第二百二十八話:怪しい場所
「……なるほど、隠し通路について聞きたいと」
「はい。何かご存じありませんか?」
「いや、悪いが詳しいことは知らないな」
聞いてみたけど、特に詳しいことは知らないようだった。
まあ、隠し通路というからには、隠されているんだから、当たり前ではあるんだけど。
直球で聞いたのがいけなかっただろうか。もっとこう、怪しい場所がないかを聞くべきだったかな?
「その話をするってことは、嬢ちゃんもレジスタンスの話を聞いたんだな?」
「え? あ、はい、そうですね」
「やっぱりそうか。ここは北区画に近いから、そこまで気にしなくてもいいかもしれんが、誰でも彼でもそう言う話をしちゃだめだぜ」
一応、レジスタンスは秘密裏に活動している団体であるため、その存在が露見するようなことはしない方がいいらしい。
まあ、当たり前ではあるよね。もし、現町長を支持する勢力に見つかれば、告げ口されてそのまま粛正って流れになっちゃうかもしれないし。
別に、誰でも彼でも話す気はないけど、気をつけとこうか。
「で、だ。隠し通路の場所は知らないが、怪しい場所はいくつか目星をつけてある」
「ほんとですか?」
「ああ。だが、これまでにも、捜索しようとしているが、なかなか手が出せなかった場所でな」
そう言って、おじさんはある場所のことを教えてくれた。
この町には、南区画を中心に、綺麗な川が流れている。下水道も完備されており、水回りは比較的整っている印象だ。
なので、当然ながら地下には下水道が通っているわけだが、そこに入れるのは、一部の作業員だけらしい。
理由としては、下水道が思ったよりも汚く、人が寄り付かなくなったからということらしいのだけど、下水道に入るための通路には厳重に鍵がかけられ、その鍵は作業員しか持つことができないらしい。
だから、怪しいとは思いつつも、なかなか調べることができないんだとか。
「隠し通路と言われて、ぱっと思いつくのはやはり地下だろう? だから、下水道を調べようと思ったんだが、そんな理由で調べられないでいるんだ。怪しいだろう?」
「まあ、確かにそうですね」
「しかも、その作業員って言うのが、何を隠そう、現町長を支持する貴族家が雇った奴らだ。ますます怪しい」
なるほど、状況証拠としては十分ってことか。
しかし、鍵ねぇ。魔法でちょちょいとやったら、解錠できたりしないだろうか?
壊すだけなら簡単だと思うけど、流石にそれやったらすぐにばれちゃいそうだし、できれば鍵を入手したいところ。
魔法は試してみてもいいけど、俺じゃちょっと難しそうだよねぇ。
「他に出入り口はないんですか?」
「いや、ない。下水道の出口にも、鉄格子がはまっているからな。よっぽど細ければすり抜けられるかもしれんが、嬢ちゃんでも無理なサイズだ」
うーん、となると、やはり鍵を入手しないといけなさそうだ。
とりあえず、その作業員がいるという貴族家を当たってみようかな。
もしかしたら、何か聞けるかもしれないし。
「わかりました。とりあえず、下水道に入る方法を探ってみますね」
「ああ。何かいい方法が見つかったら、教えてくれると嬉しいぜ」
しばらく話した後、おじさんと別れる。
一応、下水道の場所や、その貴族の家の場所も教えてもらったけど、どちらも南区画にあるようだ。
ひとまず、行かないことには始まらないので、向かってみることにする。
「さて、ここが下水道の入り口みたいだけど」
南区画の少し外れの方に、その入り口はあった。
大きな鉄扉で塞がれており、確認してみたけど、やはり鍵がかかっている。
随分と頑丈そうな扉だ。ここが鉄が取れる町だというのはあるにしても、ここまで立派に作る必要があったんだろうか?
まあ、子供とかが入ったら危ないだろうし、扉は必要なのかもしれないけど。
「ルミエール、どう?」
「むり」
一応、これでも魔法の扱いに関しては慣れてきたつもりではあるんだけど、壊すならともかく、解除するとなるとちょっと難しい。
下手にいじったら壊れちゃいそうだし、あんまりいじらない方がいいだろう。
「んー、となると、やっぱり鍵?」
「うん」
「確か、あっちの方だったね」
今度は、鍵を持つという貴族の家に向かうことにする。
下水道の入り口は、南区画の中でも結構端のようだったようだけど、その貴族の家は、結構中央寄りにあるらしい。
いわゆる、一等地って奴だ。
まあ、貴族が住む場所なんだから、ある意味当たり前なのかもしれないけど、分布を考えると、その中でも割といい暮らしをしている家ってことになると思う。
実際に訪れてみると、立派な屋敷が建っていた。
遠目から見ただけではあるけど、庭も立派だったし、羽振りは良さそうである。
入り口には門番が立っているから、直接乗り込むのは難しそうかな?
まあ、あれくらいならどうとでもなるけど。
「どうする? 忍び込む?」
「んっ、ふぇる、まってて」
「一人で大丈夫?」
「だいじょぶ」
一応、隠密魔法であれば、フェルも得意分野ではあるけど、俺の方が小さいし、小回りが利くだろう。
念のため、外から見張りをしていてもらい、隠密魔法をかけて、こっそりと侵入する。
内装も、結構豪華だね。廊下に、金の壺とか飾ってあるし、あれ一つでどれだけの価値があるだろうか。
北区画の人達のために、義賊よろしく盗んでいこうかとも思ったけど、どう考えても売りさばけないだろうから、やめておこう。
今回は、鍵を見つけるのが目的だしね。
「む、ここか?」
しばらく家の中を徘徊していると、鍵束がかけられている棚を見つけた。
律儀に、どこの鍵なのかが棚に書かれていて、とても分かりやすい。
ただ、下水道の鍵というものは見つからなかった。
流石に、ここには置いていないか? 作業員に預けている可能性もあるし、そっちを当たった方がいいのかもしれない。
「あれ、これ……」
とりあえず、あんまり長居すると見つかるかもしれないので、そろそろ脱出しようと思っていたが、ふと、棚の一つに目が行った。
そこにも鍵がかけられているのだけど、その鍵だけ、妙に新しいというか、綺麗だった。
それに、棚には何も書かれておらず、これだけどこの鍵かがはっきりしない。
一応、これまで回ってきた家の内装を思い浮かべてみるけれど、この鍵が該当しそうな部屋は思いつかなかった。
まあ、あるとしたら、地下室とか? でも、鍵が新しいというのが気になる。
……そう言えば、あの下水道の扉も、比較的新しかったし、その鍵とかなのかな?
確証はないけど、試してみる価値はあるかもしれない。
「……いや、ここで、とる、まずい」
取っていきたい衝動に駆られたが、今取ってしまうと、ばれてしまう可能性が高い。
ただでさえ、他の鍵の保管場所と同じところにあるのに、一つ鍵がなくなっていたら不自然すぎるだろう。
もし取るなら、露見しにくい夜にやる必要があると思う。
理想は、さっさと調べて、ばれる前に返すことだね。
日が落ちるまでには少し時間がある。それまでは、残しておいた方がいいだろう。
「よる、けっこう」
まあ、ほんとに下水道の鍵かは知らないが、試すだけならね。
俺は、この場所を忘れないように記憶してから、家を後にした。




