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第二百四十八話:黒幕とは誰か

 俺が、アーリヤの関係者である可能性がある。それに関しては、なんとなく想像はしていた。

 見たこともないアーリヤの像を見た時の感覚は、記憶にはなくても、どこかに刻まれているものなんだと思う。

 ニクスも言っていたけど、俺自身がアーリヤの生まれ変わりなのか、それとも関係する何者なのかかはわからないけど、アーリヤに関係する何かであるのは確かだろう。

 だが、だからと言って、何かをしなければならないというわけではない。

 関係者として、アーリヤを再びこの世界に降臨させることが使命だとか言われたとしても、俺には関係のない話だ。

 使命だのなんだのと言うのは、もう十分すぎるほど味わった。

 自分を殺して、会社のために働いて、働いて、その末に命すら差し出してきたのだ。

 その呪縛から解放された今くらい、好き勝手に生きてもいいだろう。

 特に、今は旅をするのが楽しいと感じている。

 時折、どこかの町に滞在するのも、それはそれで悪くはないが、この世界には、俺の知らないものがごまんとある。

 そして、俺はそれを見に行くことのできる翼を持っている。

 いずれは、フェルとニクスと一緒に住むための住処を見つける必要があるかもしれないけど、今は、そうして旅をしたいというのが、本音である。

 アーリヤの関係者としての力が、何かのきっかけで暴走したり、あるいはアーリヤの復活をもくろむ何者かに利用されたり、そう言ったことがないといいんだけどね。


『それにしても、こうしてリトが他の子を連れて旅をしているなんて、随分成長した感じがするね』


『おい、どういう意味だ』


『確かに、リトは昔から優しかった。ちょっと素直じゃないところはあったけど、なんだかんだ手を貸してくれる優れた友人だった。そんなリトが、誰かと一緒に旅をするなんて、とても珍しいことだと思ってね』


 レヴィアさんは、そう言ってニクスのことをからかった。

 確かに、今までの話を聞いた限りでは、ニクスは基本的に群れる性格ではなかったというのはわかる。

 人間のことが嫌いで、姿を現す時も帯同することはあまりないし、幻獣に対しても、ちょくちょく会いに来ることはあれど、一緒に旅をするなんてことはなかったように思える。

 それが、俺と会ってからは、文句を言いながらもずっと一緒にいてくれている。

 傍から見たら、確かに変わったと言えるかもしれない。

 ……それにしても、先ほどからレヴィアさんはニクスのことをリトと呼んでいるけど、もしかして、ニクスの本当の名前なのかな?


『頼りない子供が巣でうろちょろしていたから、面倒を見てやっただけのこと。子供、それもドラゴンの子供だ。これを放り出したとあっては、他のドラゴンから何を言われるかわかったもんじゃないだろう』


『まあ、ドラゴンの知り合いがいるのなら、報告くらいはするのが筋だろうね。でも、その後そのドラゴンに任せて、さっさと移動してもよかったはずだよね? 聞くところによると、すでにその子とは十年以上も付き合っているんだろう? そんなに長い時間ではないにしても、今までだったら考えられないことだ』


『生まれたばかりにして、魔法を完全に操ることができるほどの天才だぞ? そんな奴を放っておいたら、いつ寝首を書かれるかもわかったもんじゃない。それに、報告するなら本当の親にしたかったしな。そうしてずるずる先延ばしにしているうちに、今の状態になっただけのことだ』


『ふふ、素直じゃないね。まあ、リトなら、預けるにふさわしいんじゃないかな。リトなら、何があっても守ってくれそうだしね』


『……ふん』


 にやにやとした笑みを浮かべるレヴィアさんに対して、そっぽを向くニクス。

 ドラゴンの子供は、ドラゴンにとってはとても大切なもので、俺のように、生まれた時から独りぼっちだった、なんてことはそうそうない。

 イレギュラーと言う意味では、ニクスの言い分も間違いではないと思うけど、それでも、知り合いの多いニクスなら、他のドラゴンに預けるチャンスなんていくらでもあっただろう。

 それでも自分で面倒を見ると言ってくれたのは、素直に嬉しいし、俺自身、もはやニクス以外を親と見れる気はしない。

 これからも、ずっと一緒にいてくれたら嬉しいな。


『さて、これからどうする? リトの目的は達したのだろう?』


『できれば黒幕についても聞いておきたかったが、その様子じゃ、何も知らないのだろう?』


『まあね。仮に、アーリヤを転生させるとするなら、間違いなく神が関わってはいるだろうけど、神がやるのなら、もっと直接的にやると思うんだ。それこそ、アーリヤを天界から引き戻す、とかね』


『天界は神の領域に近い。わざわざ細工などしなくても、直接呼び出すことも可能というわけか』


『そういうこと。でも、それをせず、わざわざこういう形にしてあるということは、そうできない理由があったんじゃないかなって』


『天界で何か問題でも起こってるのか?』


 もし、アーリヤを復活させることが狙いなのだとするなら、面倒なことをせずとも、そのまま魂を呼び出し、転生させて、復活させることも可能なのだという。

 アーリヤの魂は、生前の行いにより、まず間違いなく天界へと召された。それを、神様が把握していないはずはなく、だからこそ、その気になれば転生など簡単にできると考えているようである。

 確かに、神様の管轄だって言うなら、そう言うこともあるのかもしれない。

 だけど、実際には今の俺のように、記憶はないけど、能力だけ持ったドラゴンが生まれている。

 考えられるとしたら、転生の際に、何かしらのイレギュラーが発生したか、あるいはアーリヤとは全く関係なく、同じような特性を持った子供が生まれてしまったか、ってところだろうか。

 正直、俺はどっちでもいいけど、アーリヤを復活させることによって、再び戦争が起こるようなことは、避けなければならない。

 現状、神様も手を出してこないみたいだし、アーリヤとしての力が悪さをしているということもないみたいだから、このままの状態が続けば一番いいんだけどね。


『そこらへんは知る由はないよ。黒幕が誰なのかも、何が目的なのかもわからないし、相手からのアプローチもない。なら、今は普通に生活するくらいしかないんじゃない?』


『……まあ、調べようにも、何を調べるべきかもわからないしな。世界の情勢は逐一観察するつもりではあるが、今できることはそれくらいか』


『うん。まあ、あんまり気張らずに、普通に過ごしていればいいと思うよ』


『楽観的な……』


 俺がアーリヤの関係者かもしれないとわかったところで、結局は何もできない。

 いつかくるかもしれない、得体のしれない何かのために、ずっと閉じこもっているわけにもいかないし、今の俺にできることは、ただ普通に生活することくらいだ。

 ニクスは少し納得していなさそうだったけど、これに関してはレヴィアさんが正しいと思う。


『……はぁ、まあいい。念のため、何かわかったら知らせよ』


『オッケー。久しぶりに話せて楽しかったよ』


 目的は達したのか、ニクスは塔の外に向かって歩き出す。

 なんか、俺としても、ちょっと新鮮な内容だったね。

 俺が、この世界における英雄みたいな人の生まれ変わりかもしれないなんて、ちょっとロマンがある。

 全然英雄の器じゃないのはあるかもしれないけど、俺もアーリヤのように、困っている人を助けて回っていれば、いつかはそう呼ばれる時も来るだろうか。

 ま、そんなの関係なく、目の前で困っている人がいたら助けるんだろうけどね。

 そんなことを考えながら、海底の塔を後にした。

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