第二百三十九話:食料調達
町の上空を飛び回り、時には町の外にまで足を延ばしたりしながら飛び続けることしばし、ようやく朝日が昇ってきた。
久しぶりに徹夜してみたが、案外疲れは少ないように思える。
前世だったら、栄養ドリンクを流し込まなければいけなかっただろうが、これも幻獣の強靭な体のおかげだろう。
フェルも、特段疲れたとは感じていないようで、この調子なら、三日程度徹夜するくらいなら問題はなさそうだと言っていた。
しないに越したことはないけど、できないのと、できるけどしないのでは全然違う。
いざという時は、この感覚を当てにさせてもらおう。
「戻ったか。調子はどうだ?」
「いけそう」
「そうか。まあ、この程度でへばられても困るが」
朝日も昇ったので、人々が起き出す前に宿に戻る。
ニクスはすでに起きていたようで、俺達を出迎えてくれた。
もしかして、ニクスも徹夜してたのかな? もしそうなら、一緒に来ればよかったのに。
「その程度で疲れたとは思えんが、一応今日は早めに寝ておけ。本番に疲れを残すなよ」
「はーい」
「ところで、問題は起こしていないだろうな?」
ぎろりと睨まれて、俺は思わず目をそらした。
いや、別にあれは問題というほど問題ではないとは思うけど、余計なことしたって気持ちはあるからね。
ニクスは、俺のその態度を見て何かを察したのか、呆れたような目でため息をついていた。
「まったく、貴様は大人しくしていることができないのか?」
「ひ、ひとだすけ、だいじ」
「人間がどうなろうと、我らにとっては何の関係もないだろうに。貴様のその考えは理解できんでもないが、あまりに首を突っ込みすぎれば、自分の首を絞める羽目になるぞ」
「だいじょぶ、こっそり、たすけた」
「はぁ……」
そんなに呆れなくても……。
まあ、一歩間違えば姿を見られていたというのはあるかもしれないけど、夜だし、仮に空を見上げていたとしても、シルエットくらいしかわからないだろう。
目に入らない限りは積極的に助けるつもりもないし、あの少年とはこれきりになるはずである。
だから、そんな目で見ないでほしい。
「……まあいい。今日は食料の調達をする。小娘、料理の作り置きの準備をしておけ」
「あ、はい」
そう言って、外に行く準備をするニクス。
今回の旅では、海の上を進むことになるから、基本的にキャンプをすることはできない。
必然、料理もすることは難しいし、基本的には保存食となるだろう。
しかし、俺の亜空間にしまえば、時間の経過を抑えられる。それこそ、作り置きをしておけば、いつでもフェルの料理を食べることができるだろう。
やっぱり、保存食よりは、ちゃんとした料理の方がおいしいしね。モチベーションも大事だ。
「そういえば、さかな、たべる?」
「ああ、そうだね。せっかくだし、食べてみようか」
宿では、朝と夜に食事が出るが、そこでも魚料理が出ることはあるので、一応食べたことはあるのだけど、やっぱり、いろんな料理を食べておきたい。
フェルが魚料理を覚えれば、レパートリーも増えるし、単純に、港町に来たからには、普段食べられないものを食べておきたいというのもある。
今までの食事の九割は肉だったしね。たまには魚もいいだろう。
「臨時の食料になるかもしれんし、魚が食えることに損はない。骨が多いのがちと面倒だが」
「にくすは、さかな、すき?」
「好きでも嫌いでもない。まあ、肉の方が好みではあるが」
「そっか」
ニクスは、これまであまり魚は食べてこなかったらしい。
人化した状態で、町で食べたことはあるみたいだけど、野生の中で、わざわざ魚を取って食べるということはなかったようだ。
まあ、ニクスって水苦手だもんね。
それに、骨が多くてチクチクするのもあまり好きではないみたい。
今なら骨ごと食べるなんてこともできるけど、やっぱりその辺は気になるんだね。
そんな話をしつつ、市場へと繰り出す。
魚料理が作れるなら、魚を買っておいてもいいが、昼まではまだ時間がある。だから、まずは無難な料理の材料を買っておくことになった。
この町では、貿易品が結構あるおかげもあって、珍しいものもあるし、値段もお手頃なものも多い。
保存食の一つだけど、塩漬け肉はちょっと食べてみたいと思った。
「そろそろ昼飯にするか」
「まってた」
いくらか買い物をして時間もいい感じになって来たので、適当な食堂に入って、さっそく魚料理を頼むことにする。
見た限り、魚料理の基本は焼き魚のようだ。
魚を生で食べると、腹を壊すというのが通説らしく、何はともあれ焼けというのが一般常識らしい。
となると、俺が思っていた刺身やら寿司やらはないってことか。
まあ確かに、冷静に考えれば、冷凍殺菌もできないこの世界じゃ生で食べるのは危険かもね。
久しぶりに食べて見たかったが、それはまた今度自分で作るとしよう。
「焼いた魚も美味しいね」
「うん」
元々、魚にはあまり詳しくはないが、どこか懐かしい味のする魚だった。
塩も効いていたし、料理としては悪くないと言ったところ。
これで白米でもあれば完璧だったけど、まあ、いくら珍しいものが売ってるとは言っても流石に出ないよね。
「なんだ、米が欲しいのか? それなら、さっき売ってるのを見かけたが」
「え、ほんと?」
ないと思っていたけど、どうやら存在自体はしているらしい。
旅の中で食べるには向かないけど、個人的に食べる分には手間は惜しまない。
この後、そこに行って買っておくとしよう。
やはり、前世の影響もあって、米は好きだからね。あるなら食べておきたい。
「ふぅ、まんぞく」
魚料理を堪能し、食堂を後にする。
後は、米を買って、宿でキッチンを借りて料理を作れば、準備は粗方整うだろう。
休暇という甘美な響きもあって、今の俺は凄い幸せな気持ちだ。
これで米も食べられるとなったら、最高の気分になれるだろう。
「……ん? あれは」
そんなことを思いながら再び市場に戻ってくると、とある店の前で、見覚えのある少年がいるのが目に入った。
昨日の夜、追手から助けた少年である。
もう会うことはないと思っていたけど、まさかこんなところで会うとは。
ちょっと気になったので、近づいてみることにする。
「なんで!? この花を持って来れば、薬と交換してくれるって話だったじゃないか!」
「だから、その薬はもう売れちまったんだって。最初に言っただろう、早いもん勝ちだってな」
どうやら、店主と揉めているらしい。
話を聞く限り、少年が持っている花と、薬を交換してもらう予定だったみたいだが、店主はそれを待つことなく、その薬を他の誰かに売ってしまったようだ。
ちょっと可哀そう、と思うけど、店側も商売だし、取り置きしてもらっていたわけでもないなら、しょうがないとも言える。
しかし、薬か。どこか悪いところでもあるのかな?
俺は、ちょっと興味を引かれて、少年に話しかけることにした。




