第七十五話:イメージの参考
人化が解けると思って自重していたけど、確かに三か月経っても人化を解く必要がなく、さらに魔力の減少によって気持ち悪くなることもないと考えると、そこまで気にする必要はないのかなと思った。
ニクスも同じように元の姿には戻っていないので、幻獣種にとってはこれくらいが普通なのだろうか? これだけ長く人の姿になっていられるのなら、ほんとに人の世界で暮らせそうである。
まあ、そう言うことであれば合間を縫って魔法の練習はするとしよう。
飛行練習は流石にできないけど、魔法の練習程度ならダンジョンでフェルを見ている片手間にできるし。
もちろん、魔物を倒すとかしていたらいざという時にフェルの助けに入れないから、やるなら控えめに、例えばニクスのように火球を周囲に展開し続けるみたいなことをやればいいんじゃないかなと思う。
ニクスの火球だけでも十分明るいけど、俺もやればもっと明るくなりそうだし、ちょうどいいんじゃないかな。
まあ、俺の場合は火属性だけでなく他の属性もあるからそれだけではちょっと偏ってしまうけど……そのあたりは何か考えようか。
「むむむ……」
さて、今日はダンジョンではなく、ギルドの訓練施設で魔法の練習である。
魔法の練習を始めてからそれなりに経ったが、肝心の進捗の方は全然進んでいない。
フェルは風属性に適性があり、実際に周囲に風を発生させることには成功しているが、それを的に届かせることが未だにできていない。
なんて言うのだろう。確かに魔力によって風を発生させることには成功しているが、それに方向性などはなく、ただ単に周囲にいたずらな風を吹かせているだけになってしまっているのだ。
当然ながら、ただ風を発生させるだけでは攻撃には使えない。強い突風を吹かせることができれば相手を転倒させることくらいはできるかもしれないけど、それだけでは流石に使い物にならない。
理想は風の刃で切り裂く、みたいなものな気がするけど、フェルはそれをうまくイメージできないようだ。
「貴様は剣の扱いは呑み込みが早いが、魔法に関しては全然だな」
「うぅ……」
ニクスの言葉に落ち込むフェル。
まあでも、これは仕方のないことかもしれない。
俺は学生の頃に見た漫画とかでそういうイメージがすんなり浮かんでくるけど、そう言うのを見たことない人からしたら風で刃を発生させるなんて思いつかないだろう。
思いつけるとしたら台風とかだろうか。すべてを巻き込んで、家を一瞬で瓦礫に変えてしまうような嵐。これだったら、この世界の人でも何となくイメージはできると思う。
ただ、そんな強力な魔法を再現するには大量の魔力を使うだろう。
フェルの魔力は良くも悪くも一般的なようで、そんな大規模魔法を放てるはずもない。
だから、イメージと実際に出るものにずれが生じて、このようなつむじ風のようなものしか出せないのだと思う。
何かいいお手本があればいいんだけど……いや、お手本ならちょうどいいのがあるじゃないか。
「ふぇる、みてて」
「え?」
俺はフェルの隣に立って的に向かって手を向ける。そして、軽くイメージすると、次の瞬間的を風の刃が切り裂いた。
お手本なら俺がなってあげればいい。なにせ、俺はほとんどの魔法を十全に扱うことができるのだから。
突然俺が魔法を放ったことに驚いたのか、フェルは目を丸くしている。
そう言えば、フェルの前で魔法を使ったことはあんまりなかった気がする。あの町でフェルを助けようとした時くらいかな?
「ルミエール、今のって……」
「さんこう、なる?」
「うん、すっごく! 風魔法ってあんな風にもできるんだね」
どうやら今の魔法はフェルのイメージに少なからず影響を及ぼしたようだ。
これくらいでいいのなら、いくらでも見せてあげよう。
俺もそこまで漫画を読んでいたわけではないから、めちゃくちゃ詳しいわけではないけど、多少のアレンジをすればいくらでも思い浮かぶ気がする。
「ちょうどいい。白竜の、貴様もこの練習に付き合え。訓練もできていいだろう」
「わかった」
なんだかんだ、魔法の練習の時もフェルのことを見守っているだけで何もしていなかったけど、これで俺もここに来る意味ができたというものだ。
よくよく考えてみれば、フェルのことを見守るよりも一緒に強くなれた方がいいよね。
前世の年齢からするとフェルのことは子供のように思ってしまうけど、今はほぼ同い年だし。
「一緒に頑張ろうね、ルミエール」
「うん」
的は切り裂いてしまったのでまた新しく用意して、魔法の練習を再開する。
流石に一回見ただけで真似できるほどではなかったみたいだけど、今まではただのつむじ風だったのが少し鋭利さを持った気がする。
もう少しイメージが固まっていけば、いずれはきちんとした刃になることだろう。
俺はフェルがイメージしやすいようにあえて緑色のエフェクトを付けて見やすくしているけど、これもなくせば不可視の刃となる。
どこから飛んでくるかもわからない斬撃。しかも、相手は詠唱をしていないとなれば、結構な武器になるのではないだろうか?
「すいません、少しよろしいでしょうか?」
二人で魔法の練習をしていると、そこに誰かが声をかけてきた。
振り返ってみると、そこにはすらりとした長身の女性が立っていた。
「Sランク冒険者、ニクス様とお見受けします。少しお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
きりっとした表情をしていて、長い青髪をポニーテールでくくっている。
恰好からしてギルドの職員だろうか? 俺達に話しかけたというよりは、ニクスに話しかけたようである。
「なんだ貴様は。我は今忙しい。話しかけるな」
「それは失礼しました。ですが、どうしても早急に相談したいことがあるのです。どうか時間を作っていただけないでしょうか」
ニクスの威圧交じりの言葉にも怯まず、低姿勢ながらも毅然とした態度をとる女性。
ニクスの威圧が通じないって割と凄いよね。ただの事務員ってわけではないのだろうか。
俺はニクスに視線を送る。
どのみちこう見られていては魔法の練習もできない。であれば素直に応対して話を聞いた方が早いと思うのだ。
「……はぁ。いいだろう。それで、なんだ」
「ありがとうございます。できれば内密の話にしたいので、室内までお越しいただけますか?」
「さっさと済ませろよ」
何か大事な話なのだろうか、部屋へと案内しようとする女性。
ニクスをSランク冒険者と知っていて話しかけたってことは、厄介な依頼でも舞い込んだんだろうか。
ちょっと面倒そうではあるけど、ニクスにしか対処できないような依頼なら頼るのも仕方がないことだと思う。
とにかく話を聞いてみないことには始まらない。
俺達はニクスと共に女性についていくのだった。
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