうが楽だけど、どうなるかな。

 そんなことをぼーっと考えながら、役所へと向かうのだった。

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