第二百二十九話:隠し通路
夜、ささっと鍵を取って来て、さっそく下水道の入り口までやってきた。
宿に不審に思われないように、窓からこっそりと抜け出してきたので、問題はないと思う。
さて、これが本当に下水道の鍵なのか。
期待と不安を抱えながら、鍵穴に差し込むと、かちゃりと音を立てて鍵が開いた。
「おお、凄い。ほんとに開いたねー」
「ふふ」
やはり、俺の推理は間違っていなかった。
褒めてくれるフェルにちょっと自慢しながら、さっそく扉を開ける。
中は、かなり暗かった。それに、異臭も凄い。
俺は、思わず顔をしかめながらも、光魔法で明かりを灯す。
さて、隠し通路はあるかね。
「下水道って始めて来たけど、かなり臭いんだね……」
「うげぇ」
まあ、下水を流してるんだから当たり前なのかもしれないけど、こりゃ酷すぎて人が寄り付かなくなったというのも、あながち間違いではないのかな?
一応、通路は整備されているようだけど、汚れは凄いし、まともに掃除しているとは思えない。
上はあんなに綺麗なのに、見えないところはこのざまって言うのが、今の町長の性格を表しているかのようだよね。
「結構入り組んでるね。迷子になりそう」
「だいじょぶ」
「まあ、目印はつけてるから、大丈夫だとは思うけどね。暗いし、臭いし、夜に来るところじゃないかもしれない」
下水道を見たことがないから何とも言えないけど、確かに結構入り組んでいるし、広い。
ここを整備する人は、かなり大変そうだけど、だからこんなに汚れているのか?
もう少し人員を割いて、綺麗に保っていた方がよさそうな気がするけど、まあ、所詮は見えない場所だし、こんなものなのかもしれない。
しばらく歩いているけど、隠し通路らしき場所は見当たらないな。
流石に、堂々と通路がでんっとあるってわけではないのかな?
仮に、この下水道に隠し通路が繋がっているとして、出るなら入り口のところか、水の出口の方だと思う。
脱出用の通路なのだから、町から逃げれなければ意味がないわけだしね。
そう言う意味では、入り口は町の外れにあるわけだし、逃げやすい位置ではある。
ただ、門を封鎖されたら、町から出られなくなるというデメリットもあると思うし、やはりあるなら、町の外に繋がっている水の出口か。
「たぶん、こっち」
「風の流れがあるね。こっちが出口っぽい」
さらに奥へ進んでいくと、水の出口を見つけた。
おじさんが言っていた通り、鉄格子で塞がれているみたいだけど、よく見ると、格子扉がある。鍵さえあれば、ここから出ることもできそうだ。
一応、試しに入り口の鍵を使ってみたけど、これでは開かない様子。
ま、そりゃそうだよね。
「ここが出口だとすると、隠し通路があるなら、こっち?」
「けはい、さぐる」
俺は、意識を研ぎ澄ませ、辺りの気配を探る。
本来は、敵の気配を探るためにすることだけど、近場であれば、それ以外のものも見つけることができる。
例えば、壁の中にある空洞とかね。
風の流れや、かすかな水音など、ヒントになるものがあれば、見つけることができる。
そうして、意識を集中させながらしばらく歩いてみると、怪しい場所を発見した。
「ここ、くうき、ながれてる」
「見た感じはただの壁だけど……えーと?」
見た感じは、ただの汚い壁である。
しかし、俺の感覚は、この先に空間があると言っている。
隠し扉かなにか?
暗くて見にくいので、明かりを近づけてみる。
すると、すぐに種は割れた。
「これ、ただの板だ」
よく見ると、一部に切れ込みが入っており、そこに手を入れてみると、がこっと簡単に外れた。
どうやら、壁の絵を描いたただの板が張り付けてあったようである。
いや、こんな単純な仕掛けに騙される奴いるか?
ああでも、ここは下水道で、明かりもないみたいだし、ランプなどの明かりで照らす限りでは、よく見ない限りは見つからないのか?
なんか納得いかないけど、見事に隠し通路を見つけることができたのだから、十分と言えるだろう。
「これ、多分だけど、他の場所にもあるんじゃない?」
「ありそう」
単純な仕掛けはともかく、隠し通路は複数あるという話だった。
しかし、地下にはこうして下水道が広がっている以上、どうしてもぶち当たってしまうと思う。
もちろん、高さを変えて、とかやればいけると思うけど、大した測量器具もないのに、ピンポイントで掘りぬくのは、なかなか無理があるだろう。
ただでさえ、下水道は蜘蛛の巣のように複雑に、そして広く広がっているのだから、下手に掘っても、どこかでぶつかるはず。
であるなら、下水道の一部を隠し通路というか、逃げ道として使うという発想になってもおかしくはない。
もちろん、それだとあの出口を抑えたら終わりということになるから、また別に出口はあるかもしれないけど、それも下水道のどこかで繋がっていると思う。
「今まで通ってきた道にも隠し通路があると思うと、全部調べるのは難しそうだね……」
「さすがに、はんい、ひろい」
まあ、何日かかけて念入りに調査すれば、見つけられるかもしれないけど、現状、ここに入るための手段が限りなく少ない。
比較的見られないであろう水の出口の格子扉を壊して、そこから出入りするというなら話は別だけど、絶対に見られないという保証はないし、少しでも怪しい点が露出すれば、計画は台無しになってしまう。
となると、調査のためには、鍵が必要となる。しかし、鍵を長時間持ち出せば、ばれるリスクがある以上は、長時間の調査はできない。
夜ならできるかもだけど、俺達二人だけで調査しきるのは、かなり時間がかかると思う。
「いや、まてよ」
俺はふと、策を思いつく。
確かに、一つ一つ壁を調べていたのでは、相当な時間がかかるし、全部の隠し通路を見つけるのは無理がある。
しかし、この世界には魔法があり、しかも俺は、ほぼすべての属性を操ることができる。
であれば、調査用の魔法を新しく考案すれば、うまく行くのではないか?
イメージとしては、ソナーみたいな感じ。広域の地形を把握できるようなもの。
名付けるとすれば、探知魔法かな? そのまんまのネーミングだけど。
「何か思いついた?」
「やってみる」
俺は、頭の中でイメージを膨らませる。
魔法に重要なのはイメージだから、イメージがはっきりすればするほど、正確な魔法になる。
幸い、参考になる知識は、前世の中にあったから、イメージするのはたやすい。
そうして練り上げたイメージを使い、魔法を発動すれば、瞬時に周囲の地形が把握できた。
「できた」
「おお、流石ルミエールだね」
「えへへ」
頭を撫でてくれるフェルに、思わず顔がほころぶ。
さて、今まで通ってきた地形を照らし合わせると、いくつかおかしな反応があるから、恐らくそこが隠し通路だろう。
この際だから、見つけられるだけ見つけてしまおうか。
俺は、反応を頼りに、突き進むのだった。




