第七話:戦闘スタイル
生きた心地がしなかった巨大狼との戦闘から数日。
住処を得たことによって動物の襲撃も格段に減り、きちんとした睡眠をとれるようになった。
以前は寝込みを襲われて強制的に起こされたりとかよくあったからね。この差は大きい。
あれ以来、あの狼のような巨大な動物には会っていないが、いつまた出てくるとも限らない。なので、ささやかながら戦闘訓練を行うことにした。
俺ができる攻撃は爪による引っ掻きと牙による噛みつき、そしてブレス。
空を飛べば上から踏みつけとかもできるかもしれないが、俺の体重ではそこまでの効果はないだろう。測ったことはないが、この小柄な体でそこまで重いとは思えない。
引っ掻きと噛みつきに関しては正直あまり実用的ではない。手は小さいし、口もあんまり大きくはない。だから、せいぜいできても牽制くらいだろう。
まあ、力は強いから思いっきり振りかぶれば致命傷を与えることも可能だけど、それには相当近づかなくてはならない。
鱗に物を言わせて相手の攻撃を受けながら一撃食らわせるというスタイルなら戦えなくはないが、いつまた巨大狼みたいな奴が出てくるかわからない。
一応、巨大狼でも俺の鱗は貫けなかったようだけど、痛みは感じた。つまり、それだけ力が強かったってことだ。
この先、同じような敵が現れた時、鱗が破られない保証はない。出来ることなら、自分はなるべく傷つかずに戦う方法を見つけておくべきだ。
となると切り札となるのがブレス。
あれから何度か練習のためにブレスを使ってみたが、あれは規格外すぎる。
軽く吐いただけでも正面一体が焦土と化し、木々が姿を消す。動物相手に吐けば骨も残さず消え失せる。
試しに手を翳してみたが、炎っぽい割にはあまり熱くなく、木々にも燃え移らないのが特徴。
相手を殲滅するにはかなり便利だが、使いどころを間違えると手当たり次第に辺りを焦土に変えそうでちょっと怖い。
ただ、焦土と言っても草も生えないような場所になるわけではなく、むしろ生命力に溢れているのが不思議だ。
その場にいるだけでなぜか心地よい感覚に襲われる。恐らく、ブレスの後にしばらく残留しているキラキラが原因なのだと思う。
あれが何なのかはわからないが、あれが生命力の源のような気がする。
ブレスの特性に関係しているのだろうか? 結局、俺の属性はわからずじまいだった。
炎ではあるんだけど、炎っぽくないんだよね。生命力に溢れているということは、やはり光とか? いや、あんまり関係ないか。
ひとまず、普段は爪や牙を使って応戦しつつ、やばい時はブレスを使うという風に決めた。
ただ、これだけだとどうにも戦闘力に欠ける。できれば、もう少し使い勝手のいい攻撃方法があればいいんだけど。
空を飛び回りながらそんなことを想う。
ちなみに今は行動範囲を広げている最中だ。
見渡す限り森だから迷いそうになるけど、ところどころに崖やら谷やらがあって目印になっているから言うほど迷うことはない。
別にこのままでもいいんだけど、もしかしたら新しい発見があるかもしれないからね。空を飛ぶ練習も兼ねてこうして飛び回っているというわけだ。
空の旅はかなり快適だ。敵対する動物もいないし、空を飛ぶのは気持ちがいい。
今日はあの谷まで行ったら帰ることにしよう。
そう考えていた時だった。
「きゅぅ?」
前方に何やら飛んでいる一団を見つけた。見る限り、どうやら鳥の集団のようだ。
珍しい。今まで飛んできた中で鳥を見たのは初めてだ。
てっきりこの世界には鳥はいないのかとも思ったけど、どうやら運が悪かっただけらしい。
ただ、あの鳥、どうにも姿がおかしい。
大きさは俺と同じくらい。緑の羽毛に覆われ、長い尾羽が特徴的だ。ただ、その体にはバチバチと稲妻のようなものが纏われている。
今まで出会った動物も体の大きさがおかしかったり、額に角が生えていたりと、前世で見た動物とは異なる見た目の奴も多かったが、それ以外はいたって普通の動物だった。
でもあれは何というか、属性持ち? とでも言うのだろうか。明らかに今まで出会った動物とは異質に感じる。
そうこうしている間に向こうがこちらに気が付いたようだ。こちらを取り囲むように散開し、ぎゃあぎゃあと威嚇のようなものをしてくる。
そして、次の瞬間には白く輝く雷が俺の身体を貫いていた。
「きゃ、きゅぅ?」
痛みは、ない。ただ、少し痺れたような感触がする。
え、もしかして雷で攻撃してきた?
最初の攻撃を皮切りに他の鳥達も何事か叫び、次の瞬間には雷に体を焼かれる。
対して痛くはないが、これってもしかして、魔法? それとも種族特性かなにかだろうか。
ドラゴンという身で転生したこともあって、この世界はファンタジーな世界なんだろうなぁと思ってはいたが、このように魔法っぽいもので攻撃されたのは初めてだ。
やっぱりこの世界は魔法というものが存在するのだろうか? もしそうならちょっとテンション上がる。
俺にも魔法使えたりしないかなぁ。そうだ、それなら攻撃手段にもなるしいいのでは?
そうと決まれば早速観察だ。
鳥は相変わらず周囲を包囲しながら雷撃を放ってくる。割と統率が取れており、群れで狩りを行う種族なのかもしれない。
さて、あれが魔法だとして、発動条件は何だろうか。
まずは属性かな? 鳥の体を覆っている稲妻は明らかに雷属性ですって感じがする。
属性に限らず魔法が使えるのか、それとも一属性だけしか使えないのかはわからないけど、俺はドラゴンだし、何かしらの属性を持っていてもおかしくはないだろう。
可能性があるとすれば炎か光か。ブレスがそれっぽいしね。
雷撃は一瞬すぎて捉えるのは難しいが、よくよく観察していると必ず放つ前に威嚇をしてくる。
もしかしてだけど、詠唱的ななにかをしているのでは?
うん、そうに違いない。言葉はわかんないけど。
詠唱をすることによって魔法が使える。うん、ファンタジーっぽい。
あれかな、魔力的なものを消費してるのかな。そこらへんはよくわからないけど。
「きゅあっ!」
とりあえず同じようにやってみる。だが、何も出ない。
うーん、何を詠唱すればいいんだろう。魔法名とか?
ファイアボールとかホーリーとか叫んでみる。またしても何も出ない。
詠唱が間違えてる? もっと色々試してみよう。
雷撃が飛び交う中、魔法の詠唱に精を出す。
小一時間ほど経過したが、結局魔法は放てなかった。
ここまでくると鳥達も諦めたのかどこかへ飛び去ってしまった。
うーん、もうちょっと観察したかったんだけどな。
思いつく限りの詠唱はすべて試した。だが、それらが発動することは一度もなかった。
そもそも詠唱じゃない可能性? じゃあ何を叫んでるんだろう。
……わからない。
とりあえず、魔法があるなら使えるに越したことはない。色々試してみよう。
そろそろ暗くなってきたこともあり、今日はひとまず帰ることにした。
いつもの湖で水浴びした後、住処へと帰る。
殺風景な住処ではあるが、草葉を敷くことによって作ったベッドと愛用の卵の殻が出迎えてくれた。
明日から頑張ろう。そう思いながら眠りについた。
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