第七十八話:模擬戦
「今、試験官を呼んで参ります。少々お待ちください」
「なんだ、貴様が相手をするのではないのか?」
「私はすでに現役を引退した身ですので……」
訓練場に着くなり、そう言ってメリアさんは去っていった。
てっきりメリアさんが相手をしてくれるのだと思っていたけど、どうやら違うらしい。
現役を引退したって言ってたけど、結構若いように見えたけどな。
多分、三十代前半くらいじゃないだろうか。冒険者であれば、まだまだ現役を続けられそうな年齢だと思うけど。
怪我でもしたんだろうか? 見た目にはわからなかったけど。
「お待たせしました」
しばらく待っていると、二人の男性を連れてメリアさんが戻ってきた。
一人は大柄で背が高く、背中には大きな剣を背負っている。
もう一人は少し小柄で、背中に短い槍を背負っていた。
二人が並ぶと身長差で結構年が離れているように見えるけど、どちらもきちんとした大人である。
この人達が相手なのか。大剣を持った人の方が強そうに見えるけど、見た目で人を判断してはいけない。俺がまさにそうだしね。
二人来たけど、どちらが相手になるのだろう?
「ご紹介します。こちらがナルサスで、こちらがルッツです」
「ナルサスだ、よろしくなお嬢ちゃん」
「ルッツです。Sランク冒険者に会えるなんて光栄だなぁ」
大剣を持っている方がナルサスさんで、槍を持っている方がルッツさんらしい。
ナルサスさんは気さくな様子でフェルに手を差し出し、握手を求めていた。
逆にルッツさんはあまりフェルに興味がないのか、ニクスの方を見てニコニコ笑っている。
印象としてはナルサスさんの方がいいけど、まあSランク冒険者と会えるなんて貴重な体験だろうし、気持ちはわからないでもないけどね。
「こちらの二人と戦っていただきます。まずはナルサス、あなたからお願いしますね」
「おう、任せときな」
フェルの相手になるのはどうやらナルサスさんのようだ。
まあ、さっきの言い方からして恐らくナルサスさんの後にルッツさんとも戦うんだろうけど、一戦だけでは見極められないと判断したんだろう。
二人とも大層な武器を持っているが、当然ながら今回は模擬戦である。武器はお互いに木剣を使用し、戦うことになる。
ただ、剣のリーチの差が半端ないな。
一応、お互いにいつも使っている武器と似通った長さの武器を使うことになるが、フェルが普段使っているのはショートソード。そんなに長い剣ではない。
対して、ナルサスさんは身長が高いのもあって結構長い大剣である。
ルッツさんが相手でも槍と剣では槍の方が射程は長いし、かなり苦労しそうではあるけどね。
ただ、それをどう覆すのかが対人戦というものである。
さて、フェルはどうやって攻略するのかな?
「では、両者フィールドに入ってください。審判は私がさせていただきます」
メリアさんの指示で、フィールドへと入っていく二人。
お互いに適当な距離を取り、剣を構える。メリアさんはフィールドの真ん中に立つと、一度両者を見回し、端の方へと移動した。
「それでは、これより模擬戦を始めます。両者、構え」
フィールドに緊張が走る。
模擬戦を間近で見るのは初めてだけど、結構緊迫しているね。
「はじめ!」
一呼吸置いた後、メリアさんの掛け声が響き渡る。
先に動いたのは、フェルだった。
フェルは持ち前の素早さを生かし、一気にナルサスさんの懐へと潜り込む。
リーチの差はあるが、逆に言えば懐に入ってしまえば長物は不利だ。だからこそ、フェルもその弱点を突くべく先手を取ったのだろう。
しかし、そうやすやすと懐に潜らせてくれるナルサスさんではない。
力強く剣を横なぎに振ると、風圧によって地面の砂が舞い上がる。
一時的に砂のカーテンが出来上がり、フェルの視界を遮った。
こうなってしまっては迂闊に攻められない。フェルは足を止めることを余儀なくされ、目に砂が入らないように片手をかざす。
「はあっ!」
砂煙が収まるよりも早く、ナルサスさんは砂のカーテンを突っ切って突進してきた。
ぶおん、と風を切る音と共に剣が振るわれる。
死角からの一撃ではあったが、フェルの方もある程度予測していたのか、すぐさまバックステップで躱した。
「いい動きだ」
ナルサスさんは続けて剣を振るう。
距離を詰めるなら剣を受け流したいところだけど、風切り音が鳴るほどの剣速となるとまともに受けたら恐らく剣が折れてしまうだろう。
一応、受け流す術はフェルは心得ているはずだが、流石に大剣相手ともなると初めてであり、受けていいのかどうか迷っている様子だった。
それでも、ダンジョンで鍛えた経験は生きているらしく、立ち回りは素晴らしい。
リーチの差によってなかなか近づけてはいないが、一定の距離を保ち、虎視眈々と隙を窺っている。
「……ここ!」
事態が動いたのはそのすぐ後だった。
剣を振り、風圧によって砂が飛ぶ中、フェルは一瞬の隙をついて懐へと潜り込み、胴体に横なぎに剣を叩き込む。
流石に、木剣な上に防具もきちんとつけているため大した威力にはならないが、今のは真剣だったら致命傷だろう。
巨大な武器というのは威力が高く、ごり押せる時も多いが、その分取り回しが難しく、隙を晒しやすい。
そう考えると、隙を見つけるまでに時間がかかったように思えるけど、ナルサスさんは流石試験官というべきか、なかなか隙を見せなかった。
恐らく、さっきのも隙を見せようとして見せたわけではないだろう。たまたま剣がぶれ、それが隙となってしまっただけに過ぎない。
だが、フェルはそれを見逃さなかった。
戦局を見極め、的確なタイミングで的確な一撃を放つ。今回の戦いは、フェルはなかなかいい動きができたんじゃないだろうか。
「それまで。お見事でした」
メリアさんの合図によって模擬戦が終了する。
時間にしてみればせいぜい三分程度の戦い。しかし、戦いなんて大抵の場合一瞬のことであり、その一瞬でいかに隙を見せないかが重要なのだ。
砂で汚れてしまった服を払いながらこちらに向かって手を振るフェル。
なんか結構余裕そうだな。疲れているはずだけど、今日はあんまり魔法の練習ができなかったからそこまで疲れなかったのかもしれないね。
「確かに、いい動きです。とてもDランクとは思えません。まあ、それでも多少不安は残りますが……」
「くどいぞ。我の目が節穴とでも言う気か?」
「い、いえ、決してそのようなことは」
メリアさんもフェルの動きは評価できるものだと思ったらしい。
ただ、それはあくまでDランクにしては凄いというだけであって、Sランクに匹敵するかと言われたらそんなことはない。
これがもし、ニクスが相手にしていたならそれこそ一瞬で片が付いたことだろう。
そこにはどうしようもない埋められない差がある。少なくとも、今のフェルはSランクどころかAランクにも及ばないね。
「で、では、次はそちらのあなた、よろしくお願いします」
「ふぇ?」
次はルッツさんとの闘いかと思って見守っていたんだけど、そしたらメリアさんが俺の方を見てそう言った。
え、俺も戦うの?
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