第二百三十五話:次なる目的地
「こんな奴に付き合ってられん。おい、行くぞ」
「なっ、待ちなさい! フェル殿はこの町の町長に……」
「いや、やりませんからね?」
収拾がつかなくなってきたのを察したのか、フェルはため息交じりにそう答えた。
ギルドマスターは、まさか断られるとは思わなかったという顔をしている。
いや、誰でも断ると思うよ?
「な、なぜ? 君は、困っている人がいたら助けてくれるものかと……」
「そりゃ助ける時もありますけど、町長にはなりたくないです。そう言うのは、そちらで何とかしてください」
「う、ううむ……」
フェルにはっきり言われて、口をつぐむギルドマスター。
せめて、この町に住んでいて、この町を変えたいと心の底から願ったレジスタンス達ならその話をしてもいいかもしれないけど、流れの冒険者であるフェルにする話じゃないよね。
というか、やっぱりこの人は、こっちのことを舐めてると思う。
口では謙虚に言うけれど、こっちがお人好しと見るや、どうせやってくれるだろうと勝手に期待している感じがする。
それに乗ってしまった俺達にも責任があるかもしれないけど、やるべきことはこちらが決める権利があるし、断られたからと言ってそんなに落ち込むのは、もはやリスクヘッジもできない馬鹿である。
「ぼやぼやするな、行くぞ」
「あ、はい」
その後、急いでチェックアウトした後、この町を後にすることになった。
ギルドマスターからは、何度も考え直してほしいと泣きつかれたけど、そこまでする義理はない。
というか、本当に冒険者の仕事ではないから、他を当たって欲しい。
町を離れた後、人目がつかなくなってきたタイミングでドラゴンの姿となり、飛び立つ。
やれやれ、妙なことに首を突っ込んでしまったものだ。
『白竜の、あれほど問題事を起こすなと言ったのに、なぜ守れない? 我が離れてから、そんなに時間は経ってないはずだが?』
『それに関しては誠に申し訳なく思っています……』
道中、同じく幻獣の姿へと戻ったニクスに説教を食らう。
でも、俺の性格的に、困っている人が目の前にいたら、ついつい助けたくなってしまう。
これでも、深いところまでは入らないように自重していたつもりだけど、結局あんな話をされてしまった以上は、突っ込みすぎだったんだろう。
反省はするが、次にあのようなことがあったら、また首を突っ込むと思う。
これは、俺の本能みたいなものだから仕方ないと思うんだよね。
『はぁ……貴様も貴様だ、小娘。なぜしっかり見張らない』
『すいません、ルミエールが頑張る姿を見ると、つい手を貸したくなってしまって……』
『我はおちおち貴様らと離れることもできんのか? 確かにまだ子供ではあるが、少しは自立することを考えたらどうだ?』
『おっしゃる通りです……』
まあでも、今回の事件のおかげで、面白いことも知れた。
特に気になったのは、町長が使っていた、あの自立機械である。
設計図も見せてもらったが、文字からして、あれは間違いなく前世の人間が関わっているだろう。
それが転移者なのか転生者なのかはわからないけど、この世界でも、ああいうものを作れるんだという可能性は感じたし、どこかのタイミングでそう言う進んだ技術というものを見てみたい気持ちになった。
世界には、まだまだ知らないことがたくさんある。旅をする過程で、そう言った面白いことを知れたら、意味はあるんじゃないかと思うんだよね。
『と、ところで、ニクスはどこへ行ってたの?』
『む、まあ、大した用事ではない。ちょっと気になることがあったから、確認しに行っただけだ』
『気になること?』
話をそらすために聞いてみたけど、ニクスが気になることって何だろう?
『貴様は気にしなくてもいいことだ。それより、次にどこへ行くか決めたぞ』
『おお、どこに行くの?』
『貴様に会わせたい奴がいる。そいつの下に会いに行こう』
『会わせた人?』
一応、ニクスは知り合いがたくさんいるらしいし、紹介したい人がいてもおかしくはないけど、でもどちらかというとニクスは群れない性格だし、わざわざ会いに行くのは珍しい気もする。
その人も幻獣なんだろうか。それとも、大穴で人間の可能性も?
いずれにしても、ちょっと面白そうだ。
『詳細は着いてから教えてやる。今はとにかくついてくればいい』
『わかったー』
気にはなるけど、楽しみは取っておいた方がいいだろう。
うまい具合に話もそらせたし、これで怒られる心配もない。
ひとまず、脅威は去ったとみて、ほっと息をついた。
『そう言えば、きちんと大人しくできていたら褒美をやろうと思っていたのだが、この分だと必要なさそうだな』
『え、ご褒美?』
『例の村で貰った酒だ。大層気に入っていたようだから、貰って来たやったのだが、残念だがこれは我が飲むことにしよう』
『ちょ、ちょっと待って!』
見せびらかすように取り出した酒を見て、俺は思わず待ったをかけた。
お酒に関しては、かなり気に入っている。それこそ、二日酔いになるのに気が付かないレベルで飲んでいたほどだ。
前世でも結構好きだったし、あの味はなかなか忘れることはできない。
残念ながら、この世界では俺は下戸のようだけど、それでも飲めないわけではないし、貰えるなら貰っておきたい。
もちろん、酒を飲むだけなら、他の町でも飲む機会はあるかもしれないが、この姿だと、頼むのは気が引けるし、フェルからも止められる。
幻獣の姿でようやく、その警戒が緩むから、町では飲む機会が全然ないのだ。
目の色変えるほどではないけど、欲しくないかと言われたら欲しいに決まっている。
『な、何をしたら譲ってくれますか?』
『これはもう我が飲むと決めた。貴様には一滴もやらん』
『そ、そんなぁ! せめて一口だけでも!』
『ダメだ。これは貴様への罰でもある。許すわけがなかろう』
『うー!』
そうして、空中で押し問答を繰り返しながら、時は過ぎていく。
結局、貰えることはなかったけど、フェルはまた苦しまなくて済むんだからと何とか俺を諭してくれた。
仕方ない、もっと人化の術を極めて、大人の姿になれるようになれば、堂々とお酒を飲むこともできるはずだ。
今は、成長を期待するしかない。
俺は、酒を飲むニクスの姿を羨ましく見つめながら、心に誓った。
今回で第八章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第九章に続きます。




