第二百二十六話:問題事の種
今、この町では、密かにレジスタンスのようなものが立ち上がっているらしい。
現町長の圧政に不満を示している北区画の住民はもちろん、一部の南区画の住民も、手を上げているようだ。
で、南区画と北区画を自由に出入りでき、且つ、冒険者という戦力を派遣できるギルドマスターは、その橋渡し的な役割をしているらしいね。
でも、本来ギルドは、中立な立場だ。わざわざ町の問題に首を突っ込むよりも、さっさと移転してしまった方が被害が少ないように思える。
一体、なぜわざわざ問題を解決しようと動いているのだろうか?
「他でもない、前町長の頼みだからだ」
「前の町長さん?」
「うむ。彼とは昔馴染みでな、俺が普通の冒険者だった頃から、仲良くさせてもらっていたんだ」
以前の町長は、結構顔が広かったらしく、ギルドマスターもその一人だったようだ。
町の融和を掲げ、貴族だろうと、労働者だろうと、分け隔てなく接するその姿は、多くの人を惹きつけた。
ただ、以前から、一つ懸念があったらしい。
それが、息子の存在だ。
「今の町長である息子は、最初は従順で素直な子だったが、だんだんと現状に不満が差し、今の体制を変えたいと考えていたようでな。常日頃から、俺は親父よりうまくやれる、と息巻いていたようだ」
「そんな話を聞きましたね」
「それだけならまだよかったんだが、だんだんと、その思想が過激になっていってな。時には、労働者の扱いを巡って、喧嘩もしていたようだ」
どうやら、現町長は、もっと無駄なものは省き、町の税収を増やすべきだと考えていたらしい。
と言っても、別に前町長の時代が、収入が安定していなかったわけではないようで、むしろ平均よりは上の水準を保っていたようだ。
その手腕に、町の人々も満足しており、だからこそ、高い評価を受けていた。
しかし、それでは足りないと考えていたようで、無駄を省く、この場合は、労働者に提供しているサービスの一部を停止させ、その分を町の売り上げに直結する、店に回した方がいいのではないかと言ったわけだ。
当然ながら、前町長はそれを拒否し、現状維持する道を選んだ。
それを見て、息子は余計に不満を溜め、いつか自分が後を継いだら、絶対に今より良くしてやると言っていたようだ。
「志が高いのはいいことだが、前町長は、その様子を見て、町のことを危惧していた。このまま継がせれば、とんでもないことになるとな」
「でも、実際継いだんですよね?」
「ああ。と言っても、真っ当な方法ではなく、前町長を毒殺することによってな」
よくない思想を持ったまま町長の座を継げば、町の崩壊に繋がると考えた前町長は、息子に跡を継がせないようにしようとしたが、それをどこからか聞きつけたのか、息子は暴挙に走り、あろうことか、毒殺して無理やり自分が町長の座に収まった。
支持の高かった町長の突然の死。公には、病死ということにされたようだが、その不自然すぎる死に、ほとんどの人は、息子が手を上げたんだと考えていたようだ。
晴れて町長の座を手にした息子は、かねてより考えていた政策を開始、そうして、今の状況になるわけだ。
「とんでもない人ですね」
「まったくだ。だが、そうして声を上げた者は、次々に粛正され、表向きには、文句を言える者はいなくなってしまった」
「でも、財政が落ち込んでいるなら、自分が間違っていたと、わかりそうなものですけど」
町の財政が落ち込んでいるというのは、アルマ鉱山社の人達からも聞いた話だ。
自分の方がうまくやれると豪語しながら、実際には結果は伴っていない。
これを見れば、自分の政策は間違いだったと気づき、元に戻そうとするのが普通だと思うんだけど。
「それで止まるようなら、父親を毒殺などしないさ。自分の考えは絶対に間違っていない、成果が出ないのは、労働者のせいだと決めつけ、次々にサービスを廃止させていった」
一応、こんな町長でも、一定の支持というものはあるらしい。
特に、現町長に取り入って、甘い汁を吸おうと考えている貴族もいるようで、そうした貴族の要望を優先的に叶えることで、支持を勝ち取っていたようだね。
しかし、収入が減れば、当然要望も叶えにくくなる。
売るための場所は綺麗だけど、売るものを用意する場所が劣悪では、何の意味もない。
しかしそれでも、自分の間違いを認めず、労働者に強いるだけで何もしない。
多分だけど、間違いには気づいているけど、ここでそれを認めたら、自分が間違っていると町中に知れ渡らせることになるから、やるにやれないんじゃないかな。
自分の失敗なのに、他人にそれを押し付けて、自分は被害者面をする。前世でよく見た手合いだ。
「最初こそ、南区画の整備に力を入れていたから、そこの住民達は喜んでいたが、やがて収入が減り、整備もままならなくなってくると、不満が募り始めた。そして、真実を知った者達は立ち上がり、レジスタンスを作ったというわけさ」
「なるほど」
現状、現町長を支持しているのは、直接関わっている一部の貴族くらいなものらしい。
昔からこの町に住んでいる人々は、前町長の政策を好んでいるし、若者達も、今の現状を見て支持したいとは思わない。
労働者は言うに及ばず、古くからの貴族も愛想をつかし始めている。
町を出て行った人も多数おり、まさに今はぎりぎりの状態というわけだ。
「そこで、現町長を排し、町を取り戻そうという計画がある。この町を、以前の融和が取れた町にすべくな」
「それは、大変立派だと思いますが、なぜそれを私達に?」
「あの依頼を受けてくれただろう? あんな、ほぼ無報酬で、厄介事しか感じられない依頼を受けてくれたのだ。少なからず、この町に対して何か思うことがあるはず。だからこそ、こうして話を持ちかけたのだ」
「あー……」
つまり、その作戦に協力しろってことか。
確かに、あんな見るからに地雷な依頼をわざわざ受けたということは、それだけお人好しということでもある。
特に、フェルは見た目はともかく、Bランク冒険者だし、戦力的にもかなり役に立つ存在だ。
ギルドマスターの立場を使って、都合のいい駒を用意しているって感じもするけど、町のことを思うなら、仲間は一人でも多い方がいい。
そう言う意味では、話して正解なんだろうけど、なんか、ちょっと感じ悪いよね。
お前お人好しだし、当然参加するだろ? みたいな態度に見える。
もちろん、真剣ではあるんだろうけど、もはや仲間になるのが確定しているかのような話しぶりだしね。
でも、実際、町の人達を助けたいという気持ちもある。
北区画で見た、子供達やアルマ鉱山社の人達、みんな本当に困っているって感じがするし、できることなら何とかしてあげたい。
でも、それは面倒事に首を突っ込むということでもある。
ニクスとの約束を、こんな形で破ることになっていいんだろうか?
俺は、フェルの隣で、しばし考え込んでいた。
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