第三十一話:心焦がれて
次はいつ会えるのだろうと期待を膨らませながら今日も外に出る。
気持ちとしては毎日でも会いたいと思うけれど、向こうにも都合というものがあるだろうし、そんな贅沢を言うつもりはない。
ただ、露骨に会うのを制限している風なのはちょっと不満だ。
会う方法は限られているわけで、そのためにはニクスの仲介が必要不可欠なんだけど、なかなか会わせようとしてくれない。
本来、魔物と人間は交流するものではなく、その関係は敵同士、あるいは従魔としての隷属となる。あるいは食料や素材としての見方が多いかもしれない。
魔物からしたら人間は天敵のような存在なわけで、間違っても友好関係を結ぶものではない。
そういう考えがあるから会わせたくないというのはわかっている。
でも、俺とフェルの関係はニクスもある程度は知っているはずだ。
ニクスならば、フェルがそれほど悪い人間ではないというのはわかりそうなものだけど。
それを言っても、ニクスはそんな簡単に信用するなと諭すばかり。ニクスも割と頑固だ。
一日、二日と過ぎて行き、三日目になると少し恋しくなってくる。
一週間経っても音沙汰がなかった時は、町に直接確認しに行こうかと思ったくらいだ。
流石にそれはニクスに止められたが、そろそろ会いたい。
毎夜毎夜寂しく月を眺めながらフェルのことを思っていたら、ようやくニクスが動いてくれた。
自分で言うのもなんだけど、結構寂しがり屋だよね。
ニクスがいれば大丈夫と思っていたんだけど、やはり新たな出会いをしてしまうとそれに縋ってしまうのかもしれない。
前回と同じ場所で待ち合わせをする。
前回は夜だったが、今日は昼間に来ることになった。
「こんにちは、ルミエール」
ニクスの合図で向かうと、前と変わらぬ姿のフェルがそこにいた。
いや、若干装備が変わっている。新調したのかな?
腰に差している剣も前のより少し長めだ。
俺は久しぶりに見るフェルの姿を喜び、目の前に舞い降りる。
以前は少し怖がっていた風だったフェルだったが、今ではそれもなくなってきているようだった。
距離が近くなったようで嬉しい。
思わず喉を鳴らしながら顔を近づけると、微笑みながら頭を撫でてくれる。
ああ、この感じが欲しかった。幸せー。
「甘えん坊だね。そんなに会いたかったの?」
『それはもちろん!』
ニクスが呆れ顔になるくらいには待ち焦がれていた。
いや、ここまでになるとは俺も思っていなかったよ。
でも考えて見て欲しい。今まで一人も友達いなかった奴が初めて友達ができて、しかもその子がめちゃくちゃ可愛い子だったら会いたくなっても仕方がないと思わない?
背は小さいけど、整った目鼻にぷっくりとした唇。サラサラの髪は眩しいくらいの金髪で、微笑んだ表情はまるで天使のよう。
正直俺の友達にはもったいないくらいの美少女だ。
まあ、友達と言っているのは俺だけで、向こうがどう思っているのかはわからないけど、こうしてまた会いに来てくれたのだから嫌われてるってことはないだろう。
「ルミエール、今日は私以外にも連れてきてる人がいるんだけど、来てもらってもいい?」
『うん? いいけど……』
もしかしてフェルの友達だろうか。
いいぞ、この調子で知り合いが増えていけば、俺が人間の友達を作りやすくなる。
俺が頷くと、フェルはいったん離れ、少し道を戻っていった。
しばらくして戻ってくると、その隣には一人の男性の姿があった。
かなり背が高い、筋骨隆々の男だ。
結構年がいってそうだけど、その力強さは未だに衰えていないように思える。
背中には巨大な剣を背負っており、俺の鱗でも両断してしまうのではないかという恐ろしさがあった。
「怖がらないで。この人はメルセウスさん、冒険者ギルドのギルドマスターだよ」
そんな気持ちが伝わったのか、無意識に警戒していたようだ。
フェルの紹介に身を改め、ギルドマスターと呼ばれた男を観察する。
ドラゴンに睨まれているというのに顔色一つ変えない。ギルドマスターという役職は伊達ではないようだ。
でも何でギルドマスター? まさか、俺を討伐しようってわけじゃないよね?
「お初にお目にかかる。俺はメルセウス、フェルの言う通り、ギルドのマスターだ。今日は無理を言って連れてきてもらった。別にお前を討伐しようというわけではないから安心してくれ」
こちらを安心させるためか、両手を広げながら諭すような口調で話しかけてくる。
まあ、もし討伐しに来てるんだったらもっと大勢で来ているか。
もしかしたら隠れているのかもしれないけど、近くに気配は感じられない。
野生の中で暮らしてたおかげか、生き物の気配にはかなり敏感になってしまった。だから、多少隠れた程度だったら見つけることが出来る。
この人の言葉に嘘はないんだろう。
「メルセウスさんはルミエールに危険がないかを調べに来たんだよ」
『危険?』
今、町ではドラゴンの子供が現れたという話題で持ちきりになっているらしい。
それで、討伐隊を組まなくてはならないとか、調査はどうするかとか、色々話し合いが行われているらしい。
この世界のドラゴンは超危険対象で、子供を見つけたら大人になって手を付けられなくなる前に討伐みたいな認識があるのだが、フェルが俺のことは危険ではないと進言してくれたおかげでそれらがストップしているようだ。
フェル、俺のことをそんなふうに思っていてくれたんだね。
思わずフェルにすり寄ると優しく撫でてくれる。
メルセウスさんは警戒したように大剣に手をかけていたが、フェルの様子を見てすぐにその手を離した。
「もし、お前に危険性がないことが証明されれば、討伐を見送ることが出来るかもしれん。こちらとしても、戦わずに済むのならその方がいいからな。本当は調査隊を組んで行かせるつもりだったんだが……」
「あまり集まりませんでしたね。ナシェさんやセインさんは行きたがってましたけど」
危険性がないかの調査なので、ドラゴンと直接接触しても耐えられるような精神力を持つ者で、且つドラゴンに危害を加えようとしない者という条件があったらしい。
まあ、普通ドラゴンを前にして平然としていられる人はいないよね。
フェルも最初は凄く警戒していたし、敵意むき出しだった。
それが今ではこうして頭を撫でてくれるくらいに仲良くなったと考えると、感慨深いものがある。
こんな少女に甘えるなんて、人間の姿だったら通報ものだけど、ドラゴンの姿ならそう気になることではないだろう。というか、この世界での歳ならまだ十何歳ってレベルだから同い年かそれ以下かな? 人間姿でもワンチャンある気がする。
「町長も人に心を許したドラゴンには興味を持っている。だから、いくつか質問をさせてもらうぞ」
「出来るだけ悪いようにはしないつもりだから、ちゃんと答えてね」
『はーい』
質問に答えるくらいだったら訳はない。むしろ、向こうから意思疎通を試みてくれるのは嬉しい。
どうせ仲良くなるなら可愛い子がいいけど、この人みたいな威厳のあるおっさんでもいい話はできそうだ。
できるならお酒を傾けながら話し合いしたいところだね。
今のところお酒は見つけたことがないから無理だけど。
町に行ったらあるのかな? 頼めるなら頼みたいところ。
「ではまず一つ目、お前は人間に危害を及ぼす気はあるか?」
いきなり直球な質問が来たね。
感想ありがとうございます。




