第七十二話:ダンジョン内での揉め事
ダンジョンで栄えている町だけあって、このダンジョンに挑む冒険者は割と多い。
ゴブリンのような素材的にはずれの魔物も多いが、他の魔物、例えばオークなんかは肉がかなり美味しいらしいし、狼系の魔物は牙や毛皮が結構有用である。
その他にも、ダンジョン自体にある資源、鉱石とか茸とかも地味に人気のようで、魔物そっちのけで採取している人も多い。
特に10階層まではそういう人が多いようで、こうして移動しているだけでも結構な数の冒険者と出会う。
こんなに冒険者がいて問題は起きないのかと思うけど、もちろん起きるようで、時にはダンジョン内だというのに大声で怒鳴りあったり、取っ組み合いの喧嘩をしている人もよくいる。
そう、例えばあの人達とかね。
「これ以上は無理だ。鉱石系は重いんだ、そんないっぺんに運べねぇよ」
「おいおい、それでもポーターかよ。俺達が運べって言ったものは全部運んでもらわないと困るぜ」
「そうだそうだ。せっかくまた新しい鉱脈を見つけたってのに、これを放って帰れるかってんだ」
言い争っているのはポーターと思われる男性と、冒険者と思われる男性が三人。
見た感じ、ポーターの人は屈強な体つきをしており、正規のポーターであることがわかる。
そして、どうやら争いの種は壁に露出している鉱石にあるようである。
ミスリル鉱石。鉄よりも軽く、硬く、魔力もよく通すことから、武器から魔道具まで様々な素材に用いられる万能金属である。
基本的には奥深くに潜らないと手に入らないものではあるが、運が良ければ比較的浅い層でも手に入る機会がある。
ダンジョンは魔物も宝箱の中身も、そしてそこに生成されている鉱石すらも一定時間で復活させてしまうから、その復活したタイミングで発見できればたくさん持ち帰ることができるというわけだ。
しかし、鉱石は当然ながら重い。鉄よりは軽いらしいけど、それでも数が集まればかなりの重さになる。
見たところ、ポーターの人は台車のようなものを引いていて、そこには大量のミスリル鉱石が積まれている。
あれだけでもかなりの量だと思うが、冒険者達はまだ全部取れていないからと帰るのを渋っているようだ。
まあ、ミスリル鉱石は結構高値で取引されているらしいから気持ちはわからないでもないけど、ポーターがたった一人では持っていける量などたかが知れている。
たとえここに来るまでに手に入れた素材をすべて捨てていったとしてもそこまでの量は持っていけないだろう。むしろ、あそこに乗っているのをすべて持って帰れるとしたらあのポーターは相当力持ちだ。
「んなこと言っても無理なもんは無理だ。それとも、お前らなら運べるとでも?」
「あ? 俺らじゃ運べねぇからポーターを雇ったんだろうが」
「今回は高い契約料払ってんだ。きっちり働いてもらうぞ」
ポーターは毅然とした態度で無理だと言っているが、冒険者達は全然耳を貸す様子がない。
その態度に、ポーターは面倒くさそうにため息をついている。
モンスタークレーマーってこういうのを言うんだろうね。
さて、ここで問題になるのは、彼らが言い争っているのが俺達が通る道のど真ん中だということ。
先に進むためにはあそこを通らなければならず、どうあがいても見つかってしまうだろう。
別に関係ないのだから気にせず通ればいいだろうって? そういうわけにはいかない。
これは実際に通ってみた方が早いだろう。ニクスはしばらく待っていたようだったけど、やがて時間がかかりそうだと諦めたのか、ため息をつきながら歩き始めた。
「あ、お前ら、このミスリル鉱石は俺達のだからな!」
「横取りしようったってそうはいかねぇぞ!」
そう言って道に立ちはだかる。
今までにも何度か遭遇してきたが、こういうものを持ち切れずに立ち往生している冒険者っていうのは独占欲が強い。
本来なら、持ち切れない素材とかは諦めるか、あるいは手持ちの持ち物の中からいらないものを捨てたりして持てるようにするが、こういう冒険者は捨てるということができない。
恐らく、彼らの家は物で溢れかえっていることだろう。ゴミ屋敷って奴だ。
で、今ポーターが持ち切れないと言っているのに文句を言っているように、ここにあるミスリル鉱石すべては自分達のものだと思い込んでいる。
ここでどけば、その隙にミスリル鉱石を取られると思っているわけだ。
まあ、確かにそういう人もいるだろう。彼らがここで素直に引き返し、また戻ってきたところでその頃にはすでにミスリル鉱石は取りつくされていると思う。
仮に残っていたとしても、かなり数は減っていることだろう。
だから、できることなら全部取って帰りたいというのはわかる。
でも、どうしようもないものをいつまでも粘ったところで意味はない。時間の無駄だ。
「我はそんな石ころに興味はない。ただ先に進みたいだけだ」
「はっ、そんなこと言って俺達がいなくなるのを待ってるんだろう」
「卑しい奴め、スカベンジャーなんかには渡さないぞ!」
スカベンジャーとは、ダンジョン内で冒険者が捨てたり、今のように諦めざるを得なくて放置される素材などを回収してお金を稼ぐ人のことである。
一応、ダンジョンには自浄作用があるのか、物を放置した場合は大体三日ほどでなくなってしまうらしいけど、そうなる前に回収できれば素材を労せずして手に入れることができる。
放置されたままだとダンジョンが汚くなってしまうので、そういう人達は貴重だし、ダンジョンを管理する人からしてもありがたい存在である。
だから、スカベンジャーは別に悪い人というわけではないけれど、やはり他人が捨てたものを拾い集める、言うなればごみ拾いをしているわけだからイメージが悪く、中には冒険者についていって物を捨てるのを待っているというマナーの悪い人もいるらしいので、それで敬遠されているようだ。
マナーさえ守っていれば別にいいと思うんだけどね。
「黙れ。どかぬというなら無理矢理突破させてもらうぞ」
「おう、やれるものならやってみろ!」
「俺達はこう見えてもCランク冒険者で……ぎゃっ!」
なにやら喚いているが、今から戦闘しようっていうのにそんなことやっていられるほどニクスは甘くない。
あっという間に三人を火だるまにし、地面にのたうち回らせた。
いつものニクスだったら、このまま焼き殺してしまうかもしれないけど、そこは一応釘を刺しておいたので殺すようなことはない。
やるとしても、完全に目撃者がいない時だけだろう。……やらないでほしいけどね。
「ああ、ありがとうな。おかげで助かった」
「ふん。礼を言うならそのゴミどもをさっさと連れ帰るがいい。駄賃くらいはやる」
「悪いな。それじゃあ、代わりと言っては何だが、持てそうならこのミスリル鉱石は持って行ってくれ。どうせこの三人を連れてじゃ全部は持っていけないからな」
そう言って、荷台に乗せられたミスリル鉱石を下ろし、空いたスペースに冒険者達を乗せる。
下手にぐずらずにそのまま帰っていればもっと多くのミスリル鉱石を持ち帰れただろうに、馬鹿な人達だね。
依頼主がこんな状態になって、追加報酬が絶望的となったポーターさんではあったけど、特に気にしていないようで少しばかりのお金を渡すと凄く感謝してくれた。
「やはり面倒だな。確かに報告されたら面倒だが、ならば全員殺してしまえばよかろう」
「だめ」
「貴様はとことん人間に甘いな」
ため息をつきながらニクスが歩き始める。
まあ、確かにこれは俺の我儘でもあるんだけどね。悪人とかならともかく、人間にはあまり死んでほしくはない。
俺は放置されたミスリル鉱石をアイテムボックスにしまうと、フェルと共にニクスの後を追った。
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