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第二百三十四話:保護者の帰還

 その翌日。外が騒がしいと思って外に出てみると、そこには見覚えのある人物が受付と揉めていた。

 いや、そろそろ来るんじゃないかとは思っていたけど、こんなドンピシャなタイミングで来るとは。


「だから、この宿に小娘と子供が泊っているだろうと聞いている。我はその保護者だ、さっさと通せ」


「そう言われて、はいそうですかと通すわけにはまいりません。暴れるようでしたら、どうかお引き取りを」


「誰が暴れるのだ。それが望みなら、本当に暴れてやってもいいが?」


「その時は、警備隊を呼ぶだけです。どうかお引き取りを」


「はぁ、これだから宿の連中は面倒なのだ」


 ため息をつくニクスと、目が合った。

 ニクスはジト目でこちらを睨みつけ、無言でこっちにこいと圧をかけてくる。

 あんまり不機嫌なタイミングで行きたくないんだけど、仕方ないか。


「にくす、おかえり」


「ああ、戻った。ほれ、この通り我はこ奴らの保護者だ。これで文句はあるまい」


「本当に保護者なのですか? ……それは大変失礼しました」


 受付さんは、そう言って深々と頭を下げた。

 何があったかは知らないけど、収まったならよかったのかな?

 そのまま、ニクスは俺とフェルを連れて、外へと出る。

 そして、不機嫌そうな顔でこちらを見下ろしてきた。


「な、なに、あった?」


「貴様らの気配を追ってこの町に来たはいいが、なにやら騒ぎが起きているようじゃないか。これは問いたださなければならんと思って、ここに来たら我のことを暗殺者呼ばわりして通さんときた。今までにも、守秘義務だなんだと宿屋で揉め事はいくつか経験してきたが、こんな言いがかりをされたのは初めてだぞ」


「あんさつしゃ……なるほど」


 それは多分、フェルを狙ってのことなんじゃないかなぁ。

 フェルは今回のクーデターの立役者だし、フェルにその気はなくても、今後この町の重役に着かされる可能性もある。

 それを嫌った誰かが、暗殺者をよこしたと考えれば、確かに辻褄は合うかもね。

 まあ、実際には町長はすでに捕まっていて、味方もいない状態だし、ギルドマスターがまとめているレジスタンスがそう簡単に裏切るとも思えないけど。

 多分、町としては噂が噂を呼び、いろんな憶測が流れてるってことなんだろうね。

 だとしても、正面から会いに来る暗殺者はなかなかいないと思うけど。


「貴様、何かやったな? 正直に吐け」


「な、なにもしてないよー?」


「とぼけるつもりか? 本当に何も知らないならいいが、町で聞いて回れば何があったかはすぐにわかると思うが」


「……ごめんなさい」


 ワンチャン誤魔化せないかなと思ったけど、そんな生ぬるくはないようだ。

 俺は、これまであった出来事を簡単に説明する。

 アルマ鉱山社に対することは、一応依頼ということで見逃されたけど、その後のレジスタンスに協力する流れは、完全に呆れ顔だった。

 特に、自立機械を倒したことに関しては、手で顔を覆って落胆するほどである。

 そ、そんなに呆れなくても……。


「我は問題を起こすなと言ったはずだが、貴様の耳は飾りか?」


「ぜ、ぜんしょ、した」


「まあ、貴様のことだ。何もせずとも、向こうから問題がやって来て、それを放置できないってことになるとは思っていた」


 深いため息をつくニクス。

 予想はしていたようだけど、ここまで綺麗にはまると、もはや笑いがこみあげてくるようで、静かに笑っていた。

 で、でも、確かに問題に首を突っ込んだとはいえ、これでも自重はした方だ。

 いつもだったら、直接町長を捕らえていてもおかしくなかったところを、基本的にあちらに任せてたんだから、俺は頑張ったと思う。


「まあいい。面倒事に首を突っ込んだのはマイナスだが、すぐに町を離れればどうということはない。さっさと出発するぞ」


「う、うん」


「フェル殿、ここにいたか!」


 町を発つなら、とりあえずチェックアウトしなければと思い、宿へ戻ろうとすると、そのタイミングでギルドマスターが走ってくるのが見えた。

 その瞬間、ニクスがまた深いため息をつく。

 い、いや、まだ面倒事じゃない可能性もあるじゃん……。


「どうしたんですか?」


「実は、君に折り入って頼みたいことがあってな」


 そう言って、ギルドマスターは用件を話し出す。

 現在、町長の裁判のために色々準備が進められているわけだが、それが終わった後、町を支えるべき人材をどうするのかという話が議題に上がったようだ。

 代わりの町長はもちろん、今度はやらかさないように、それを支える側近なども必要になるため、その人選はどうするべきかという話である。

 基本的には、レジスタンスの幹部の中から選ぶことになると思うが、今回のクーデターを成功させるにあたり、外せない人物がいた。

 そう、フェルである。

 フェルの活躍なくして、クーデターは成しえなかった。であるなら、フェルには何かしらの報酬が支払われるべきであり、それをどうしようか考えた結果、一つの結論に至った。

 それは……。


「フェル君、どうか君にこの町の町長になってもらいたい」


「はぁ?」


 普段は冷静なフェルも、これには思わず意味がわからないと言った反応を見せた。

 いや、わかるよ。フェルがいなければ負けていたのは確かだろうし、フェルに報酬を払うべきというのは間違っていないと思う。

 でもそれは、臨時で戦った冒険者としての、最低限の金銭とかであり、重役につけられても困るだけだ。

 お礼の意味をわかってるんだろうか?


「町長となれば、少なくない給料が保障される。特に、町長は少なくない金額を溜め込んでいたようだ。それを使えば、町の復興のみならず、君の懐も潤うことになるだろう」


「でも私、流れの冒険者ですよ?」


「その通り。だが、君はそっけない態度を取りながらも、この町の解放に尽力してくれた。それはすなわち、この町のことが好きだということだと考えている。君の手で、この町をより豊かな町に作り替えて見ないか?」


「……」


 恐らく、ギルドマスターからしたら、精一杯のお礼のつもりなんだろう。

 確かに、ただの冒険者が、いきなり町の町長という大きな権力をちらつかされたら、頷く人もいるのかもしれない。

 でも、フェルはそんな権力には興味ないだろうし、あったとしても今は旅をしている身、受け入れることはできない。


「……はぁ、呆れてももの言えん。貴様、本当に何をやっていたのだ?」


「す、すいません……」


「む、なんですかあなたは。町の解放の英雄、フェル殿になにか?」


 ギルドマスターは、呆れ顔をするニクスに対し、少し強い口調で声をかける。

 今は大事な話をしているから、邪魔をしないで貰いたいって顔だな。

 でも、こちらとしては、邪魔しているのはギルドマスターの方であり、報酬に見せかけた面倒事を押し付けられそうになっているだけである。

 というか、いくら活躍したとは言っても、町長となるのはこの町の人じゃなきゃダメだろう。

 いくら愛があると言っても、それは単なる同情の気持ちだし、町を本気でよくしたいと考えるなら、それこそギルドマスターがつけばいいと思う。

 元から面倒そうな人とは思っていたけど、報酬の意味をはき違えないでほしい。


「こんな小娘を英雄呼ばわりしている暇があったら、貴様ら自身が身を引き締めろ。何を言っているのかわかっているのか?」


「なにを……私はただ、解放の英雄であるフェル殿に、最高の栄誉を与えようと……」


「この小娘にそんなものは不要だ。そもそも、解放の英雄だか何だか知らないが、この町の住人ですらない小娘に町長の座を譲るなど、新たな崩壊を招くだけだろう。詳しいことは知らんが、この町は以前の町長のせいで大層な目に遭わされたのだろう? 同じ過ちを繰り返す気か?」


「なっ!? フェル殿はそのようなことはしない! あまり愚弄するのはやめていただきたい!」


「本気で言っているのだとしたら病気だな。貴様のやっていることは、単なる押し付けだ」


 バチバチと視線が交差する。

 ニクスの言っていることはもっともだけど、このままだと喧嘩になりそうだな。

 そうなったら、ギルドマスターがどんな酷い目に遭うかわからない。どうにか穏便に納めなくては。

 俺は、どう宥めようかと、両者を見ながら思案した。

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