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第二百三十一話:決行の日

 それからしばらく経った日の朝。外が騒がしいのに気づいて、目を覚ました。

 どうやら、ついに作戦を決行に移したようである。

 窓の外を見てみても、ここからではほとんど何も見えないが、町の人々の様子を見る限り、かなり警戒している様子だった。

 今回作戦に参加しているのは、北区画の住民がほとんどと、南区画の住民も一部が参加している。

 他にも、この町所属の冒険者や、町の現状を見て、手を貸してくれた人など、多くの人が参加しているようだ。

 これ、もし仮に負けようものなら、町の存続も危うい事態になりそうだけど、大丈夫だろうか。

 いくら町長の悪事の証拠が揃っているとはいえ、領主はそれを糾弾するつもりはないようだし、万が一にも町長を挿げ替えることができなかったら、北区画の人々はほとんど粛正されてしまいそうだし、冒険者達だってタダでは済まない。

 別に、この町がどうなろうが知ったことではないけど、どうにも気になる。

 せめて、アルマ鉱山社だけは、悪いようにはならないでほしい気持ちがあるし、様子くらいは見ておくべきだろうか。


「首を突っ込むなって話だったでしょう? そこまでする必要はないんじゃない?」


「でも……」


「ルミエールは心配性だね。まあ、気持ちはわかるけどさ」


 今回の作戦、人員も十分だし、敵の逃げ道も塞いである。後詰の準備も万全だし、隙が無いように見えるけど、何となく不安だ。

 もし何かイレギュラーが起きて、レジスタンス側が負けてしまったら、後味も悪いし、ちょっと手助けするくらいはいいんじゃないかと思ってしまう。

 いやまあ、そこまでするほど思い入れのある人達かと言われたらそんなことはないんだけどさ。

 でも、助けられる人が目の前にいるのに、助けないって言うのもなんだか違う気もする。

 俺はドラゴンではあるけど、人の心を持っているからね。


「そんなに心配なら、ちょっとだけ様子を見てみる?」


「うん」


 結局、様子を見に行くことにした。

 こっそりと、町長の屋敷付近まで足を延ばしてみる。

 そこでは、すでに戦闘が起きていた。

 町長につく私兵達と、レジスタンス達が戦っている。

 レジスタンスの中には、手練れの冒険者もいるとはいえ、ほとんどはただの市民であり、戦闘が得意というわけではない。

 だから、数の割には、あまり押し込めていないという感じがする。

 私兵が優秀って言うのもあるのかな? 身を守るために、優秀な人を集めたのかもしれないね。

 ただそれでも、戦力差は倍以上。少しずつではあるけど、守りを突破しつつある。

 屋敷の入り口は既に開かれており、後は数人でもすり抜けられれば、ゴールは目前ってところだろうか。

 この様子なら、特に手を出さなくても、問題はなさそう。

 犠牲は出るだろうけど、下手に介入しすぎるのもダメだと思うし、倒れた人達を回復させるくらいがせいぜいかな。

 幸い、俺の治癒魔法なら、死んでさえいなければ完全に治すことができる。

 これを使えば、犠牲は最小限で済むだろう。

 私兵に関しても、後でこっそり治しておくことにしようかな。

 最低な町長のために、命を散らさせるのは可哀そうだし。


「……ん?」


 そんなことを思っていると、不意に妙な気配を感じた。

 なんだろうと思っていると、屋敷の入り口から、奇妙なものが出てくるのが見えた。

 あれは、なんだ?

 見た目は、足の生えた砲台だろうか。

 前世であれば、サイバーパンクの世界が舞台の小説にでも出てきそうな、自立機械っぽい。

 この世界にも、工作機械のようなものは存在するけど、自立機械となると、流石にないと思う。

 あっても、ゴーレムのような人工生命であり、ああいったものは見たことがない。

 ニクスからも、そんな話は聞いたことがないしね。

 となると、あれは何なのか。


「ぐあっ!?」


「な、なんだこいつ!?」


 そんなことを思っていると、砲台から無数の弾丸が放たれ、レジスタンス達を次々と攻撃していった。

 ガトリングって感じ? ちょっとかっこいい。

 って、そんなこと言ってる場合じゃなかった。


「これ、やばい?」


 自立機械は、敵を倒せとでもインプットされているのか、的確にレジスタンス達を狙い、沈めて行っている。

 あの射程の上、この場所は遮蔽物も少ないし、近づくのは容易ではない。

 私兵も未だに健在な者が多いし、それを相手にしながら突破するのはほぼ不可能だろう。

 ここにきて、とんでもないものが出てきたものだ。

 というより、なんであんなものが存在するんだろうか?

 さっきも言った通り、この世界で、あんな機械は見たことがない。世界中を見て回っているはずのニクスからも、あんなものは聞いたことがない。

 明らかなオーバーテクノロジーだし、一介の町の町長が手にできるものとも思えない。

 あれは、一体どこから来たものなんだろうか?


「どうする? 一応、まだ死んではいないみたいだけど」


 俺が回復しているから、撃たれた人もまだ死んではいないけど、このままでは戦いにならない。

 レジスタンスが戦いを挑んでいる以上、ここで退いても後ほど粛正されるだろうし、今更後には退けないだろう。

 となると、どうにかあの守りを突破し、屋敷に入らなければならない。

 かなり絶望的な状況だけど、俺ならあの機械もどうにかできると思う。

 果たして、ここで手を貸すべきなのか、どうか。


「くっ、いったん退け!」


 考えているうちに、最前列で戦っていたギルドマスターが、そう言って撤退を始める。

 まあ、何の策もなしに突っ込むよりはましなのかな。

 少なくとも、遠距離武器がいないと話にならない。


「誰かと思えば、貴様だったか」


「貴様は……!」


 レジスタンス達が前線を下げたタイミングで、自立機械の攻撃が止まる。

 そして、その後ろから、一人の男が姿を現した。

 背の低い、中年の男性。

 立派な巻きひげを蓄え、上等な服を着こんだその男性は、恐らくだけどこの屋敷の主だろう。

 すなわち、町長である。


「どこのドブネズミが騒いでいるのかと思えば、町を守るのが役割のギルドが裏切るとはな。それに、北区画のゴミどもまで……いつからこの町はこんな肥溜めのような奴らの巣窟になったのだ?」


 圧倒的多勢を前にしても、町長は余裕の笑みを崩さない。

 まあ、あんな自立機械があるんじゃ、得意げにもなるか。

 ギルドマスターは、悔し気に歯を食いしばっている。

 それはお前のせいだろといいたいけど、まあ、聞く耳持たないよね。


「まあ、ようやく完成した戦闘機械を試す機会を与えてくれたことには礼を言おう。おかげで貴重なデータが取れた」


「悪魔め、正々堂々と戦え!」


「正々堂々? こそこそと地下を荒らしまわり、蛮族のように攻め立ててきた貴様らがそれを言うか? だから馬鹿だというのだ。大人しく俺の政策に従っていれば、無駄に犠牲が出ることもなかっただろうに」


 そう言って、町長は機械を撫でている。

 もしかして、この町の生産品不足って、あれのせいもあったりするのかな?

 労働者に対する当たりが強くて、鉱石の生産量が減ったのもあるだろうけど、あんな機械を作っているとなれば、それにもかなりの鉄を使っているはず。

 町の財政が傾いたのって、そのせいもあるんじゃない?

 もしそうだとしたら、ちょっと馬鹿すぎるけど。

 なおも、町長の勝ち誇ったような演説は続く。

 俺も、だんだんムカついてきたけど、どうしたものかなぁ。

 介入すべきか否か、俺は未だに迷っていた。

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