第二百五十話:次なる目的地
その後、俺はフェルと合流し、市場を覗いてみることにした。
ニクスからは、すぐにでも出発すると言われているが、今日一日くらいは、まだ許されるだろう。
宿屋を取っていないところを見ると、本当に今日一日だけになりそうだけど、まあ、それでも問題はない。
まだ昼頃だしね。
「魚料理もこれで食べ収めかな」
「また、くればいい」
「そうだね。港町はここだけじゃないしね」
これから、どこに行くかに関しては、ある程度任されている。
どこかのタイミングで、模擬戦をしなければならないというのは決定事項だけど、その後どこに向かうのかは、ニクスも決めかねているようだ。
大きな目標を考えるなら、フェルの修行ができる場所、ということになるんだろうけど、正直、フェルの野生としての知識は、すでにそこそこあるんだよね。
狩りの仕方、寝床に見つけ方など、大体のことは教わってきたし、実戦を用いて、体験もしてきた。
後は慣れるかどうかの段階であり、それこそ、どこかに定住して、ってやっていくのがいいと思う。
俺としても、ニクスやフェルと共に暮らせる場所が見つかるのなら、それでいいと思っているし、目下の目標は、住処探しと言ったところだろうか。
でも、俺には密かに考えている目標があり、それが、世界を見て回ってみたいというもの。
せっかく、労働から解放されて、しかもどこへでも飛び回れる翼を手に入れたのだから、見たことのないものを見て回りたいという欲がある。
今のところ、俺もフェルも、幻獣としての年はまだまだ幼い部類に入る。であるなら、そんな小さなうちから引きこもってしまうのも、もったいないだろう。
ニクスのように、世界の様々な場所を回り、いろんなものを見聞きしたい。それくらいの夢を持っても、罰は当たらないと思う。
だからこそ、住処探しはまだ先にしたいのだ。
とはいえ、世界に何があるかを具体的に知っているわけではないし、候補地が少ない。
ニクスから、そういうことを聞ければいいんだけどね。
「次行くとしたら、どこがいい?」
「うーん、やま?」
「山? 変なところに行きたがるんだね」
割と適当に言ったけど、海と来たら、山じゃない?
まあ、海に行ったとは言っても、ビーチで遊んだりしたわけではないから、行ったというのは微妙かもしれないけど、広大な山々の景色を見てみたいというのはある。
この世界で、最も高い山ってどこなんだろう?
「後でニクスさんに聞いてみようか」
「うん」
その後、いくつかのものを買い込み、ニクスとの待ち合わせ場所へと向かう。
買ったのは、魚をいくつかと、香辛料の類。
特に、香辛料って、他のところだと割と高いらしくて、ここなら結構お手頃な値段で買えるから、ちょうどいいと思ったようだ。
野生での生活には必要ないかもしれないけど、町で生活する分には、こういうものの扱いにも慣れておきたいよね。
ニクスも、フェルの料理には一目置いているみたいだし、この調子で篭絡していけば、少しは町の近くに住めるかもしれないし。
「それで、山だったか?」
「うん、けしき、いいばしょ、いい」
「そういうものは、精霊の方が詳しいだろう。おい、そこにいるんだろう? 出てこい」
「むぅ、驚かせようと思ってたのに……」
ニクスが呼び掛けると、物陰から子供のような人物が現れた。
そう、海を渡る際に別れた、ニーシャさんである。
まさかここまで早い再会になるとは思っていなかったが、元気そうで何よりだ。
「もっとかかると思っていたのに、案外すぐに戻ってきたから、驚かそうと思ってたのに、ニクスさんは空気が読めないのね」
「ぬかせ。貴様の気配くらい、白竜のなら気づいていただろう」
「え? ま、まあ、うん、そう」
正直全然気にしてなかったけど、でも、ニーシャさんが近くにいるというのは何となくわかっていた。
別れからまだ一週間も経ってないわけだし、全然久しぶりって感じもしないけど、また会えて嬉しいね。
「ふぅ、まあいいわ。それで、山だったかしら? それなら、いい場所を知ってるわ」
「ほんと?」
「ええ。ここから内陸の方に行くんだけどね」
ニーシャさんが言うには、内陸の方に少し行くと、とある山があるらしい。
詳しいことは知らないけれど、どうやらそこには神聖な滝があるらしく、その滝に打たれた者は、新たな武の極致に至る、と言われているらしい。
滝に打たれるって、修行でもするんだろうか? なんとも興味深い話である。
「その話、どこかで聞いたことがあるな。確か、気を開くための瞑想の場とか言う」
「き?」
「魔力と似たようなものだ。人間どもは、身体強化魔法の新たな体系として、気を用いることで、体の強化をするところもあるらしい」
「へぇ」
そういうものもあるんだね。
となると、やっぱりそこは修行の場ってことなんだろうか。
見てみたい気もするけど、神聖な場所っぽいし、入ったら怒られてしまうだろうか?
「安心しろ、その場所はすでに何年か前に放棄されている。今は無人のはずだ」
「そうなんだ」
それなら安心、なのかな?
いったいなぜ放棄されることになったのかが気になるけど、俺が見たいのは、綺麗な景色ってだけだし、最悪遠くから見るだけでも構わない。
まあ、気を解放するというのが、どういうものかを見てみたいというのはあるけれど、どのみち人間のために編み出されたものっぽいし、俺達には無用の長物だろう。
「修行の場だというならちょうどいい。そこで貴様らと模擬戦をするとしよう」
「ほ、ほんと、やるの?」
「嫌なのか?」
「い、いや、ではないけど……」
正直やりたくないけど、ここで嫌と言ったら、余計に怒られそうである。
まあ、自分の実力を把握するいい機会と思うことにしよう。
「決まりみたいだね。案内はするから、ついてきてね」
「うん、よろしく、にーしゃさん」
行先も決まったので、町から離れ、元の姿に戻り、空へと飛び立つ。
かつて、修行の場として開かれていた山か。ちょっとワクワクするね。
模擬戦をしたくないという不安と、新しい場所を見れるという期待を持ちながら、ニーシャさんを先導に飛び続けるのだった。




