第七十四話:かすかな不安
その後、色々な人に話を聞いてダンジョンについて調べてみたが、特に有用な情報は得られなかった。
というのも、元から20階層以降まで下りていく人は最近では稀で、大抵はもっと前の階層で引き返してしまうことから、奥の階層がそんなに魔物で溢れているということを知らない人が多かったのだ。
もっと昔、それこそニクスが訪れた時のような時代では、まだダンジョンの攻略がなされておらず、ボスを攻略するために何人もの優秀な冒険者が挑んでいたようだったけど、ボスが攻略され、その種類や宝箱の中身が判明してきたことで次第に強い冒険者は離れていったのだと思う。
受付があるあの建物でも聞いてみたけど、ボスを倒した時に現れる宝箱の中身は様々ではあるが、このダンジョンの場合は様々な武器らしい。
その特徴から、それらはキングゴブリンが使用しているものと同じとされ、作りもしっかりしていてなかなか強力な武器ではあるのだが、いかんせん使い勝手が悪い。
というのも、キングゴブリンはかなり大型のゴブリンらしく、それが使う武器となると当然巨大になってくる。
剣であれば、人間からしたら大剣と呼ばれるほどの大きさで、よほどの力持ちでなければ扱うのは難しいのだ。
そんなわけで、希少価値はそれなりに高いものの、実戦では役に立たない武器を求めてボスを倒すよりは、もっと浅い層で簡単に倒せる魔物を狩り、その素材を売ったほうが稼げるということになり、結果としてボスに挑む者は減っていった、ということなのだと思う。
そう考えると、少なくともここ数年は20階層以降に挑んだ者はいないということなのかな? だとしたら、あんなに魔物が多かったのも納得である。
これってどうなんだろう? 危険なのかな。
奥深くの階層で強い魔物がたくさん存在しているということは、それだけ浅い階層に強い魔物が現れる可能性が高いということでもある。
今のところ、初心者殺しが出たという話は聞いていないけど、そもそも初心者殺しは出会ったらまず助からないとされているから、報告に行く人がいないのかもしれない。
それでも、ダンジョンに入る冒険者は受付で管理されているはずだから、帰ってこない冒険者が多ければ、もしかしたら公表していないだけで調査の手が入っていたりするかもしれないね。
万全を期すならさっさとダンジョンの入場を制限して徹底的に調査すべきだと思うけど、そういうわけにもいかないんだろうか?
ダンジョンから産出される資源によって成り立っている町だから、あまりダンジョンの入場を制限するのは町にとっても被害が大きいのかもしれない。それで被害者が増えたら意味がないけど。
「べる、だいじょうぶ、かな?」
思ったのは、そんな初心者殺しにベル君のパーティが出会ったらということである。
俺達は別に問題はない。すでにフェルは25階層でも余裕で立ち回れるくらいの強さを持っているし、万が一の時は俺やニクスがいる。初心者殺し程度にやられることはないだろう。
ただ、他の冒険者にとってはそうではない。運が悪ければ死、そうでなくても大怪我をする可能性が高い。
そんな時、ベル君がそこにいたら、やばいよね。
別にベル君を特別意識しているわけではないけど、やっぱり日頃から挨拶している仲だし、あんな子供が命を落とすのは見ていられない。
でも、だからと言って何か対策があるわけでもない。
危険だからダンジョンには入らないほうがいいって言う? そんなこと言ったら、お前が言うなって言われるだろう。
そもそも、ベル君は非合法のポーターをやらなければいけないほど生活に困窮しているわけで、ダンジョンに入らないという選択肢は安易に取れない。仮に理由を話したところで、ダンジョンへ潜るのをやめることはないだろう。
できることがあるとしたら、忠告することくらいか。
「んー、むずかしい」
一応、今はフェルが魔物を倒しまくっているからそれなりに間引きはできていると思う。この調子で狩っていけば、初心者殺しが出る確率は減るだろう。
それがいつになるのかはわからないけど、数ヶ月かそこらやればいけるだろうか?
いや、ダンジョンは結構広大だし、一人で狩り続けるには限界があるか。
うーん、報告すべきなのだろうか。些細な違和感でも、もしかしたら大変な事態の前触れかもしれないし。
「放っておけ。そこまでする必要はない」
ニクスに意見を求めてみたけど、返ってきたのはそんな言葉だった。
確かに、魔物が多かった少なかったなんてその時の運によっても多少左右されるだろうし、一人の意見では動かない可能性も高い。
それに何より、それで危険性が認められてしまうと、それこそダンジョンの入場制限がかかる可能性もある。
ダンジョンで経験を積んでいる身としては、それでダンジョンに入れなくなるのは避けたいところだ、
心配ではあるけど、確かにニクスの言う通りかもしれないね。
「それより、貴様は最近魔法の訓練をしていないようだが、何か理由があるのか?」
「え?」
ニクスに言われて、そう言えば確かにやってないなと思い出す。
森にいた頃は、飛行練習と共に毎日の日課となっていて、そのおかげもあって制御もある程度できるようになってきたところがある。
ただ、この町に来てからは、練習する場もなかったということもあり、全然練習する機会はなかった。
これは人間姿を維持するために魔力を残しておかないといけないということもあるし、安易に魔法を使わないほうがいいのかなと思ってあえて使っていなかったというのもあるけど、ニクスの言い方からするとこの状態でも練習はすべきだと言っているように感じる。
やっぱり、やらなきゃダメかな?
「確かに今は小娘を鍛えることが最優先だ。だが、貴様も未熟なことに変わりはない。強くなりたいのであれば、日々の訓練は欠かすな」
「まりょく、へる」
「貴様の魔力量であれば多少魔法を使ったところで人化が解けることはない。いざとなれば、魔石があるだろう」
魔石とは、魔物の体内に生成される魔力を秘めた石のことである。
人間は魔法を使い続けることによって魔力の量を増やすことができるが、魔物の場合、魔力を使い果たすということはかなりの危険を伴う行為だ。
魔力がなくなると気絶してしまうのは魔物も同じである。だから、魔物は滅多なことでは魔力を使い果たすことはない。
しかし、魔物の中にはそれでも魔力を成長させていく者もいる。その魔力を成長させる方法の一つが、魔石を食らうことだ。
魔石は魔力を秘めているためか、それを食らうことによってその一部を自らの魔力に変換することができる。
わかりやすく言うなら、魔石を食べると魔力の最大値が上がると言ったところだろうか。
この魔力が増えるというのは、その分の魔力を回復するということでもあり、魔力が少ない状態で魔石を食べると魔力が少し回復する。だから、それで最低限の魔力を回復できれば、人化を解除する必要もないということだ。
魔石に関しては、魔物の体内から取れるということもあって、倒した魔物から抉り出すことによって入手できる。
ゴブリンのような素材がほとんど使えないような魔物であっても、魔物なら魔石は必ずあるので、全くの外れというわけではない。
今までさんざん倒したこともあって、俺のアイテムボックスの中にはかなりの量の魔石があるから、これを使えばいざという時にドラゴンの姿に戻るというへまはしないで済むだろう。
ただ、一つ問題があるとしたら、魔石はそんなに美味しくないということだ。
まあ、石なんだから当たり前なんだけどさ。だからあんまり食べるようなことはしなかったんだけど、ニクスは食べておけと言ってくる。
せめて何か味付けでもできればいいのに。
俺は微妙な顔をしながら魔法の練習について考えた。
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