第二百二十三話:坑道探索
坑道内は、とても薄暗かった。
道中、ところどころにランタンがあるのは見て取れたが、そのほとんどが明かりが消されており、まともに照明として役に立っていない。
頼りになる明かりは、マルコスさんが持つ松明の明かりくらい。
鉱山内で松明を使うって結構危ない気もするけど、まあ、ガスが漏れ出ているとかそう言うことはなさそうだ。
だとしても、危なっかしいけどね。
「社長からどこまで聞いてるかわからないっすけど、出てくるのはロックゴーレムっす。それも確認できてるだけで五体も」
「結構多いですね」
「ええ。最初は少なかったっすけど、放置してたらこのありさまっすよ。労働者としては、さっさと駆除してほしかったんすけどね。そうしたら、お嬢さんが来てくれたってわけっす」
ロックゴーレムの被害は、結構前からあったらしい。
最初こそ、数も少なかったから、なるべく近寄らないようにして、難を逃れていたけど、駆除できないものだから、どんどん数が増えて行って、今の状況になったようだ。
一応、ロックゴーレムの出現頻度は、一般的にはそう高くはないらしいのだけど、最近は目に見えて頻度が上がっているらしく、未開拓の場所は軒並み通行止めになってしまって、採掘量も減っている。
利益を上げるためには、危険に飛び込むしかないけど、そうすれば今度は怪我人が増えて余計な出費が増えるから、ままならない。
もはや、まともに採掘できる人員は限られていて、責任者自ら採掘することも多くなったようだ。
「今の町長になってから、サービスが極端に悪くなったと聞いています。実際、労働者から見て、そう感じるものですか?」
「ああ、バリバリ感じるっすよ。自分でも、なんでまだこの仕事続けてんのかわからないくらいには最悪っす」
この町は、昔から北区画と南区画に分かれていた。
北区画は、鉱山を要する場所であり、町の主要産業である鉱石や、それを用いた道具などを生産するための重要な場所。
南区画は、そうして生産したものを売るお店や貴族などの居住区が集中する場所であり、町の顔とも言える場所。
どちらも重要な場所であり、この町は、その二つのバランスによって成り立っていた。
以前の町長は、それを理解しており、貴族の要望を叶えるべく、南区画の整備を進める一方で、労働者のための酒場や、質のいい道具の手配、公害対策など、様々なことに着手していたようだ。
しかし、今の町長は、北区画のことなど眼中にないかのように、それらをすべて廃止し、そうして浮いた金を、南区画の発展に回しているらしい。
おかげで、労働環境は劣悪になり、労働者は逃げていくばかり。名産である金属道具も生産が落ち込み、町の財政は見る見るうちに下がっていったようだった。
「そのくせ、ノルマを設けたり、夜も働けと言ったり、要求はいっちょ前にしてくるんすよ。一体、誰のおかげでこの町が成り立ってるのかと、文句言ってやりたい気分すね」
「今の町長は、なぜそんな暴挙に出たんですか?」
「んー、なんっすかねぇ。貴族の顔色伺い? それとも、臭いものには蓋をしろ的な? 泥臭い採掘作業に目を向けるよりも、華々しい店づくりの方が興味があるんでしょうね」
やはり、マルジナさんも言っていた通り、町長は酷い人物のようだ。
一体、どうしてそうなったのか、シンプルに疑問だね。
いくら労働者を下に見ているとしても、それらのサービスがなくなれば、効率が悪くなる。
仮に、それらのサービスをなくしたことによって一時的に金が浮いても、恒久的な収入は減るわけで、あまりに無駄が多いと思うんだけどな。
別に、急いで南区画を整備しなくてはいけない理由もなさそうだし、単純に、労働者を軽視しているだけのような気がする。
「町の財政は大丈夫なんですか?」
「まあ、当たり前っすけど、落ち込んでますね。主要な金属が軒並み産出量が下がってんすから、当たり前っすけど」
「町長は、それを問題視していないんですか?」
「問題視はしてるっすよ。ただ、それは俺達労働者の気合が足りないからだ、とかなんとか」
「うわぁ……」
今どき気合で物事うまくわけないと思うんだけど、この世界では違うんだろうか? なんだか同じようなことを前世で言われた気もするけど。
確かに、今や労働者の大半は鉱山奴隷らしいし、多少扱いが悪くなる程度ならまだわかるけど、これはどう見てもやり過ぎである。
反旗を翻されても、文句言えないと思うんだけどな。
「ま、いくら喚こうが効率が上がるわけでもないんで、適当に流してるっすけど、社長もそろそろ潮時と考えてるみたいっすし、そうしたらまたどっかの町に行って新しい仕事見つけるっすよ」
「マルコスさんは、しっかりしてますね」
「いんや、俺はただ受け流してるだけっすよ。まともに受け取ってたら身が持たないんで」
結構いい加減な人に見えたけど、今もこうして仕事をしているあたり、割と真面目な性格なのかもしれない。
受け流すスキルというのは、社会人にとって結構重要なものだし、それを持っているというだけでも、結構優秀な人材な気がする。
俺の場合は、全部真に受けて、言われた通りにやってたからだいぶ苦労したけど、俺もマルコスさんみたく受け流せていたら、もう少し人生変わっていたんだろうか?
まあ、今更過ぎた話だけど。
「……と、そろそろ着くっすよ」
話しながらしばらく進むと、少し広い通路にでる。
看板が立っており、立ち入り禁止と書かれているようだ。
とっさに気配を探ってみたけど、確かに何体か感じるね。それと、かすかに血の匂いもする。
もしかして、この先に誰かいるのかな?
「ちなみに、俺は戦えないんで、案内できるのはここまでっす。この先はお任せしていいっすか?」
「はい、大丈夫です。ここまでありがとうございました」
「いえいえ。一応、帰りのためにここで待機してるんで、終わったら声をかけてくれっす」
そう言って、マルコスさんは通路の側にある木箱に腰かけて、まだ明かりをつけていない松明をこちらに渡してきた。
まあ、この辺りもう真っ暗だし、明かりは必要か。
一応、魔法で明るくすることもできるけど、一応貰っておこうかな。
「では、行ってきますね」
「あい。幸運を祈るっす」
松明に火をつけ、立ち入り禁止の看板の先へと進む。
どうやら、この辺りは採掘されてからそこまで経っていないのか、そこまで通路が複雑ではないようだ。
ところどころに分かれ道はあるものの、これくらいなら暗記できる程度である。
「ふぇる、かんじる?」
「うん。後、かすかに血の匂いがするね」
フェルも、同じように気配を感じていたようだ。
血の匂いは、そんなに濃くはないけど、それなりに出血はしているのかな? まだ怪我してから間もないのかもしれない。
気配を探りながら先へと進む。
すると、次第に景色が少し変わっていくのがわかった。
先程まで、真っ暗で無機質な岩肌がむき出しになっていた坑内だったけど、この辺りは少し結晶質というか、火の明かりに照らされて、わずかに、きらめいているのがわかる。
これ、多分魔石かな?
鉱山でゴーレムが発生する原因は、魔石に意思が宿ってしまうため。そして、魔石は採掘をしているとたまに露出し、人目に触れることがある。
なるほど、最近になって、出現報告が多くなったのはこのせいか。
俺は、警戒しながら、松明の明かりを前に出す。
その先には、機械的な赤い瞳を覗かせた、岩の塊があった。




