第二百二十四話:ゴーレムの弱点
「さっそく、おでまし」
「結構大きいね」
どうやら辺りにいるのは一体だけのようだ。
血の匂いの主がいないのが気になるけど、とりあえず目標を見つけたのだから、倒すべきだろう。
フェルは、腰に下げている剣を抜き、相対する。
基本的に、対ゴーレムでは、物理攻撃は効果が薄いとされている。
マッドゴーレムのように、体が比較的柔らかい素材ならまだましだけど、大抵はロックゴーレム、つまり、岩の体を持っている。
岩に剣を叩きつけたところで、剣の方が折れるのが普通だろう。
だから、基本的には魔法攻撃を行い、倒すのが普通である。
では、フェルはなぜ剣を抜いたのか。
それは、わざわざ攻撃魔法を使うまでもないからである。
「はっ!」
掛け声とともに、フェルが駆け出し、壁を蹴って、一息に頭の位置まで飛び上がる。
そして、暗がりでもよく見える赤い瞳に向かって、剣を突き出した。
パキッと音を立てて瞳が砕ける。
動く間もなく、ロックゴーレムは機能を停止し、その場に崩れ落ちた。
「よし、倒せたね」
「おみごと」
ゴーレムの弱点は、頭部にある赤い瞳である。
これを突かれれば、どんなに硬い素材のゴーレムだって、一撃で倒すことが可能だ。
もっとも、普通はそんな簡単に攻撃できない。
近づけば当然反撃してくるし、ゴーレムは背が高いものが多いから、近接武器で瞳に攻撃を届かせるためには、高い跳躍力か、空を飛ぶ手段が必要となる。
そんなものを持っている人は稀なので、だったら魔法で削って倒した方が早いというわけだ。
しかし、生憎とフェルは普通ではなくなってしまったからね。
幻獣ソレイユとしての力をもってすれば、あれくらいの跳躍は造作もない。
反撃らしい反撃をされなかったのも、フェルの素早さのおかげだね。
ただ、この倒し方には一つ問題がある。それは、ゴーレムの素材で、最も高く売れるのは、その瞳だということだ。
「残した方がよかったかな?」
「んー、ほうしゅう、ない、そざい、ほてん」
「そうだね。次からは、残すようにしようか」
恐らく、あの瞳が核となる魔石ということなのだろう。それを砕けば、動きが止まるのは道理だ。
しかし、それを砕いてしまえば、売れる部位はほとんどなくなってしまう。
アイアンゴーレムのように、金属でできたゴーレムなら、高く売れることもあるけど、ロックゴーレム程度では、そこまで金にはならない。
今回の依頼は、報酬がほぼないようなものだし、それを補填するという意味では、ちゃんと残した方がいいかもしれないね。
「このさき、もういったい」
「オッケー。そういえば、血の匂いの主はわかる?」
「んー、たぶん、あっち」
一応、目標となる魔物は倒したから、このまま報告してもいいけど、まだいるようなので、せっかくなら全部倒すべきだろう。
劣悪な環境で働いしてる労働者を助けるためにも、それくらいはしてあげなければ。
それよりも、気になるのは血の匂いの主である。
立ち入り禁止であるはずのこの場所に、なぜ入り込んだのだろう?
疑問に思いつつも、先へと進む。
道中、再びロックゴーレムが出てきたけど、今度は魔法で対処し、無事に赤い瞳を手に入れることもできた。
これ、どれくらいで売れるんだろう。高いとは聞いているけど、実際の値段は知らないな。
「ん、あそこ」
「隠れてるのかな?」
しばらくすると、岩と岩の隙間に隠れるように、縮こまっている人を発見した。
俺達が持つ松明の明かりに気づいたのか、這いずるように岩陰から姿を現し、縋るように助けを求めてきた。
見たところ、足に怪我をしているようである。
なるほど、これで逃げられなかったってわけか。
「た、助けてくれ! 俺はまだ死にたくない!」
「落ち着いてください。私達は冒険者です。この鉱山の魔物を倒してくれと、依頼を受けて来ました」
「ぼ、冒険者? な、なんでもいい! 俺を助けてくれ!」
「いったい何があったんですか?」
その男は、びくびくと肩を震わせながらも、少しずつ話してくれた。
どうやら、この男は、この鉱山に送られた鉱山奴隷の一人らしい。
鉱山奴隷は、犯した犯罪の罪の重さによって値段が決められ、それを返しきるまで鉱山で働かされるというものである。
しかし、大抵の場合、貯まり切る前に事故に遭って命を落としたり、病気にかかって長くは生きられなかったりするようだ。
給金も安く、普通にちまちま稼いでいては、埒が明かない。
そこで、この男が目をつけたのが、ここにある魔石である。
魔石は、大抵大きさによって値段が決められており、大きければ大きいほど高い。
基本的に、大きな魔石は、強い魔物が持っていることが多く、市場に出回りづらいのだけど、鉱山でも、魔石を取ることはできる。
魔物が持つ魔石と違って、鉱山で採れる魔石は、そこまで高くはないらしいのだけど、それでも大きなものが取れれば、それなりの価格で売れるので、ここで大量に魔石を確保して、裏で売りさばけば、返済の足しになるんじゃないかと思って、ここに来たようだ。
まあ、結果はロックゴーレムに襲われて、足を怪我して立ち往生していたみたいだけど。
というか、そもそも、そんな裏で売買したお金で自分を買い戻せるとも思えないし、せいぜい日々の贅沢をするくらいしかできない気もする。
お金欲しさとはいえ、だいぶ無茶をしたものだ。
「話は分かりました。ひとまず、安全な場所までお送りしますね」
「あ、ありがてぇ! この恩は忘れない!」
「いえいえ、無茶しちゃだめですよ?」
「あ、ああ」
なんか、脱走ではないけど、抜け駆けしようとしていた人を送り届けるために、一度マルコスさんと別れた地点まで戻る。
別に、このまま帰ってもいいけど、まだロックゴーレムはいるようだし、狩り切るまでは帰れない。
この人のことは、マルコスさんに任せるとしよう。
「それにしても、裏で売ると言ってましたけど、そんなルートあるんですか?」
「あ、ああ。この町は、あんまり羽振りが良くないらしくてな、常に外に売るものを欲してるんだ。魔石は、どこにでも需要があるものだし、買い手も着きやすい。だから、一部の貴族共に売れるんだとよ」
「なるほど。貴族達も困っているってことなのかな?」
貴族というからには、お金を持っているんだろうけど、この町では、そのお金を作るための商品がない。
以前なら、金属製品が高く売れたのかもしれないけど、その生産量が下がった今、常に売るものを欲しているわけだ。
南区画の人達からは割と好評だと聞いていたけど、それを考えると、一部は南区画の人でも、不満を持っていそうだね。
「お、帰ってきたっすか。……って、なんでお前がここにいるんすか?」
「あ、え、へへ、ちょっと迷子になっちゃいまして……」
「んまぁ、抜け駆けしたい気持ちもわかるっすけど、今は大人しくしておいた方がいいっすよ? 少なくとも、アルマ鉱山社はあんた達を見捨てないっすから」
「マルコスさん……! ありがとうございます!」
何も言っていないけど、マルコスさんは男の目的を察したようだった。
にしても、アルマ鉱山社もお人好しである。
町に酷い扱いを受けながらも、こうしてしっかり仕事をしているあたり、その善性がわかるよね。
そうして優しくされている間に、町長も今の間違いに気づけばいいんだろうけど、無理だろうなぁ。
「それじゃあ、この方はお願いします。私は、まだロックゴーレムの討伐があるので」
「あいあい。にしても、ほんとに倒せるんすか? Bランクらしいっすけど」
「すでに二体は倒しましたよ。これが証拠です」
「おお、こりゃ凄い。いや、疑って悪かったっす」
「いえいえ」
感心した様子のマルコスさんに男を預け、再び立ち入り禁止区画へと入る。
さて、あとどれくらいいるかね。




