第六十九話:魔法の訓練
次の日。俺の言葉が聞き入れられたこともあって、今日は早速魔法の練習をすることになった。
ちょうどいい場所がなかったので、ギルドにある訓練施設を使わせてもらい、そこで練習をすることになる。
まあ、訓練施設とは言ったけど、そんなたいそうなものじゃない。簡単に言えば、大きな広場があるくらいだ。
もちろん、ギルドにはこの他にもきちんとした訓練場があるらしいが、そこは予約が必要なようで、急遽決まった今日は使えない。
しかし、ただ魔法の練習をするだけだったら的を持参すればただの広場でも十分に練習ができるし、他の人の目を気にしないのであればわざわざ予約してまで訓練場を使う必要はなさそうだ。
フェルと手を繋ぎながらやってくると、そこには数人の冒険者らしき人物がいた。
模擬戦のようなものをやっていたり、剣の素振りをしていたり、瞑想していたり、色々な人がいる。
ここは無料で使わせてもらえるし、万が一怪我をしてもお金を払えば治療を受けることもできる。
他の冒険者を待つ間や、依頼に行く前の確認として利用する人も多いようだ。
「ここでいいだろう。小娘、貴様は魔法に関する知識はいかほど持っている?」
「えっと、実はあんまり……」
適当な場所を確保し、あらかじめ用意しておいた簡易的な的を用意する。
フェルは剣士としては優秀ではあるが、魔術師としてはそうでもないらしい。
まあ、いくら魔法がある世界とは言っても、基本的には剣などによる近接戦の方が多いし、後衛である魔術師は状況判断にも優れていないといけないから、まだ成人したばかりのフェルが魔法を教わっている可能性は低いだろう。
一応、世の中には成人もしていないのに魔法の天才と呼ばれる人もいるようだが、大体は成人してから魔法を学び、それで魔術師になるかそれ以外を選ぶかを決めるらしいので、この反応は予想通りだ。
「そうか。ではまず魔法の基礎からだ」
そう言ってニクスは魔法の説明を始める。
魔法とは、魔力と呼ばれる力を使ってイメージした事象を再現することである。
例えば、火を出したいと思ったなら、頭の中で火が燃えているイメージをして、それを魔力によって具現化することで火を放つのだ。
もちろん、ただイメージするだけでは魔法は使えない。それには相応の魔力が必要となるし、イメージもしっかりしていなければならない。
さっきの例なら、漠然と火が燃えているイメージをするのではなく、火球を生み出し、それを前方に放つという具体的なものはもちろん、火球の温度や速度、動き方など様々なことを細かくイメージできればできるほど、強力な魔法を放つことができる。
これをあまりイメージすることなくやろうとすると、下手をすると暴発して自爆する羽目になるのでここはかなり重要な部分だ。
まあ、この部分はある程度才能も重要らしく、あまりイメージしなくてもきちんとした魔法を放てる人もいるらしいけど、基礎的なことを教えるならこういうことらしい。
「小娘、自分の適性はわかっているな?」
「はい、風だと聞きました」
魔法はイメージも大切だが、それと同じくらい大切なのが適性である。
魔法には火や水と言ったように様々な属性があるが、誰もがすべての属性を自在に操れるかと言われたらそんなことはない。実際には、操れるのはほんの一部であり、それをその人物の適性と呼ぶ。
例えばニクスは火属性に高い適性を持っているようで、繰り出される炎はいずれも強力なものが多い。
しかし、持っていない適性の属性を使おうとすると、途端に威力がガタ落ちする。
一応、使えないことはない。魔力を多く消費したり、威力が下がったりはするけど、イメージさえできれば適正以外の魔法も使うことはできる。
ただ、かなり効率が悪く、攻撃に利用するにはかなり難しいので、必然的に適性のある属性を使うことになるわけだ。
フェルの適性は風属性。つまり、風に関する魔法を使うことができることになる。
適性は運が良ければ二個、三個と複数持つこともあるらしいけど、大体の人は一属性らしい。
そもそも適性が一つもない人もいるらしいので、適性があるだけましなのかもしれないけどね。
ちなみに俺は適性など完全無視で闇属性以外のすべての魔法を使うことができる。なんでだろうね?
「ではまず手始めに、あの的を撃ちぬいて見せよ。やり方はさっき教えたとおりだ」
「あの、詠唱はないんですか……?」
あらかた説明を終え、いざ的を狙えと言われたが、フェルは不思議そうに首を傾げていた。
どうやら、人間の間では魔法を扱うためには詠唱というものが必要になるらしい。
以前俺に攻撃してきたあの冒険者もきちんと詠唱していたらしく、ニクスからその説明がないことを疑問に思ったようだ。
確かに、魔法と言ったら詠唱って感じがするよね。むしろ、何の詠唱もなく、ただイメージするだけで魔法を放てる方が異常なのかもしれない。
でも、魔物を見れば別に詠唱なんて必要ないとわかるんだよね。
例えば、ダンジョンにも出てきたホブゴブリンは魔法を扱う個体もいる。実際、この一か月ほどで遭遇したこともあった。
だが、そのホブゴブリンが魔法を使う際に詠唱をしていたかと言われたらそんなことはない。
ニクスによれば、一応「火、出ろ」みたいなことは言っているらしいけど、詠唱と呼ばれるようなものではないと断言できる。
それにそもそも、ゴブリンのような多少の知恵を持たない魔物だって魔法を使うことはできるのだ。それなのに、詠唱が必要とは到底思えない。
俺が思うに、人の間に詠唱が広まっているのは、恐らく魔法の簡略化のためだろう。
この詠唱をしたらこの魔法が放てる、そういう風にイメージしているのだとしたら、誰もがその詠唱を唱えるだけで同じ魔法を放つことができるだろう。
段階を踏んでいるからその分火力は落ちるかもしれないけど、それでも暴発の心配なく簡単に魔法が発動できるなら使い勝手はいい気がする。
人間の知恵ってところなのかな?
「詠唱など必要ない。貴様は我の言うとおりにやってみればいい」
「わ、わかりました……」
フェルは少し困惑していたようだが、ニクスに言われて意識を集中させる。
風魔法というのは目に見えにくい。自然に吹いている風だって目には見えないだろう。
だから、こっそりと攻撃するにはうってつけの魔法だったりする。まあ、地味とも言うけれど。
フェルの周囲を風が逆巻く。きちんとイメージできているのか心配になるけど、大丈夫だろうか。
「……はっ!」
そわそわしながら見守っていると、イメージをし終えたのかフェルが気合の入った声を上げた。
その瞬間、風が吹き荒れる。その風は俺やニクスの服をバサバサと揺らしていったが、設置された的を倒すまでには至らなかった。
「あ、あれ?」
「先は長そうだな」
まあ、フェルはこれまで剣士としての教えしか聞いてこなかったわけだし、ここで聞いただけですぐに魔法が使えるようになっていたら苦労はない。魔術師だってもっと多くいることだろう。
むしろ、不完全ながらも風が具現化したことの方が凄いと思う。きっとフェルには才能があるだろう。
気合の入った掛け声を上げたにもかかわらず不発に終わってしまって恥ずかしいのか、フェルは少し顔を赤くしている。
心配しなくても、先は長い。俺だってしばらくはどうやって魔法を使うのかわからずに苦労したものだ。
まあ、きっかけを掴んでからは一瞬だったけども。
とにかく、まだ始まったばかりなのだから、焦る必要はない。
俺はフェルに労いの言葉をかけながら、これからの成長を願った。
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