第二百三十三話:刹那の決着
フェルは、心得たと言わんばかりに、素早く自立機械に近寄り、その足を破壊した。
フェルの剣は、そんなにいいものではないけど、魔法の力と、幻獣の力が加われば、鉄を斬ることくらい造作もない。
足場を失い、仰向けにひっくり返った自立機械は、空に向かって銃弾を吐き出し続け、やがて止まった。
完全に壊れてはいないだろうけど、無駄弾は撃たないようだ。結構性能がいいのかもしれない。
「なっ!? 貴様、どうやって……」
「戦う気はなかったんですけどね、攻撃されちゃうのなら仕方ないです」
フェルは、そのままの流れで、町長を後ろ手に捻り上げた。
そのまま地面に押し付けられた町長は、カエルが潰れたような声を上げる。
あっけない結末に、ギルドマスターを始めとした人々は、ぽかんと口を開けていた。
「は、放せ! 私を誰だと思っている!?」
「あなたが何者だろうと、私には関係ありません。ルミエールを傷つけようとした時点で、敵ですから」
そう言って、フェルはギルドマスターを呼び立てる。
自立機械も止まった今、もはや邪魔するものは何もない。
ギルドマスターは、何とか正気を取り戻し、数人の冒険者を伴って近づいていった。
「驚いたな、まさかこんなにあっさりと捕縛してしまうとは……」
「まあ、このくらいならどうってことはないです。後のことは任せても?」
「あ、ああ、任せてくれ。こいつは、俺達が責任をもって処罰する」
冒険者に命じて、町長は縄で縛られた。
呆けていた私兵達が、後から町長を助けようと動き出したが、フェルが威嚇すると、すぐに引っ込んだ。
まあ、幻獣としての力を少し威嚇に回してやれば、大抵の人間は太刀打ちできない。
普段は抑えているから問題ないけれど、抑えなかったらまともに町は歩けないだろうね。
「結局助けちゃったけど、あれでよかったのかな」
「みすてる、できない」
「まあ、それはそうなんだけどね」
後のことをギルドマスターたちに任せ、俺達はそうそうにその場を離脱した。
町長が捕らえられた今、レジスタンス達のクーデターは八割方成功したと言っていいだろう。
後は、しかるべき証拠を持って、しかるべき裁きを下し、新たな町長を立てるだけである。
まあ、そこが一番大変なのかもしれないけどね。
南区画の住民達も、不満は持っていたようだし、裁判自体は何とか出来るかもしれないけど、それも金を積まれて罪を軽くされたりする可能性はあるし、それがうまく行ったとしても、誰が新たな町長となるのかという話もある。
町長が変わるとなれば、領主にも報告しなければならないし、そもそも領主の許可なしに町長の変更などできるのかという疑問もある。
まあ、そこらへんがうまく行こうがそうでなかろうがどうでもいいと言えばいいけど、ここまで来た以上は、結末は見届けておきたい。
さて、どうなることかね。
そうして、しばらく経過した。
町長が捕らえられたことは、瞬く間に町に広がり、大きな混乱を引き起こした。
と言っても、元々町長の人気は低く、今回レジスタンスに参加していなかった人達も、ああそうなんだくらいにしか見られていなかった。
一部は抗議の声を上げていたようだけど、それも、ギルドマスターが不正の証拠を突きつけると黙ったようだし、町は完全に取り戻せたと言っていいかもしれない。
ただ、裁判はしばらく先になるらしく、それまでは、町長はギルドの一室で監禁されることになった。
かなり暴れているようだけど、まあ、私兵達も全面的に降伏したみたいだし、反対勢力もいなくなった今、もはや町長に味方はいない。
何事もなければ、このまま裁判にかけられて、適切な沙汰が下されるだろう。
「本当に助かった。これも君達のおかげだ、ありがとう」
後日、ギルドマスターから、そう言って感謝の言葉を述べられた。
元々は、戦闘には参加しないはずだったのに、巻き込まれてしまったわけだからね。それも、フェルがいなかったら、あのまま全滅していた可能性が高いとあっては、頭を下げたくもなるだろう。
本来なら、これに対しても報酬が支払われるべきなんだろうが、今は町長関連で忙しいらしく、支払いは少し待って欲しいと言われた。
まあ、別に報酬に関しては望んでいるわけではないし、どっちでもいいんだけど、なんかこのまま忘れ去られそうな予感がする。
いいんだけど、なんとなくもやもやするよね。
「そうだ、君はこれが何かわかるだろうか?」
話は変わって、ギルドマスターはフェルに数枚の紙を見せてきた。
紙には、あの自立機械の絵が描かれており、どうやら設計図のようである。
かなり複雑で、中にはこんな精密な部品作れるのか? と言ったものもあったけど、どうやって作ったんだろうか。
「見たところ、あの機械の設計図のようだが、いくつか読めない文字があってね。もしかしたら、君なら読めるんじゃないかと思ったんだが……」
「どれどれ……」
設計図には、確かにこの世界では見慣れない文字が書かれていた。
いや、正確には、俺にとっては見覚えのある文字だった。
これ、どう見ても日本語だよね? となると、これを描いたのって……。
「うーん、わからないです」
「そうか。何かの手掛かりになるかと思ったんだが、そううまくはいかないか」
フェルは読めないので、当然ながらそう答える。
しかし、もし転生者、あるいは転移者が関わっているのだとしたら、この技術も頷ける。
いやまあ、こんな自立機械を普通の人が設計できるのかと言われたら疑問はあるけど、少なくとも、この世界ではない、別の世界の技術が使われていたことは間違いないだろう。
何となく気になるけど、仮に転移者が関わっていたとしても、俺には関係ない。
面倒なことしてくれたなとは思うけど、持っていた知識を使って生計を立てるなんて、転移者にとってはよくあることだろうしね。
とりあえず、頭の片隅にでも置いておくとしよう。
「また何か困ったことがあったら、手を貸してもらってもいいだろうか?」
「気が向いたらいいですよ」
「感謝する。君は、きっと力を貸してくれると信じているぞ」
この後は、裁判のこととか、領主の報告とか、色々やるべきことが山積みらしいので、早々に退散することになった。
まあ、結末を見届けたいとは思ったけど、ニクスが来たらすぐに去らなきゃいけないんだよね。
あれから、すでに結構な時間が経っているし、そろそろニクスも戻ってくる頃合いじゃないだろうか。
ニクスに今回のことどう説明しよう。やっぱり怒られるかなぁ。
「まあ、後のことを考えても仕方ないし、しばらくのんびりしよ?」
「うん、そうだね」
のんびりと言っても、町は未だに緊張状態が続いているし、ちょっとピリピリしているから、のんびりとはいかないかもしれないけどね。
今のうちに、アルマ鉱山社の様子でも見ておこうかな?
俺は、今後の予定を立てながら、一度宿に戻るのだった。




