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第二百五十二話:激しい模擬戦

 魔法は、魔力さえあれば、どこからでも発生させることができる。

 もちろん、術者である自分の周囲。例えば、手の先から出現させるとかの方が楽ではあるけど、やろうと思えば、さっきニクスがやったように、背後に突然魔法を出現させることもできるわけだ。

 相手の隙を見極めたり、構築のための時間を稼ぐ必要はあるけど、それができれば、相手はどこから来るかもわからない攻撃に怯えることになるだろう。

 俺は、無意識のうちに正面からの攻撃にこだわっていた。

 いや、こだわっていたというか、それが普通だと思っていた。

 誰だって、やりやすい方法を選びたい。魔法の構築も、自分の周囲を起点にした方がやりやすいなら、そっちを主に使うだろう。

 でも、それだけではだめだ。

 日常的に使うような魔法ならまだしも、強い敵と戦う時に、馬鹿正直に正面から挑むだけでは、勝率が下がる。

 もちろん、ニクスのように、圧倒的な力を持ってねじ伏せることができるのなら、それでもいいのかもしれないが、今の俺では、そこまでのことはできない。

 であるなら、いかに敵の死角を突くかを考えなくてはならないだろう。


『ここからは我も攻撃していく。せいぜい、隙を見つけてみせよ』


『え、ちょっ……!』


 言った瞬間、周囲に炎の柱が大量に出現する。

 ニクスが扱うのは主に火属性。その熱気は、当たらなくても、肌を焦がす程である。

 あんなのに直撃した日には、もれなく丸焦げだ。

 俺は慌てて回避行動をとる。

 炎の柱は、縦横無尽に飛び交ってくる。

 何とか回避はできているが、こんなのを避けながら攻撃なんて、できるわけがない。


『どうした、攻撃してこい』


『ひぃ!』


 一度、大きく空へと飛びあがる。

 炎の柱の射程は相当長いが、流石に山を見下ろす程の高さまでくれば届かない。

 まあ、ニクスも飛べるから、その差はあっという間に埋められると思うけど、手加減してくれているのか、ニクスは飛ぼうとはしなかった。

 というか、始まってから一切動いていない。

 動いてない相手にここまで苦戦させられるというのは、俺もまだまだなのか、それともニクスが圧倒的すぎるのか。

 まあ、両方だと思うけど。


『逃げるな。迎撃くらいできるだろう』


『そんなに直感的に動けないよ!』


 確かに、魔法の発動自体はそんなに時間はかからない。

 人間達は、詠唱が必要らしいけど、俺の場合はイメージさえできれば、それで発動できるからね。

 だが、いくら無詠唱で発動できるとは言っても、全く時間がかからないというわけではない。

 魔法の威力は、魔力の量も大事だが、明確なイメージができているかどうかにもよる。

 だから、曖昧なイメージで発動させれば、その分威力は落ち、迎撃もままならなくなるだろう。

 せめて、考える時間がなければ、魔法を即座に発動させるのは難しいのだ。


『まったく情けない。以前の貴様は、もっと食らいついてきたぞ』


『そんな記憶全くないんだけど!?』


 いやまあ、確かに以前の俺なら、ここまで飛ぶことはなかっただろう。

 でもそれは、魔法のイメージが明確にできておらず、制御の方法もよくわかっていなかったから。

 要は、とにかく全力で魔法を放つ、というのがデフォルトだったのである。

 制御の方法を学んだ今は、どの程度の威力で放つのか、どう言った軌道で放つのか、などの計算をする必要があり、それが魔法の遅延に繋がっているってことだろう。

 闇雲に魔法を放っていた時の方が、いい勝負ができていたと思うと情けないが、相手の動きを見るようになったということでもある。

 特に、これは模擬戦ではあるけど、ニクスは手加減などほとんどしていないだろう。

 当たれば間違いなく気絶する自信があるし、それを知った今、何も考えずに魔法をぶっ放すなんてことはできない。


『とりあえず降りてこい』


『ぎゃんっ!?』


 安全かと思っていたら、唐突に頭上から炎の球を当てられて、軽く脳震盪を起こす。

 そ、その距離まで届くのね……。

 頭がくらくらして翼が動かなくなり、落下していく。

 まあ、それも一瞬で、すぐに体勢は立て直せたけど、その頃には、ニクスの間合いに入っていた。


『教育方針を間違ったか? 小賢しい考えばかりしおって、我は悲しいぞ』


『むぅ、そこまで言うなら、闇雲に行くよ!』


 そんなに全力でやって欲しいなら、俺も考えるのをやめよう。

 イメージは最低限。刃だの槍だのと言うこじゃれた形は捨てて、単なる現象を押し付ける。

 出現したのは巨大な水の塊。空を覆い尽くさんばかりに広がるそれは、俺の気合に呼応して急速に落下する。

 ニクスお得意の面制圧。しかも、ニクスの苦手な水魔法だ。

 防げるものなら防いでみるがいい。


『やっとまともな攻撃が来たな』


 ニクスは、迫りくる大瀑布を見上げ、息を吸い込む。

 数瞬後、吐き出されたのは、青い炎。それは、水に触れると同時に水蒸気となり、辺りを白く包んだ。


『うわ、何も見えない……』


『視界だけの情報に頼るな。でなければ、こうなるぞ』


『えっ? うぎゃっ!?』


 いつの間にか、足元から吹き上がっていた炎の柱に気づかずに、直撃を食らってしまった。

 ほとんどの攻撃を防ぐドラゴンアーマーをもってしても、ニクスの攻撃は防げない。

 あっという間にこんがり焼かれ、俺の意識は遠のいて行った。


『う、うぅん……』


『ルミエール、気が付いた?』


『……はっ、ここは』


 気が付くと、地面に横たわっていた。

 どうやら、フェルが介抱してくれていたらしい。心配そうな顔が目に入った。

 わかっていたことだけど、やはりニクスには勝てないらしい。

 あの攻撃は、結構いい線行ってたと思ったんだけどなぁ……。


『やっと起きたか。あの程度で音を上げるとは、貴様もまだまだだな』


『少しは手加減してよぉ……』


 どうやら、場所は変わっていないらしい。

 すぐ近くから、滝の音が聞こえ、そちらを見てみると、ニクスが羽を休めていた。


『手加減ならしただろう。焦げ一つない』


『いや、どうやって……』


 一瞬で気絶するほどの熱量があったのに、焦げ一つないとはどういうことなのか。

 一応、ニクスの炎は聖属性を帯びているから、その力を強めた結果だろうか?

 あるいは、単純に俺の鱗が頑丈過ぎただけかもしれない。

 どっちにしろ、負けたわけだが。


『しかし、腕自体は落ちてないようだな。威力は悪くなかった』


『そ、そう?』


『問題なのは、その考え方だな。貴様、我のことを傷つけたくないとでも思ったか? ところどころで、手加減しているのがわかったぞ』


『え? そんなつもりはなかったんだけど……』


 ニクス相手に手加減して勝てるだなんて思ってないから、常に全力のつもりだったけど、無意識にやっていたってことだろうか。

 単純に、ニクスとの実力差がつきすぎているというのもあるかもしれないけど、もし手加減していたとしたら、勝てなかったのも頷ける。

 でも、無意識なら、どうしようもないよね。

 俺は、自分の特性を、どう評価すべきか悩んだ。

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