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第六十八話:ダンジョン生活

 それからしばらくはダンジョン漬けの生活が続くことになった。

 朝起きたらすぐにダンジョンへと向かい、夜になるまで魔物を倒しまくり、帰ったら食事もそこそこにすぐに眠る。

 正直、フェルの負担が半端なかった。

 最初は食事の準備もフェルがやっていたが、ダンジョンで実に8時間くらいぶっ通しで魔物と戦い続けているフェルがそんなものを作る余裕などなく、結局俺が後を引き継ぐ形になった。

 前世ではコンビニ弁当ばかりだった俺でも、焼いたり炒めたりする程度はできる。

 もちろん、フェルが作るそれと比べればそのクオリティはお察しだけど、元々料理などとは無縁だった俺達はそこまで影響はない。

 やはり影響が出るのはフェルであり、まずいものを出していないかひやひやしているのだが、フェルは笑って「美味しいよ」と言って頭を撫でてくれた。

 こんな状況でも俺のことを心配してくれているのがわかる。フェルの方が辛いはずなのに……。


「ぼやぼやするな、さっさと行くぞ」


 今日もダンジョンへ向かう時間がやってくる。

 休みもなく、延々と魔物を狩り続ける毎日。この状況に、俺は前世の社畜生活を幻視した。

 終わりの見えない辛い労働というのは精神を削る。

 いや、これが普通だと慣れてしまえばまだましではあるけど、それが納得できない時は本当に苦痛でしかない。

 毎日あれだけ体を酷使していて、しかも混むからという理由で朝からダンジョンに向かうから睡眠時間もかなり少ない。

 フェルが体を壊すのも時間の問題だろう。

 ニクスはこれくらいのことをしなければ俺と暮らすことなどできないというし、フェルもフェルでそれに応えようと必死になっているから信じて見守ると決めたけれど、流石に体を壊してからでは遅い。

 少なくとも、週に二日は休みを取るべきだ。それで強くなるのが多少遅れたとしても、それは必要経費である。


「ならば動かない修行をすればいい。どのみち、そのうち魔法は教えようと思っていたからな」


 そう思ってニクスに進言したのだが、返ってきたのはそんな言葉だった。

 確かに、魔法の修業であれば比較的体は動かさなくて済む。魔法はイメージが重要であり、身体的な能力はそこまで関係ないからな。

 ただ、フェルは今まで魔法を使ったことがないらしい。

 一応、適性として風属性を持っているようだが、魔力が少ないのかあまり使えないようだった。

 魔力って増やせるのかな? もし増やせるならそこからやる必要がありそうだけど。


「魔力を使い果たしてから回復するとその際に魔力の総量が増えることがある。だから、魔力を増やしたいなら魔法を使いまくればいい」


「なるほど」


 実に単純明快な話だった。

 ただ単に魔法を使いまくればいいだけだったらそこまで考える必要もないし、楽である。

 いや、でも、魔力が少なくなると苦しくなってくるし、完全に使い切ってしまうと気絶してしまうらしいので楽ではないか。

 魔力を増やしたいなら必然的にそういう感覚を味わわなければならないわけで、これもまた大変そうである。

 でも、毎日コツコツ続けるのが大事なわけだし、少なくともダンジョンで毎日体を酷使し続けるよりはましだろう。

 うん、次からは合間合間に魔法の修業を挟むとしよう。


「気は済んだか?」


「うん。ありがとう、にくす」


 とはいえ、今日はダンジョンに行くと決めてしまっているから向かうしかない。

 いつものようにダンジョンに向かうと、いつものように受付を済ませて中に入っていった。


「今日は25階層まで進むぞ」


 最初は15階層で引き返したダンジョンではあるが、今はもう25階層まで下りるようになっている。

 ベル君の話では、20階層以降はボスが出現する可能性があるから行かないほうがいいとは言っていたけど、やはり奥深くに進んだ方が強い魔物が多いので、修行をするならこっちの方がより効率的だろう。

 もちろん、あまりに強すぎてフェルが太刀打ちできないと問題ではあるが、このダンジョンはちょうどフェルが渡り合えるくらいの強さなのか、多少危ない場面はあっても何とか戦い続けることはできていた。

 それでも、全く無傷というわけにもいかず、そういう時は俺が治癒魔法で治すのだけど、ニクスからはあまり酷い怪我でない場合は治さなくていいと言われている。

 酷いとは思うけど、これも傷を負った状態での立ち回りの練習だと言われたら引き下がるしかない。

 確かに、常に万全の状態で戦えるなんて稀だし、こういったダンジョンを進むならむしろこうして怪我を負った状態で戦う方が普通だろう。

 もちろん、普通だったら治癒魔法で回復するなり、撤退するなりするだろうけど、どうしても深くの階層に潜らなければならないとなればそういう状況も出てくる。

 戦いとは万全の状態でどれだけ戦えるかではなく、負傷した状態からどれだけ持たせられるかだという話がある。

 ピンチの時ほど希望を捨てず、その時にできる最大限を持って対応する。それが戦いの基本とも言えるだろう。

 まあ、俺がいる状態であれば怪我程度ならいくらでも万全の状態に戻せると思うけどね。


「あ、宝箱」


 ダンジョンを歩いていると、たまに宝箱に遭遇することがある。

 これは階層を重ねるごとに出現率が上がっているようで、今までにも数多くの宝箱を見てきた。

 多分、奥深くに行くほど冒険者の数が少ないから、見つけられていない宝箱が多いってことなんだろうけどね。

 肝心の中身だが、色々ある。

 基本的には武器や防具、あるいはポーションと呼ばれる様々な効果がある薬など人工的なものが多い。

 まあ、宝箱に入っているのだからこれを入れたのは生き物だろうし、当たり前ではあるけど、こんなダンジョンの奥底に誰が入れているんだっていう謎はある。

 なんか、回収してもしばらく経てばまた復活するらしいんだけど、どういう仕組みなんだろうね?

 武器や防具に関してはそこまでいいものは入っていない。皮鎧とか鉄の剣とか、使えないわけではないけれど、ある程度実力を持っている冒険者からしたらちょっと物足りないものだろう。

 それでも、初心者冒険者にとってはそれなりの武器防具であるので需要は多く、持ち帰ればそれなりの値段で買い取ってくれる。

 と言っても、最近は俺達がそれらを売りまくっているので買取所では余らせてそうだけど。

 ちなみに、剣の一本はフェルが貰った。

 流石に、急遽用意した数打ち物の剣よりは性能がいいものもあるようで、フェルの体格にも合っていたのでついでに貰ったというわけだ。

 薬に関しては一般的な回復ポーションの他にも、解毒ポーションとかスタミナポーションとか色々あったけど、これに関しては売らずにとっておいてある。

 これらのポーションは消耗品で、ダンジョン入り口の露店でもそれなりに売っている。

 珍しいポーションならそれなりの値段で買い取ってくれるけど、普通のポーションはそんなに高くないので、それだったら自分達で使った方がいいというわけだ。

 まあ、今のところ出番はないけども。


「なかみ、なんだろ」


 宝箱を開けるのはもっぱら俺の役目になっている。

 ニクスはあまり興味がないようだし、フェルは興味はあるようだけど今は修行と割り切っているのか開けようとしない。だから、俺が開けるしかないのだ。

 今回は……魔力回復ポーションか。

 魔法の練習をする際には役に立つものだし、あって困るものではない。

 魔力が少ないうちはお世話になるかもしれないね。

 まあ、ポーションを飲ませてまで無理矢理練習させたくはないけど。

 ひとまずアイテムボックスにしまい、宝箱を閉じる。

 さて、この生活はいつまで続くんだろうか。

 感想ありがとうございます。

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