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第三十二話:事情聴取

「お前は人間に危害を及ぼす気はあるか?」


 そんな質問が飛んでくる。

 普通に考えてそんなことあるわけないよね?

 そんなつもりがあったらこんな風に話したりなんかしていない。

 答えは当然ノーなので首を横に振る。


「本当か? それが本当なら討伐隊は出さないが、何か証拠はあるか?」


 証拠と言われても、そんなもの出せるわけない。

 その辺りは信じてもらうほかないかなぁ。

 一応、これまでにもフェルを助けたり、遺体を守ってたりしたから、それを証拠としてくれたら嬉しいんだけど。

 ちらりとフェルの方を見る。すると、フェルがメルセウスに口添えをしてくれた。


「メルセウスさん、ルミエールは私を助けてくれました。それにサジェット達のことも守っていてくれました。それで証拠になりませんか?」


 おお、言いたいことを全部言ってくれた。

 これが以心伝心という奴だろうか?

 フェルさんナイス!


「それもそうだな。だが、事情を知らない冒険者がお前と対面し、攻撃してきた場合はどうだ?」


『それは状況次第かなぁ』


 もし人間が攻撃してくるようなことがあっても、基本的には反撃しないつもりだけど、前のようにしつこく攻撃して来たら逃げるしか選択肢がなくなる。

 でも、場所によってはその選択肢すら取れない可能性もある。

 俺の縄張りが少し削れるくらいだったらそれでもいいんだけど、あんまり酷いようなら追い返さなくちゃならない。

 その時に軽く脅かすくらいはするかもしれないけど、それは敵対行動に入るのだろうか。

 俺としては入らないつもりだけど、人間側からしたらそう映るだろうな。

 それでドラゴンに攻撃されましたと言われても俺はどうしようもない。その気はなかったと言うしかない。


「……まあ、その時はその者の自業自得か。ならば、お前は報復のために町を襲いに来るということはあるか?」


 勝手に納得して次の質問に行っている。

 まあ、話が早くて助かるけど。

 事情を知らない者までいちいち構っていたらきりがない。むしろ、事情を知っている者が故意に攻撃してきた時の方が大変な気がする。

 人間に攻撃しないということだけが知れて襲い掛かってこられたらたまったものじゃない。

 まあ、あまりに酷いようなら痛い目に合わせるかもしれないけど、報復のために町を落とそうとかは考えないかな。

 首を振っておく。


「……話には聞いていたが、本当におとなしいな。ドラゴンと対面しているということを一瞬忘れるぞ」


「でしょう?」


 メルセウスのボヤキにフェルが得意げに鼻を鳴らす。

 別にフェルの手柄というわけではないと思うけど、可愛いからそれでいいや。


「人間に危害を加えないことはわかった。では次の質問だ。ニクスというのはお前の親なのか?」


 おっと、ここでニクスのことについてか。

 まあ、ニクスは親代わりと言っても差し支えない。

 この十数年間ずっと俺の世話をしてくれた存在だからね。

 この世界のことについてとか、人間のことについてとかも色々聞かせてもらったし、先生と言ってもいいかもしれない。

 俺は頷いて答える。


「ニクスはお前を隠すためにこんな森の中で暮らしているのか?」


 隠す? まあ、ニクスは俺のことを極力人間と関わらせたくないみたいだし、隠していると言えば隠しているのかな?

 俺としては別に隠れて暮らしているつもりはない。

 たまたま住んでいた場所が森の奥地だったというだけで、人間の町を見つけたのも最近だしね。

 なんなら普通に町に行ってたし、隠れているつもりは全くない。

 でも一応、はい、なのかな。頷いておく。


「ニクスはお前を大事に思っているか?」


 それは即答で頷いておく。

 ニクスは多少口調がきついことがあるけど、基本的には優しい。

 人間に会いたいといった俺の我儘も聞いてくれたし、これで大事に想ってくれていなかったらちょっとショックだ。


「ニクスはお前を利用して町を襲うことを考えているか?」


 それはないかなぁ。

 確かにニクスは人間嫌いっぽいけど、別に人間を滅ぼそうとかそういうことは考えてないと思う。

 どちらかというと、嫌いだから近寄りたくないというのが当てはまるだろう。

 わざわざ人間に喧嘩を売って付きまとわれるようなことはしないはずだ。

 首を振っておく。


「となるとやはりニクスはドラゴンを利用する気はないのか……」


 小声で何か言っているが、耳のいいドラゴンの俺には筒抜けだ。

 ニクスが俺を利用ねぇ、それこそないと思うけど。

 まあ、仮にニクスが何か俺に頼んできたというなら、できる限りは協力するつもりだけどね。

 人間を滅ぼせとかそういうのでなければ喜んで手を貸すだろう。


「ならば、これをフェルに贈ったのはお前か?」


 メルセウスがフェルに目配せすると、フェルが胸元から俺の鱗を取り出す。

 ちゃんと大事に持っていてくれたんだ。ちょっと嬉しい。

 事実なので頷く。


「これをもう少し譲ってもらうことは可能か?」


 ああ、レア素材だからもっと欲しいってこと?

 うーん、別に上げてもいいんだけど、それだとフェルへプレゼントした特別感が薄れる気がする。

 メルセウスは友達というよりは知り合いのおっさんとかそんな感じの関係になりそうだし、いずれ尊敬はするかもしれないけど、たくさん渡すのはなんか違う気がする。

 でも、フェルの安心しきった様子を見ればメルセウスは相当頼りにされているのだろうということはわかる。

 フェルが許すのならば、メルセウスの分くらいはあげてもいいかなぁ。

 そう思ってフェルの方を見つめる。これで伝わるかは微妙だけど、フェルなら感じ取ってくれそうだ。


「どうしたの?」


『フェルがいいならいいよ』


 一応言葉にするが、人間の言葉にはならない。

 フェルはしばらく首を傾げていたが、やがて何かを察したのか小さく笑った。


「私に気を使っているなら大丈夫だよ。図々しいかもしれないけど、ルミエールがいいなら譲ってほしいかな」


「ドラゴンの鱗は強力な武器や防具の素材となる。だが、お前を討伐するためというわけじゃない。貴重な素材であるし、無理というならそれで構わないのだが」


 メルセウスにも悪用する意思はなさそうだ。

 まあ、初めから敵対するわけでもなく、ちゃんと俺を話し合いに来てくれたし、しかも討伐隊を出さないでくれるのだから少しくらいお礼してもいいだろう。

 俺は腕の部分から剥がれかけの鱗を引き抜き、メルセウスに差し出す。

 フェルのより少し小さいが、強度は同じくらいだろう。


「いいのか?」


『うん、いいよ』


「感謝する」


 丁寧な手つきで鱗を受け取るメルセウス。

 太陽に透かしてみたり感触を確認したりしていたが、しばらくして腰にあるポーチに大事そうにしまっていた。


「質問は以上だ。俺は町に帰って報告するが、フェルはどうする?」


「私はもう少しここにいます。帰りはニクスさんに送ってもらいますので」


「わかった。あまり遅くならないようにな」


 そう言ってメルセウスは去っていった。

 周囲の気配を確認してみたが、魔物の気配は何もない。恐らく、ニクスが掃除したんだと思う。

 帰り道も安全そうなので、俺は気兼ねなくフェルと遊ぶことにした。

 今日は何をしようか、考えるとワクワクする。


「今日も乗せてくれるの?」


『もちろん』


 ひとまず、ここでずっと話しているのもなんだ。

 かがんで背中を見せると、すぐに意図を察してくれたのかスムーズに背中に乗ってきてくれる。

 いいぞいいぞ。この調子でもっと仲良くなってしまえ!

 俺は心の中で歓喜しながら静かにその場を飛び立った。

 感想ありがとうございます。

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