第二百四十六話:生き残った者達
『なるほど、生まれた時から一人で……それは大変だったね。よく生き延びてくれたよ』
それからしばらく、俺やフェルの生い立ちを話す時間が続いた。
俺は、ドラゴンとしては奇妙すぎる生まれ方をしたし、フェルは元人間である。
いずれも、ただの幻獣としてはありえないような生い立ちであり、それはレヴィアさんの心と掴んだようだ。
いや、どちらかというと、心配してくれたと言った方がいいかな。
どうにも、レヴィアさんはとても優しい性格をしているらしい。
俺達が子供だからというのはあるかもしれないけど、決して怒らず、聞きに徹してくれるので、こちらとしても話しやすかった。
最初に感じていた威圧感もすっかりなくなって、本当にお兄さんと話しているかのようである。
イグニスさんが悪いわけではないけど、最初に会ったドラゴンがあんな感じだったから、変に緊張していたのかもしれない。
イグニスさんも、十分優しいんだけどね。
『それにしても、その綺麗な魔力。どこか懐かしい気分になるよ。リト、ただ紹介しに来たわけじゃないってことかな?』
『そうだ。貴様にも知覚できるのなら、やはり無関係ではないのだろう』
『? 何の話?』
『こちらの話だ。白竜の、我は少しこいつと話さなければならん。しばらくの間、その辺で遊んでいろ』
『ああ、それなら彼らを紹介しておこうか。ここのことなら、彼らも詳しいだろうしね』
『彼ら?』
レヴィアさんは、ちらりと視線を逸らす。
すると、柱の陰から、何者かが近寄ってきた。
あれは、人間?
「あー、レヴィア様、この方達は?」
「我の客人である。相手をせよ」
「は、ははっ!」
どうしてこんなところに人間が?
困惑してレヴィアさんの方を見ると、くすりと笑ってこう答えた。
『彼らは、海の洗礼を受けて帰れなかった者達さ。でも、そのまま死なせるのは寝覚めが悪いから、こうしてここに匿っているというわけさ』
『それじゃあ、海に敬意を払わない者に罰を与えるというのは……』
『そうする時もあるけど、単純に運が悪い時もある。彼らは、皆僕のことを信じてくれた人達ばかりだ。悪い人じゃないよ』
町では、海に敬意を払わない者達は、決して戻ってこれないという話だったけど、実際は、こうしてここで匿われていたらしい。
まあ確かに、罰を与えるのが本当だとしても、単純に天候が悪くて戻ってこれなかったというパターンもあるだろうしね。
それこそ、出発前に話した、あの漁師の男のように。
俺とは全く関係ないけど、こうして無事に生き残ってくれていると考えたら、ちょっとほっとした気がした。
『少しの間、彼らと話しておいで。なに、そう時間は取らせないさ』
『わかりました』
わざわざ連れて来ておいて、二人っきりで話すなんてと思わないことはないけど、まあ、ニクスにも何か事情があるんだろう。
単純に、この人達のことも気になるし、交流するのも悪くない。
俺は、人化の術を用いて、人の姿になる。
突然、人の姿になったのを見て、男は驚いた様子だったけど、そう言えば、レヴィアさんは人化はあんまりしないんだったね。
ちょっと悪いことをしてしまったかもしれない。
「え、ええと、先ほどのドラゴンさまで?」
「うん、わたし、るみえーりゅ、よろしく」
「へ、へい……俺はナインディて者です。どうぞよろしく」
ひとまず、ナインディさんの他にも人がいるらしいので、彼らを紹介してもらうことにした。
少し離れて、端の方にあった階段を登っていくと、そこにはいくつかのテーブルが置かれたスペースがある。
雰囲気的には、酒場だろうか?
酒ではないのかもしれないけど、なにやら飲んでいる人もたくさんいるし、俗世から離れているとはいっても、案外普通に暮らせているのかもしれない。
「みんな、この方達はレヴィア様の客人だ! 丁重に扱うように!」
ナインディさんが声を張り上げると、視線が一気にこちらに向く。
俺と一緒に人化したフェルと一緒に、軽く自己紹介をすると、みんな恭しく頭を下げてくれた。
「みんな、どうして、ここに?」
「ああ、それに関しては、それぞれエピソードがありますが、簡単に言えば、海の藻屑になるところを救われたってことです」
レヴィアさんが言っていた通り、ここにいる人達は、大抵が漁師で、漁に行った際に、悪天候に見舞われて転覆し、帰ってこれなかった者達らしい。
本来なら、そのまま死んでしまっていたところを救われたとあって、皆レヴィアさんに感謝しており、こうして海の底で暮らすことにも、慣れてきたのだという。
なんか、随分と逞しいと思うけど、こんなところでどうやって生活しているんだろうか?
ここは大洋のど真ん中だし、交易らしい交易ができるとは思えない。
食料などを確保するだけでも大変だろうに。
「それに関しては、レヴィア様のご加護のおかげです。俺達は、水の中でも息ができるようになったんです」
どうやら、レヴィアさんは、溺れた人々を助けるために、彼らに水の加護を与えたらしい。
その加護のおかげで、水中でも息ができるようになり、そのおかげで、海の中での漁ができるようになったのだとか。
道具に関しても、流れ着いた道具が運よくあったこともあり、特に困ったことはないのだという。
水中でも呼吸ができるって言うのは、確かに強いかもしれないね、
もちろん、それだけじゃ魔物に襲われて大変だろうけど、そこもレヴィアさんが何かしら手を貸していそうだ。
町の暮らしほど便利ではないかもしれないけど、ここも十分豊かなのかもしれない。
「俺達は運が悪かった。でも、それと同時に、運がよかった部分もある。こうして生きているのは、レヴィア様のおかげです」
「さみしく、ない?」
「……まあ、残してきた家族が心配というのはありますが、これも漁師の定め。受け入れるしかできないですよ」
生きているのはいいとして、ずっと帰れないとなれば、残してきた家族が心配な人もいるだろう。
レヴィアさんなら、町に帰すこともできると思うけど、それはしてあげないんだろうか?
まあ、町からは結構離れているし、そう簡単なことではないのかもしれないけど。
……そういえば、こうして漁師達が生き残っているということは、あの男が話していた、船長も無事なんだろうか?
もし生きているのなら、ぜひとも話してみたい。
でも、名前まで聞いてなかったんだよな……。
特徴もわからないけど、聞くだけ聞いてみようか。
俺は、知っている情報を基に、船長について聞いてみることにした。




