幕間:確認すべきこと
主人公の保護者、ニクスの視点です。
白竜のと小娘を置いて、我はあることを確かめるために、翼を広げていた。
あることというのは、もちろん白竜ののことについてである。
先の村で、アーリヤの像を見て、白竜のは懐かしいと言っていた。
古くから存在する幻獣達ならば、アーリヤに会ったことがある者も多いし、失われてからしばらく経った今、その像を見て懐かしいと感じることはあるかもしれないが、白竜のは、生まれてまだ間もない。
当然ながら、アーリヤの生きていた時代を経験したわけではないはずだし、懐かしいなどという感情が生まれるはずはない。
もし、何らかの原因でアーリヤのことを懐かしいと思うとしたら、それは白竜のが、何かしらアーリヤと関係しているということに他ならないだろう。
神の策略か、それとも遠い記憶の欠片が残っているのか、いずれにしても、以前懸念していた問題は、そう間違ってはいなさそうだと感じた。
『問題は、なぜ今になってこの世界に呼び出したのか、だな』
アーリヤに干渉している以上、白竜のを呼び出した黒幕は、アーリヤと同じ働きを期待しているだろう。
いや、同じかどうかはわからないが、アーリヤに望まれることなど、人々の救済くらいしか思いつかない。
あるいは、もっと傲慢な考えなら、アーリヤを自分のものにしたいがために、呼び出した、とかもあるかもしれないが、そんなことができるとしたら、神くらいなものである。
もちろん、神が黒幕の可能性も十分あるが、今はまだどこかの誰かが呼び出した可能性もなくはない。
それを確かめるためにも、まずは状況を確認したいのだ。
『見つけた。おい、そこのハーピー、ちょっと面を貸せ』
適当なところでハーピーを捕まえる。
別に、ハーピー自体に用事があるわけではないが、ハーピーを通じて、ある人物に話を聞くのが目的だ。
事情を説明し、繋いでもらう。しばらくして、返答があった。
『こんなに短い期間で話しかけてくるなんて珍しいわね。どうかした?』
『シリル、悪いが急いで確認したいことがあってな。そこらのハーピーから連絡させてもらったぞ』
『確認したいこと? 何かあったの?』
『ああ、実は……』
相手は、シリルである。
シリルは、各地に散らばらせているハーピーの声を聞くことができ、また自分の声をハーピーに伝えることができる。
それを利用すれば、こうして離れていても会話をすることができるというわけだ。
直接会いに行くには、それなりに離れてしまったからな。こうして、遠距離で連絡する手段があるのは楽でいい。
我はシリルに、白竜のの反応について説明した。
『なるほど、アーリヤの像を見て、懐かしいと感じたと。その上、アーリヤと同じくほぼすべての属性を使いこなすことができる。何か関係があるんじゃないかと疑うのは当然のことね』
『ああ。そして、アーリヤ関連で呼び出した以上は、何かをさせたいのは明白。貴様には、その何かがわかるか?』
『うーん、再び神の遣いとして、人々を助けてほしいとか?』
どうやら、シリルも大体同じ考えのようだ。
神の遣いという概念が消え失せた今、人々は自分の力のみで前に進まなければならなくなった。
その結果、人々の歴史は、大きく衰退したと言ってもいい。
一応、転移者などの手によって、一部は高度に進んでいる場所もあるが、そんなのは一握り。一般的な技術などは、数百年前のあの日から、そう進んではいない。
そんな人々を導き、手助けする存在が必要になったと考えれば、まず最初に復活させるべき神の遣いは、アーリヤで間違いないだろう。
『問題なのは、なぜ今になってなのかだ。ここ最近、世界に大きな動きはあったか?』
『いいえ? ハーピー達が見てきた範囲では、大きな変化は起きてないわ。人々は、私達がいなくても、きちんと生活できている。あえて神の遣いを復活させる必要はないように思えるけど』
これが、世界を揺るがすような大きな事件が起きているというのなら、神が地上に干渉するために、復活を企てたとしても違和感はない。
だが、それにしては白竜のは雑に森の中に放置されていたし、神が介入したにしては、おかしな部分もある。
しかし、白竜のは、元は別世界の住人であり、ドラゴンとして転生したと言っていた。
であるなら、神が介入したこと自体は間違ってはいないのかもしれない。
どうにも、一筋縄ではない気がする。
『もし、白竜のが、神の遣いとして呼び出されたのだとしたら、何としても止めなくてはならない』
『そうね。アーリヤの二の舞になることだけは、避けないといけないでしょうね』
理由はどうあれ、白竜のは何も知らずにこの世界に降り立った。
そんな無垢な子供に、神の遣いとしての責務を負わせるなど、あってはならないことである。
黒幕が神だろうが、人だろうが、それはゆるぎない事実だ。
もし、それを強行する奴がいるのだとしたら、絶対に止めなくてはならない。
『でも、あの白竜は、どう動くかしらね』
『どう、とは?』
『前に話を聞いた時に思ったけど、その子は人間にとても友好的なのでしょう? もし、神の遣いとしての責務を逃れられたとしても、その性格は変えられない。きっと、困っている人がいたら、助けてしまうと思うわ』
『……それも問題だな』
確かに、白竜のなら、誰か困っていたら迷わず助けるだろう。
一応、問題は起こすなと言い含めておいたが、それを素直に聞くとは思ってない。きっと、このくらいは大丈夫だろうとちょっと手を貸して、そのままずぶずぶと深みにはまっていくのが落ちだ。
別に、人助け自体は悪いことではないと思うが、今回の件は、それこそが黒幕の狙いな気がする。
そう考えると、あまりに白竜のに好き勝手させ続けるのは、問題なのだろうか。
『いっそ、人気のないところに匿っておくのが無難か?』
『嫌われてもいいならそれもありなんじゃない?』
『……嫌われたくはないな』
『ふふ、リトがそうやって悩むのは、なかなかに新鮮ね』
『からかうな。我は真剣だ』
白竜のを利用されたくはないが、その結果として白竜のの自由が失われるようなことにはなって欲しくない。
せっかく、幻獣の試練まで突破して、番まで得たのに、自由に生きられなければ可哀そうだ。
白竜のも言っていた、世界を見て回って見たいと。
ならば、我はそれを叶えるのが役目。
もし、白竜のが黒幕に利用されるというのなら、その時は我が盾となればいい。
少なくとも、妙な力に目覚めでもしない限りは、問題は起こらないはずだ。
『まあ、白竜に関してはリトに任せるけど、私も、ハーピーを通じて世界の情勢を見ておくわ。場合によっては、ユグドラシルにも協力を仰いでもいいかもね』
『そうしてくれ。脅威から身を守るという意味でも、白竜のはまだ未熟だ。旅を経て、それを撥ね退けられるくらい強くなってもらう必要もあるし、まだ大きな問題は起こってない以上、下手に動くこともできないしな』
今のところ、感じているのは、白竜のがアーリヤの関係者であるということくらい。
それを利用する輩がいるのは確かだろうが、今のところ、そいつらからのアプローチは何もない。
であるなら、今のうちに白竜のには強くなってもらい、自分の身を守れるようになってもらうのがいいだろう。
我も守るつもりはあるが、力があるに越したことはないからな。
『一番いいのは、このまま何事もなく終わることだがな』
ないとは思いつつも、そう考えずにはいられない。
我は、白竜のの顔を思い浮かべながら、念のため自分でも各地の情報を集めることにした。




