第二百三十二話:介入すべきか否か
「まあいい、北区画のゴミどもを排除するきっかけにはなった」
「排除だと? 貴様、それがどういうことかわかっているのか!?」
「どうも何も、ただゴミを掃除するだけだが? 碌に採掘もしないくせに、金だけはいっちょ前に取っていく金食い虫。あんな奴ら、数を減らした方が町の財政復興にも役に立つだろう」
そう言って、ため息をつく町長。
北区画の住民を排除したら、いよいよもってこの町は終わりだと思うんだけど、それを理解していないんだろうか?
「はぁ、なぜ親父はあんな奴らに心底手厚いサービスを提供していたのかわからん。そんな金があるなら、南区画を華やかにし、訪れる客から金を毟りとった方が手っ取り早いだろうに」
「貴様、本当にそう思っているのか?」
「当たり前だろう。むしろ、それ以外に何か必要か?」
「もし本当に気づいていないのだとしたら、貴様はとことん町長に向いていないな」
そう言って、ギルドマスターは町長を挑発する。
でも確かに、何となく違和感は感じるよね。
お金の稼ぎ方に関して、採掘による生産より、外から来たお客さんを相手にする方を重視するって言うのは、まあわからないでもないけど、そもそもそのお客さんに売るための商品は、採掘によって得られる鉱石から作られているものである。
今の町長の言い方だと、別に北区画の住民がいなくても、どこからか材料が転がり込んでくるって言う風に聞こえるんだけど、気のせいか?
もちろん、材料を輸入して、それを使って物を作り、売るって言うならできないことはないだろうけど、それではせっかく立派な鉱山を持っている意味がなくなるし、材料を自前で安く用意できるのに、わざわざ輸入に頼る必要はないと思う。
それこそ、輸入に回すお金を労働者のサービスに回した方が、よっぽど健全だと思うけどなぁ。
「町長に向いていない? 何を言うかと思えば。町長に向いていなかったのは、親父の方だ。あんな底辺のゴミどもに目を向けすぎて、町の顔を台無しにしていた。俺だからこそ、今の街を作り上げられたのだ。これのどこが町長に向いていないって?」
「顔ばかり大きくなって、体が貧弱では何の意味もない。すでに町の財政が火の車であることが何よりの証拠だ。ここにいる多くの人々が、貴様より親父さんの方がよかったと思ってる」
「はぁ? やはり頭の出来が違うと話が通じないようだな。やはり、掃除が必要なようだ。ギルドマスター、貴様も覚悟しておくがいい。私用で冒険者を使った挙句、守るべき町に反逆した罪は大きいぞ」
「大義のためであれば、ギルドマスターの職も、この命ですら差し出そう。だが、貴様だけは町長の座から降りてもらうぞ」
「やれるものならやって見るがいい。やれ」
その言葉を皮切りに、再び自立機械が動き出す。
降り注ぐ銃弾の嵐に、レジスタンス達は成す術もない。
ふと、逃げようとしている一人の頭に、銃弾が掠めて行った。
幸い、掠っただけで致命傷にはならなかったようだけど、あんな弾丸を頭に食らえば、即死してもおかしくない。
介入するかどうかを迷っている場合ではない。俺は思わず飛び出していた。
「ルミエール!」
「き、君は……」
「なんだ? ガキが迷い込んできたか?」
俺の登場に、町長はとっさに自立機械を止めた。
流石に、子供相手に攻撃する気はないのか? なら好都合だ。
「にげて、はやく」
「君がいるということは、フェル君も近くにいるのか? 頼む、助けてくれ! ここで退くわけにはいかんのだ!」
ギルドマスターは、希望が見えたと言わんばかりに、俺に縋りついてくる。
逃げろって言ってるんだけどな、どうしても退きたくないらしい。
まあ、確かに退けない理由はあるかもしれないけど、せめて作戦を考えるべきじゃないだろうか。
ここに集まってるってことは、恐らく逃走防止のために、隠し通路はすでに封鎖しているはず。
であるなら、正面よりも、隠し通路側から屋敷に潜入し、町長を捕らえるということもできるはずだ。
まあ、隠し通路の構造を詳しく知っているわけじゃないから、簡単じゃないかもしれないけど、それでも、あんな殺人機械を前に突貫するよりはましだろう。
完全に冷静な判断力を失っている。
冷静な人に見えたけど、頭に血が登っちゃったかな。
「退け、ガキ。子供を撃つ趣味はないが、邪魔だてするなら容赦はせんぞ」
「ルミエール、急に飛び出さないでよ」
「ごめん」
後から、フェルも近寄ってきた。
飛び出すなら、フェルに一声かけてからの方がよかったかもしれないけど、助けられないかもしれないと思ったら、自然と体が動いていた。
フェルは、少し呆れたような表情をしながらも、俺の頭を撫でてくれる。
なんだかんだ、フェルも介入する気ではいたようだ。
「貴様は、報告にあった冒険者か。貴様も邪魔だてする気か?」
「フェル君、頼む、あの機械を破壊してくれないか!」
「戦闘には参加しないって言いませんでしたっけ?」
「そ、そうは言ったが、ここに来てくれたということは、助ける気があったということだろう? あと一息なのだ、力を貸してくれ!」
「うーん……」
フェルはちらちらとこちらを見てくる。
まあ、ここまで来た以上は、助けるつもりではあるけど、イコールあの機械を破壊するかと言われたら、どうしようかって話ではある。
確かに、ここで敗北し、撤退するようなことになれば、町長はレジスタンス達をあぶりだし、粛正を加えるだろう。
でも、わざわざ沈みゆく泥船を立て直すより、新たな町で再起を図った方がよくないだろうか?
どのみち、領主ですらそこまで干渉する気はないこの町で、町長を挿げ替えたところで、その内また同じようなことが起きる気がするし、移住が難しいとしても、粛正されるよりましと考えれば、動く気にもなるだろう。
まあ、俺も町長の考え方は理解できないし、倒せるんだったら倒してもいいんだけどさ。あんまり首を突っ込みすぎるのもどうかなぁと未だに悩んでいる。
人々は助けたいけど、この町の未来はどちらに頼るべきなのか。
「退かないというのだな。なら、死ね」
フェルが悩んでいるのを引かないという選択に捉えたのか、町長は自立機械を再び起動して、銃弾を放ってきた。
あー、これは倒す方がいいかもしれない。
一応、俺を見て攻撃してこなかったり、フェルが出てきても猶予を与えてくれたり、ちょっとは助けてもいいかなぁとか思ったけど、攻撃してくるんじゃ仕方ない。
せめて、ちゃんと選択するまで待ってくれたら、見逃してもよかったのに、残念だ。
とっさに防御魔法で銃弾を防ぎ、フェルに目配せをする。
ギルドマスターの案に乗る形になるのはちょっとあれだけど、町長は捕縛させてもらおう。
念のため、人々に防御魔法を展開しながら、フェルの動きを待った。




