第二百二十七話:レジスタンスの依頼
「……ルミエール、どうする?」
「んー……」
フェルが、小声で話しかけてくる。
ここで頷くのは簡単だ。何をさせる気かは知らないが、今の町長を排し、まともな町にしてあげたいという気持ちは、俺にだってあるし、フェルだって同じ気持ちだろう。
しかし、これに首を突っ込んだら、絶対に面倒なことになる。
ニクスに、大人しくしていろと言われたのに、それはいかがなものか。
町の人達の気持ちか、ニクスの気持ち、どちらを優先するかってことだよね。
「……もちろん、報酬は用意している。悪くない話だと思うのだが」
「うーん、まず、私達は何をすればいいんですか?」
とりあえず、詳細を知りたい。
現町長を排するというのはわかるけど、暗殺でもするのか?
もしそうなら、頼む相手を間違っている。冒険者は殺し屋ではないし、町のごたごたのせいとはいえ、ギルドマスターが町の町長を殺そうとするとか、ギルドの信用を疑われても仕方ない。
「もちろん、町長を暗殺してくれ、と頼むわけじゃない。やって欲しいことは、隠し通路の発見だ」
「隠し通路?」
現町長は、いざという時の逃げ道として、自分の屋敷から繋がる隠し通路をいくつか作らせたらしい。
ただ、その時の労働者は、口封じで殺されてしまったので、場所がわからない。
だから、その隠し通路を見つけてほしいというのが、今回の依頼のようだ。
「町長を引きずり下ろすためには、言い逃れできないほどの不正の証拠を突きつけ、裁判によって裁く必要がある。しかし、証拠自体はすでに集まっているが、屋敷に乗り込む際に、そこから逃げられる可能性が高い」
「だから、あらかじめ見つけて、逃げ道を潰しておこうってことですか?」
「そういうことだ」
不正に関しては、財政が悪くなってからは、結構な頻度で行われていたようだ。
町の資金の私物化はもちろん、道行く馬車を襲わせたりなどもしていたようで、やりたい放題の状況。
それでも、隠してはいたようなのだけど、屋敷の使用人などの中にも、不満に思っている人はいるようで、露見するのにそう時間はかからなかったようだ。
だから、証拠はある。だからこそ、後は逃走さえされなければ、勝ちみたいなところがあるらしい。
「町長の拘束や、その際に抵抗してくるであろう私兵との戦闘はこちらでやる。だから、とにかく失敗の芽を潰してほしいんだ」
「そんなにうまく行くのかなぁ……」
フェルは、思わず呟いた。
まあ、逃げ道を潰すという点に関しては、悪くはないと思う。
隠し通路は、最後の砦だろうし、それを潰されてしまえば、後は何もできないだろう。
もし逃げられてしまっても、町からいなくなるんだしいいじゃんと思わなくもないけど、領主などに泣きつかれて、再び戻ってくるようなことになったら、面倒くさいしね。
ただ、問題は、そんな簡単に裁けるのかという点。
町長となれば、この町に置いて、最高レベルの権限を持つ人物である。
それを、いくら民意があり、不正の証拠があるとは言っても、簡単に裁けるだろうか?
下手をしたら、賄賂などを握らせて、罪を軽くさせることくらいはしてきそうである。
まあ、それでも罰を受けさせることさえできれば、町長の座から引きずり下ろすのには十分だし、ありなのかもしれないけど、ちょっと心配だ。
「どうだ、やってくれないか?」
「……まあ、いいでしょう。派手な戦闘とかをしないのなら、問題はないと思いますし」
「本当か!? 感謝する!」
フェルは、少し悩んだ後に、頷いた。
まあ、戦闘となったら、ちょっと面倒だけど、ただ隠し通路を探すだけだったら、そこまで大きな問題にはならない気もする。
最悪、途中でニクスが帰ってくれば、すべてうやむやにできるだろうし。
そう言うわけで、引き受けることにした。
「君なら受けてくれると信じていた。よろしく頼む」
「いえいえ。町の中を調べればいいんですよね?」
「ああ。恐らく、そう遠くにはないはず」
やるべきことも決まったので、部屋を後にすることになった。
ちなみに、報酬は金貨1枚らしい。
まあ、裏方作業をするだけにしては高いけど、そこまで高額ってわけではないね。
町の財政もひっ迫しているらしいし、そんなに出せないんだろう。
「結局受けちゃったね」
「しかたない」
「でも、助けたいのは本当でしょう?」
「うん」
正直、この依頼を受けたのは、困っている人達を助けたかったという気持ちがほとんどの理由だ。
ただ待っているのが退屈というのもあるけど、どうせしばらくは滞在しないといけないのだから、少しくらい人助けしてもいいだろう。
できることなら、北区画にいたような子供達みたいな想いはさせたくないしね。
「さて、どこから探そうか。町の中とは言ってたけど」
「んー、ちか?」
隠し通路とのことだけど、ぱっと思いつくのは、やはり地下だろう。
この町は水が綺麗だし、下水道もあるはず。そのどこかに繋がっているってところかな。
あるいは、直通の通路がある可能性もあるけど、それに関しては出口を見つけないことにはどうにもならない。
町長が住む屋敷に直接乗り込めるなら話は別だけど。
「聞き込みするわけには、行かないよね」
「さすがに、あやしい」
「だね。意外と面倒なことになったかな?」
隠し通路を建設した作業員はもうこの世にいないようだし、完全に手探りになりそうだ。
とりあえず、地下に潜って見るのが一番早いかな?
どこかに下水道に潜れる場所があるはずだけど。
「おお、嬢ちゃん、こんなところにいたんだな」
「うん? あ、あの時の」
歩きながらしばらく考えていると、不意に声をかけられた。
顔を上げてみると、そこには北区画に入る際に、やたらと忠告してくれた、あのおじさんがいた。
いつの間にか、北区画に近づいていたのかな? まさかまた会うとは思っていなかったけど。
「どうやら、きっちりロックゴーレムを倒してきたらしいな。あの時は、実力を疑うような真似をしてすまなんだ」
「いえいえ、Bランクには見えないでしょうからね」
「そのランクに嘘偽りなしってことか。人は見かけによらないものだ」
どうやら、どこからかフェルのことを聞いたらしい。それで、ずっと謝りたかったようだ。
わざわざ謝る必要はないと思うけど、やっぱりお節介なだけで、悪い人ではなさそうだね。
初対面の俺達に対して、あれだけ忠告してくれるような人なら、まだ信用できるかな?
あんまり人に聞くのはダメな気がするけど、この人くらいならいいだろう。
「ん? ルミエール、どうしたの?」
「つうろ、きく」
「ああ、まあ、この人ならいいかな」
「なんだ? 俺に力になれることなら、協力するぜ」
「それじゃあ、少し聞きたいんですが」
フェルは、さっそく隠し通路について何か知らないかを聞いてみる。
さて、いい情報は手に入るだろうか。
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