幕間:新しい町長
町のギルドマスターの視点です。
つい先日、この町では悲願だったクーデターを成功させた。
圧政を敷く町長を引きずり下ろし、適切な沙汰を下して、新たな町長を立てる。
これを目標に、レジスタンス達は日々活動していたわけだが、それがようやく報われた形だ。
町長は捕縛され、町に巣くっていた反対勢力も黙らせ、後はよりよい街になるように、次なる町長を決める必要がある。
ただ、それが結構な難題だということを、この時ようやく思い知った。
「まさか、断られるとは……」
今回のクーデターには、一人の立役者がいた。
少し前に、ふらりと町にやって来て、町の隠し通路を暴いたり、町長の隠し玉である、殺人機械を黙らせたり、この人いなくては成り立たないという活躍をした人物。
Bランク冒険者、フェルミリアさんである。
初めは、ダメ元で頼んでみただけだったが、高ランクであるにもかかわらず、フェルミリアさんはとても優しい方だった。
報酬などないも同然のアルマ鉱山社の依頼を受けてくれたのもそうだが、手を貸さないと言いつつも、大事なところでは手を貸してくれて、本当に助かったのを覚えている。
これは、精一杯のお礼をしなければならないと、レジスタンスの幹部らとともに話し合った結果、彼女を町長にしてはどうかという話が持ち上がった。
町の町長ともなれば、その地位は確たるものだし、お金という意味でも、給料は破格だ。
流れの冒険者として活動している以上は、そこまで裕福でもないだろうし、冒険者という安定しない職業よりは、一つの町の町長など、かなり破格の待遇である。
なにより、なんだかんだと手を貸してくれた以上は、この町のことを気に入ってくれている証でもあるし、当然受けてくれると思っていた。
しかし、結果はノーだった。
一体何が悪かったのだろうか? 確かに、迷惑をかけたのは確かだが、それに見合うだけの報酬だったはずだ。
それとも、横から絡んできたあの冒険者のせいだろうか?
フェルミリアさんの保護者のようだったが、保護者が許可をしなかったから受けるわけにはいかないと考えたのだろうか。
もしそうだとしたら、もっと食い下がればワンチャンあったかもしれない。
まあ、結局受け入れてもらえずに、今はもうこの町に彼女はいないわけだが。
「結局、町長はどうします?」
「うーむ……」
最有力の町長候補がいなくなったことにより、話し合いは暗礁に乗り上げた。
もちろん、レジスタンスの幹部の中から、町長を立てるという手もある。それこそ、俺自身が町長にという話も上がっていた。
しかし、この町にはまだ問題が山積みである。
北区画と南区画の確執問題もあるし、劣悪な労働環境の改善もある。
いくら補佐を用意するとは言っても、これをやるのは一筋縄ではいかない。
簡単に言えば、自信がないのだ。
あの町長よりはましな自信はあるが、かといって完璧な町長になれる自信はない。だからこそ、誰も町長に立候補しないのである。
「領主様への説明も必要ですし、裁判もあります。早めに決めないと……」
「わかっている。わかっているが……」
やることは山積み状態。ここで立ち止まっている暇などない。
町長さえ捕まえれば、後はどうにでもなると考えていたが、案外、どうにもならないものだ。
このまま話をしていても、埒が明かないだろう。何か、突破口になるものでもあるといいんだが。
「……このまま話し合いをしても無駄でしょうし、ここは一つ、多数決で決めるというのは?」
「それぞれが町長にふさわしい人物を選ぶということか。それなら、悪くないかもしれん」
話し合いで決まらない以上、そうした方が手っ取り早い。
私を含め、幹部達も合意したことで、誰が町長にふさわしいかどうかの選挙が行われることになった。
そうして、開票。その結果は、なぜか俺が一位だった。
「な、なぜだ……」
「まあ、一番熱心に活動していましたし、当然の結果かと」
評価の基準としては、ギルドマスターという、本来なら中立を貫かなければならない立場だったにもかかわらず、町のために行動してくれたことらしい。
確かに、もしこのことが露見すれば、ギルドマスターとしての職は続けられなかっただろうし、町を救いたいという覚悟はあった方だろう。
それに、前町長とも面識があり、その志を知っているというのもポイントだったようだ。
今のような圧政を敷くものではなく、それぞれの区画の人々が、手を取り合えるような、そんな町を目指す。
言われてみれば、確かにと思う部分もあるが、俺としては誰かにやってもらいたかった。
俺に、町を立て直すことなどできるのか? 自信がない。
「大丈夫ですよ。私達も補佐しますし、町を良くしたいという気持ちは皆一緒です。すべての人が笑顔になれるような、そんな町を目指して、頑張っていきましょう?」
「う、うーん……逃げたい気持ちもあるが、それは町を見捨てるということ。それだけは、できない……」
結局、みんなにも押し切られて、俺が町長をすることになった。
もしかしたら、フェルミリアさんはこうなることを想定していたのかもしれない。
もし、町長になれば、期待されるのは間違いない。
町を真に愛し、立て直す気力があるのなら、その期待に応えようと頑張れるのかもしれないが、フェルミリアさんはあくまで流れの冒険者。
町に愛着はあったかもしれないが、その期待を背負うには、覚悟が足りなかったのかもしれない。
それこそ、自信がなかった、という奴だ。俺と同じように。
そう考えると、靡かなかったのも頷ける。
権力や報酬よりも、自由を取る。冒険者らしいと言えばらしいかもしれないな。
「さあ、新町長、やることは山積みですよ。張り切っていきましょう」
「う、うむ。まずは就任式をしなければな。それから……」
なってしまったからには、頑張らざるを得ない。
俺は、みんなの手を借りながら、準備を進めることにする。
そう言えば、俺が町長となるからには、ギルドマスターの後任を決めておかなければならないな。
こんな形でギルドマスターから退くとは思っていなかったが、ある意味で、幸福なことだったのかもしれない。
俺は、不安を感じつつも、町のために頑張る覚悟を決めた。




