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幕間:進退の見極め

 アルマ鉱山社の社長、マルジナの視点です。

 古くから存在するアルマ鉱山社。

 かつては、町の主要企業として、採掘に力を入れ、町の財政を潤していたが、今やその影はなく、衰退していく一方だった。

 それもこれも、町長が変わってから起こった、労働者への劣悪な環境の変化である。

 酒場が潰れ、医療サービスが潰れ、鍛冶屋が潰れ、そのくせ要求は以前よりも高く、夜も働け、怪我しても働けと、言いたい放題。

 そりゃ衰退していくというものだ。

 町の財政は、労働者によって支えられているということを理解していない町長には、本当に呆れかえる。

 労働者は畑で採れるとでも思っているのだろうか?

 かつて、町長は親父よりもうまくやれると嘯いていたようだが、まるでダメだと誰もが気付いていた。

 まあ、そんなだから、クーデターを起こされたわけだけだが。


「これで、少しは改善してくれるといいんだがね……」


 圧政を敷いていた町長は引きずりおろされ、代わりにギルドマスターをしていた人物が町長に就任したと聞いた。

 演説は立派だったが、ところどころに現れる、不安な表情は、少し心配になるレベルだった。

 本当に町長が務まるのだろうか? まあ、実際に戦ってくれたことには感謝してるし、志は立派だったから、少しは期待してもいいのかもしれないが。


「とりあえず、嘆願書でも出してみるか」


 町長が変わったのなら、今まで通らなかった要求も通るかもしれない。

 そう思って、いくつかの改善案を送ることにした。

 この町の産業は、大半が鉱山採掘と、そこから生産された金属製品である。

 一次産業はあまり重要視されないこともあるが、むしろ、最も重要なのがここだろう。

 町長がまともなら、これを理解し、すぐにでも解決してくれる。

 そう思っていたのだが……。


「なるべく早く実現する、か。どこまで信じられるものか……」


 しばらくして返ってきた町長の返答は、そんな感じだった。

 なんとも曖昧で、頼りない言葉である。

 もちろん、検討してくれるだけましになったと言えばそうだけど、今や採掘業は、風前の灯火レベルまで弱っている。

 なにせ、労働者がいないからな。

 ただでさえ、採掘は危険な作業で、怪我人や病人も出やすいというのに、魔物の駆除すらしてくれなかった今までの環境のせいで、労働者は激減している。

 今働いているのは、昔からアルマ鉱山社に勤めてくれている古株くらいだ。

 新人はとうにおらず、入ってもすぐに逃げていくだけ。

 とてもじゃないけど、待つ時間などない。

 せめて、気持ちよく働ける環境と、危険に見合うだけの給金が約束できなければ、アルマ鉱山社が衰退する道から外れることはないだろう。


「あ、社長、お疲れっす」


「マルコスか。今日のノルマはどうだった?」


「当然、間に合わないっすよ。まあ、今はノルマを気にしなくても、怒られることはないっすけど」


「あ、ああ、そうか。もうノルマを気にする必要はないんだったな」


 以前は、町の方から、一日にこれだけ採掘しろと、命令が出ていた。

 もちろん、普通は達成できないような、とんでもない量を。

 すべての社員が万全の状態で、昼夜問わず採掘を続ければ行けるかもしれないが、当然そんな余裕があるはずもなく、いつも町長から怒られていたことを思い出す。

 そうか、あれがなくなったと考えるだけでも、少しは気が楽になるかもしれない。

 まあ、別にノルマを撤回した、という話は来ていないが、今の町長がそんなノルマを課すとも思えないし、嘆願書にも書いておいたから、きっと受け入れられたと思う。


「社長、このまま、この町で根を降ろし続けるってことでいいんすか?」


「それについては、まだ答えが出ていない……」


 アルマ鉱山社の財政は、火の車となっている。

 新人もおらず、今の社員達がやめてしまえば、もはや存続することすら不可能だろう。

 以前の劣悪な環境もあり、イメージも最悪である。

 仮に、町長が変わって環境が改善されていくとしても、新人が入ってくるかどうかはかなりの賭けだ。

 であるなら、そんな最悪なイメージを持たない他の町に移住し、そこで再起を図るというのも、一つの手である。

 俺は、親から継いだこの会社を誇りに思っているし、昔から務めてくれている社員を見殺しにすることなどできない。

 働いてくれるからには、それに見合う報酬を用意するのが当たり前であり、いざという時は、その報酬を用意するために、町を捨てる必要もあるかもしれない。

 今は、まさにギリギリの状態。このまま町に居残り続けるか、それともさっさと見限って別の町に行くのか、その答えは、出せていない。


「俺はどうあれ、社長についていくつもりっすけど、今の町長、期待できると思うっすか?」


「それだ。確かに志は立派だし、実際にクーデターを成功させた実績もある。だが、あの演説を見るとな……」


「社長が同じこと思ってるようで安心したっす」


 仮に、今の町長がまともで、あの嘆願書への返答も事実だとしよう。

 では、その金はどこから出るのかという話だ。

 今、町の財政はかなりひっ迫している。

 一応、引きずり降ろされた町長が溜め込んでいた隠し財産があるから、それを使って立て直すという話は上がっていたようだが、それだって無限ではない。

 労働者に対するサービスを充実させたはいいが、金がなくなって以前に戻りましたじゃ困るわけだ。

 もちろん、サービスが充実すれば、採掘量も上がるはずだし、財政は徐々に回復していくだろう。

 だが、それまで町の財政が持つかどうか。

 うまく改善できれば、このままでも大丈夫かもしれないが、下手をしたら、回復する前に会社が潰れることになる。

 見極めを間違えれば、会社が終わると考えると、かなりの賭けなのだ。

 まあ、かといって町を捨てて別の町に移住するって言うのも賭けではあるだがね。

 同じ賭けなら、確率の高い方に賭けたい。

 今の町長の演説は、どちらに転ぶかわからないから質が悪いのだ。


「いっそ、別の事業に手を出してみるのはどうっす?」


「別の事業?」


「南区画の連中とも、少しは打ち解けれる雰囲気になって来たし、店でも開くのはどうかなって」


「直営店という奴か。まあ、ありかもしれんが……」


 一応、アルマ鉱山社は、鍛冶に関する知識も持ってはいる。

 細かな加工はともかく、インゴットにするくらいなら、設備さえ用意できればできるだろう。

 別の層を開拓するという意味では、新たな事業もありかもしれないが、結局、問題は金である。

 せめて、少しでも業績が上向いてくれたら、考えられるのだが。


「ま、社長がやりたいようにやればいいっすよ。俺はついていくだけなんで」


「ありがとな、マルコス」


 マルコスは割といい加減な奴ではあるが、義理は通す。

 古くから、アルマ鉱山社に勤めてくれているのがその証拠だ。

 どう転ぶかはわからないが、ひとまずは様子を見るしかないだろうな。

 見極めは重要だが、見極める時期も考えなくてはならない。

 今はまだ、ぎりぎり耐えている。それが回復しきれないくらいになる前に、結論を出すとしよう。

 私は優秀な社員を持ったことを誇りに思いつつ、今の町長に期待するのだった。

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