第二百三十七話:海の守り神
翌日。俺達はこの町のシンボルがあるという広場へと訪れることになった。
ニクスの話では、この町は元は小さな漁村だったが、とある幻獣の手を借りることでここまでの規模の町にまで成長したと言っていた。
では、そんな町の発展の立役者である幻獣は今ではどう扱われているのか? その答えが、この広場にあるという。
「これが、この町の発展に寄与した守り神、レヴィアの像だ」
「これが」
そこにあったのは、雄々しいドラゴンの像だった。
この世界の一般的なドラゴンと違い、どちらかというと蛇に近いフォルムをしたその姿は、海原を統べる神として、町の人々に敬愛されているようだ。
なんか、この姿は俺も見覚えがある。
前世でゲームやらアニメやらで何度か見た、水神の姿にそっくりだ。
名前もそれらしいし、多分、似た存在なのは間違いないだろう。
「これも、どらごん、なの?」
「カテゴリー的にはな。人々を海の災害から守る守り神としての一面が強いが、海に敬意を払わない者には、天罰を下す悪神としての側面もある。まあ、それは人間どもが言っているだけで、実際はただの真面目な幻獣だが」
「ふーん」
こうしてドラゴンの姿として像が作られているってことは、そのレヴィアという幻獣は、人の姿ではあまり会わなかったのだろうか?
アーリヤの像のように、人の姿に近いという部分は全くないし、元から人と話すつもりはなかったのかもしれない。
幻獣の歴史を聞いた限りでは、人々は幻獣に無理難題を押し付け、叶えられなければ魔物として敵対したと言っていたけど、言葉も伝えずに、こうして守り神とまで言われているのは、かなり凄いことだと思う。
同時に、ちゃんと敬意を払う人間もいるんだと知れて、少し救われた気分になった。
これまで聞いてきた幻獣の末路は、あまりいいものではなかったからね。
「ニクスさんがルミエールに会わせたい人って、この人ですか?」
「そうだ」
「まだ、いきてる?」
「当たり前だろう。こいつは幻獣にしては珍しく、あまり迫害を受けなかったからな。いや、正確には、手を出せなかったというべきかもしれんが」
レヴィアさんが根城としていたのは、海の先らしく、人々は船で移動している最中に、その姿を目撃したようだ。
そこから、レヴィアさんに対する伝承が生まれ、海の安全を祈願する意味で、慕われたらしい。
その基盤はあまり覆らず、むしろレヴィアさんを軽んじた者は悉く海の藻屑になったことから、海に対する心構えとして、レヴィアさんに敬意を払うことが浸透し、今日まで信仰が続いているというわけだ。
中には、レヴィアさんを邪悪な魔物として討伐しようとした人もいるらしいけど、相手は海に潜んでいるため、必然船を出さなければならず、レヴィアさんにとって、船など容易に粉々にできるものである。
だから、どうにもできなかったんだろうね。
言い方を変えれば、諦めたということかもしれない。
きちんと敬意を払っていれば、無事に帰れるのだから、あえて敵対する必要もない。そういうことだ。
「なんで、あわせたい?」
「貴様のことは、伝えておいた方がいいと思ってな。それに、姿は違うとはいえ、同じドラゴンだ。いい友達になれるかもしれんぞ?」
「ともだち、うーん……」
確かに、ドラゴンは子供には優しいと聞くし、姿は違っても、俺のことを可愛がってくれる可能性はあるだろう。
でも、イグニスさんの時に証明されているように、あまりに格が違いすぎると、親しみより恐怖の方が勝る。
聞く限り、どう考えても強そうな幻獣だし、イグニスさんの時の二の舞になる気がしてならない。
本当に大丈夫だろうか。
「少なくとも、危害を加えてくることはないから安心しろ」
「う、うん」
その後、目的は達したということで、一度宿に戻ってきた。
ここからは、疲れを取るとともに、レヴィアさんに会いに行くための計画を立てることになる。
というのも、今まで日を跨いでの長距離飛行は、あまりしてきたことがなかった。
感覚的に、できると確信はしているけど、俺はともかく、フェルはまだ慣れていない部分も多いだろうし、ペース配分も、人間の時の感覚が抜けていない。
つまり、徹夜で飛び続けるとなると、何らかのアクシデントが起こるとも限らないわけだ。
その対策として考えたのが、変わりばんこに人化して、相手の背中に乗せてもらうという作戦である。
これなら、魔力は消費し続けてしまうけど、背中に乗っている間は休むことができるし、事故も起こりにくいだろう。
最悪、俺とフェルが二人ともダメになっても、慣れているニクスがいれば、海に落ちるということはなくなるはずだ。
ただ、そうならないに越したことはないので、予習はしておくべきだと思う。
「ちょっと心配だし、一回くらい徹夜して見てもいいかもね」
「それがいい」
疲れを取るという目的とは矛盾してしまうが、どうせ何日かはこの町に滞在するつもりなのだ。
町の中であれば、万が一途中で寝てしまっても問題はないし、問題になるようだったらニクスが何とかしてくれる。
徹夜の感覚を掴むためにも、少しくらいはやって見てもいいだろうということになった。
「いい心掛けだ。少なくとも、奴がいる場所まで行くには、三日は飛び続ける必要がある。その程度でへばられても困るからな、慣れておく機会があるなら、それに越したことはないだろう」
「わかりました。では、ちょっと起きる練習をしておきますね」
「わたしも、やる」
そういうわけで、今日から徹夜である。
しかし、ただ徹夜するだけでは、流石に暇だ。
宿には明かりとしてろうそくがそれぞれの部屋に置かれているが、油代もタダじゃない。あまりに使いすぎれば、怒られることになるだろう。
では、真っ暗な部屋の中でただひたすらに起きているのか? そんなの、絶対無理だ。
実際にレヴィアさんに会いに行く際には、空を飛んでいるわけだし、できればその感覚を掴んでおく方がいいだろう。
となると、宿の部屋でじっとしているのではなく、幻獣の姿となって、空を飛んでいた方がいいのかな?
街中で幻獣の姿で飛ぶのは少しリスクがあるけれど、流石に夜に出歩く人はいないだろうし、問題はない気もする。
「あまり騒ぎは起こすなよ」
「だいじょぶ」
ニクスにくぎを刺されたけど、まあ、最悪町の外まで繰り出せばいいし、行ける行ける。
夜を待ち、部屋の窓から抜け出して、空を駆ける。
何度も見た夜空だけど、やはり地上から見上げるのと空から見るのでは違う気がするね。
潮の香りがする風を感じながら、夜の町を飛び回るのだった。




